転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ

文字の大きさ
26 / 49

逆襲だ!

しおりを挟む


「まずはルークの解放だ。それからウィリアムとともにブライスどもを捕まえる」

 なるほど!



「あの……。ルイーズさまは」

「……地下牢だ」



 マジで? まさかとは思ったけれど。

 それじゃあ、まるで犯罪者だ。



「は、はやくお助けしないと」

 声が震えた。

「うん」

 ヘンリー卿はしばらく首をひねったが「ルイーズ嬢が先か?」とつぶやいた。

 攻略の順番はあると思うけれど、わたし個人としては今すぐにでもルイーズさまを出してあげたい。

 だって、地下牢なんて令嬢が入るところじゃない。しかも無実なのに!



 それに、メアリさまが。



「……メアリか」

 ヘンリー卿がむずかしい顔をした。

「メアリさまが言ったんです。ルイーズさまの命令でが毒を仕込んだと」

 ヘンリー卿は腕組みをすると、考え込むように首をひねった。

「嘘ですよね。きっとそう言うように脅されているんですよ」

「……メアリのことは、後でいい」

 ごまかしましたね。なにかご存じですか。



「うん、そうだな。ルイーズ嬢を先にしよう。じゃないとウィリアムも納得しないだろう」

 ……そうですね。

 ちょっといろいろ気になるけど、助けるのは早い方がいい。

「では、ルーク、ルイーズ嬢、ウィリアムの順番だ」

「はいっ」

 とってもいいお返事ができた。

「見張りを倒してくるから、きみはここで待ってて」



 ヘンリー卿は返事を待たずに飛び出していった。え? 素手ですけど。



 えいっ! やあっ! とおっ!!

 そんな感じで瞬殺だった。

 え? いまなにをした?

 

 走って向かったヘンリー卿の前に立ちふさがった見張りの手を払うと、みぞおちに一発。

 続いて殴りかかって来たふたりめをしゃがんでかわすと、つんのめった相手の襟首をつかんでから、腹にひざげり。

 ふたりとも「ぐへぇ」とみっともないうめき声を上げてうずくまってしまった。



「なにをしている!」

 異変に気づいて廊下の向こうから走って来た別のふたりは、背負い投げとハイキックで吹きとばした。

 すごーい! 長い足がみごとに後頭部を直撃だ!



 やだー! なにこれ! カッコいい!



 あっという間に、全員をのしてしまった。

「おまたせ」

 息のひとつも切らせずにわたしに向かってにっこりと笑った。

「す、すごいですーーー。カッコいいですーーー。教えてくださいーーー」

 胸のところでぱちぱちと小さく拍手をした。

 こんなことを臆面もなく言えるのは、おばちゃんゆえの図太さのなせる業だな!



 ヘンリー卿もちょっとだけ照れている。それもまたよし!

「ご令嬢がやることじゃないよ」

「でも、あれができたらお嬢さまをお守りできますよ」

「きみは護衛の仕事を取るのかい」

「ええー。やってみたいなーー」

 しゅしゅっ、とシャドウボクシングのマネをしてみる。

 ヘンリー卿はくすりと笑った。

「さあ、行くよ!」

 うん、そうだね。いまはそっちが大事でした。



 見張りの衛兵を、えいっ! やあっ! とおっ!! っとやっつけて。

 コンコンコン。

 ルーク殿下の執務室の扉をたたく。返事を待たずに扉を開けると背中を押された。続いてヘンリー卿が入って来た。



「おや、ジョージもいっしょだったか」

 ヘンリー卿はたいして驚きもせずに言った。ふたりとも、外の物音に身構えていたのか、立ったままだった。

「おう、ヘンリーだったか。こんなの窓を伝えばすぐさ。となりだもん」

 いつものようにヘラヘラとジョージ・クラークは言った。



 窓を伝って? ここは三階ですが、そんな器用なことができるんですか。ヘラヘラしてるのに。

 王子の従者を任されるくらいだから優秀なんだろうけど、そうは見えない残念なヤツだ。



「アメリア! そのほほどうした?」

 やっぱり目だちますか。

「ジェームズのやつにやられたんだ」

 なんでヘンリー卿が答えますか。

「なに? ジェームズが?」

 ルーク殿下はぎゅと眉を寄せた。



「それよりも、シャーロットお嬢さまの危機です!」

「なにい!」

 ルーク殿下は掴みかからんばかりだ。

「シャーロットがどうした!」

「今、エバンス侯といっしょに二階に軟禁されています。ジェームズにくどかれています!」

 殿下はちっと舌打ちをした。

「くそう! あのヤロー、ゆるさん!」

 王子さまも舌打ちするんですね。



「国王陛下と王太子殿下が亡くなって、ルーク殿下は死罪になるとブライス公が言いました。それでジェームズ殿下が国王になると。シャーロットお嬢さまを王妃にするって言いやがるんです、ジェームズのヤロー」

「なにい!」

 ルーク殿下は「ぶちのめしてやる!」とこぶしを突き上げた。



「わかった、わかったから」

 ヘンリー卿がなだめる。それからおおまかにこれまでの経緯とこれからの計画を話して聞かせた。

「兄上が無事でよかった」

 事情も分からないままに監禁されてしまったルーク殿下とジョージ・クラークはともあれ胸をなでおろした。



「うん、ではルイーズ嬢を助けに行こう」

 ルーク殿下が先陣を切る。



 わたしたちは殿下に続いて廊下に出た。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...