転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ

文字の大きさ
20 / 49

打開策を考えよう

しおりを挟む

 
 死罪?

 まさか。

 そんなはずない。

 そのことばが、楔のように胸に突き刺さる。



「ウィリアムはかろうじて命はとりとめたよ。でも意識が戻るかどうかはわからない。ずっとこのままかもね。国王も時間の問題だ」

「そんなの嘘よ!」



「嘘じゃないんだよ。さあメアリ」

 ブライス公が手招きした。びくりと飛び上がったメアリは絶望的な顔をしていた。

「メアリ?」

 お嬢さまが声をかけた。メアリは半泣きの状態でブライス公のとなりに進みでた。



「おまえがしたことを話すんだ」

 なにをしたって? メアリは震えながら、口をパクパクしている。ことばがうまくでてこないみたいだ。

「メアリ。わかっているね」

 ブライス公がメアリの髪の毛をぐいっとつかんだ。



「わ、わ、わたしが毒を入れました」

 メアリが告白した。

 ……メアリが?

「ルイーズさまとルーク殿下に頼まれて」

 そう言うと、メアリはくずれるように床に伏してしまった。



「嘘よ嘘よ! そんなわけない!」

 お嬢さまが絶叫する。

「嘘じゃない。嘘じゃないんだよ」

 ジェームズがお嬢さまに向かってささやく。

「ルークとルイーズが手を組んでウィリアムを殺そうとしたんだ。自分たちが王と王妃になるためにね。おまえも殺されるところだった。よかったよ、間にあって」



「嘘……。嘘よ……」

 お嬢さまの肩がふるえる。

「お嬢さま! 惑わされちゃダメです!」

 一歩ずつ近づいてきたジェームズはもうわたしの目の前だ。わたしは盾だ。お嬢さまを守る盾なのだ。

「どけよ」

 お嬢さまにささやいたのとはまったくちがう、憎々しげな声だった。



 そう! こっちが本性だ。

 ジェームズがわたしのほほをぎゅうっとつかみ上げた。痛かった。でも負けない! わたしはジェームズから目をそらさなかった。



 ジェームズはほほをつかんだ手をそのままグイっと押した。

 よろけそうになったけど、わたしは踏ん張った。踏ん張ってなんとかお嬢さまの前を死守した。

 よかった。スクワットとプランクの成果だ。お嬢さまが後ろから支えてくれたおかげもある。



「いいか? 国王もウィリアムもルークも死んだらおれが国王だ」



 うそでしょう。



「おまえをおれの妃にしてやる」



 うそだーーー!



 お嬢さまは真っ青になって今にも倒れそうだ。ふたりで「ひし!」と抱きあって支え合う。

 どうしよう。どうしたらいい? わたしになにができる?



「ほんとうはカミラを正妃にしてほしいのだがね、ジェームズ殿下はどうしてもシャーロット嬢を妃にしたいと言って、聞かないのだよ」



 な、なにぃ?

 うわっ! ジェームズが赤くなってもじもじしている。キモイぞ!

 お嬢さまの口から「ひい」と小さく悲鳴が漏れた。



「しかたがないから、カミラには側妃で我慢してもらおう。それでも、わたしがジェームズ殿下の後ろ盾になるには充分だがね」



 ちょ、ちょっと待ちなさいよ。カミラってあんたの娘じゃないの? 自分の娘をそんな扱いするの? 信じられない!



「ええ、おとうさま。わたくしはウィルさまさえいらっしゃればいいのですわ」

 ……ウィウィウィウィルさま? え? ウィル?



「シャーロットさま。側妃とはいえあなたの立場を脅かすつもりはございません。わたくしはこの先ウィルさまのお側で生きていきます。どうぞ安心してジェームズ殿下との愛を育んでくださいませ」



 いや、なに言ってんだ、この女。ヤバい。すっかり目がイッちゃってる。こわいやばいこわい。

 お嬢さま! 白目をむいちゃいけません!

「お、お、お嬢さま! しっかりしてください。しっかりしましょう!」



「裏切られたシャーロット嬢をジェームズが愛をもって王妃に迎える。そして意識のもどらないウィリアムにカミラが献身的につくすのだ。どうだ。庶民が大喜びする美談だろう?」

 ブライス公が、にやりと笑った。



「シャーロット、そんな世迷言を聞くんじゃない。全部嘘だ。信じちゃいけない!」

 エバンス侯が叫んだ。



「うるさい! だまれ!」

 ブライス公はつかつかと近づくと、エバンス侯の頬を張り倒した。

 エバンス侯はイスごと横に吹き飛んでしまった。

「おとうさま!」

 駆け寄ろうとしたお嬢さまを、ジェームズが抱きとめた。



「いやあっ! 放して!」

 間に入ろうとしたわたしを、ジェームズが突き飛ばした。骨盤のあたりが、なにかの角にぶつかった。

 うう。自分の体幹を過信するものじゃないな。床に這いつくばるように倒れてしまった。



「侍女ふぜいが、出しゃばるんじゃない」

 唾でも吐きかけられるんじゃないかと思った。思わず首をすくめる。

「アメリア!」

 お嬢さまはジェームズにがっちりと捕まえられている。

 お嬢さま、ごめんなさい。離れてしまった。



「言うことを聞いた方が身のためだぞ。なあ、シャーロット」

 ジェームズの猫なで声が気持ち悪い。

「いやです」

 顔を背けるお嬢さまを抱く腕に、ジェームズは力を籠める。



 え? こいつ中身はセクハラオヤジなの?

 子どものくせにキモイんだけど。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...