40 / 49
罪と罰
しおりを挟むそれからしばらくして、国王陛下から謀反に加わった者たちへ処罰が下された。
ブライス公一家は斬首。うひゃー!
でも日本だって、百年ちょっと前まで死刑は斬首だったわけだし。
中世ヨーロッパも斬首だったし。ギロチンなんてものまであったし。
法治国家ってすばらしいな。
ブライス公爵家は取り潰し。一族の内、ブライス公に加担した者は斬首。加担しなかった者は領地没収の上、国境の地へ強制移住。国境警備の任につく。
王都で華やかに暮らしていた者にとっては、きびしい生活になるのだろうな。
グレイ伯爵一族(イザベラ側妃含め)も同罪同罰。
ジェームズ殿下は牢獄塔へ幽閉。
事の顛末は――。
ブライス公による王位簒奪計画は、イザベラを側妃に上げたことから始まる。じつに十八年におよぶ壮大な計画だった。
カミラが王太子妃になればそれでよかったのだが、イザベラを側妃にしたのは、なれなかったときの保険だった。
王太子妃がカーソン公の娘に決まったときは、くやしさのあまり思わずカミラに「役立たず」と罵ってしまった。
しかたがない。実際に役に立たなかったのだから。
公爵家の嫡男として生まれ育ったのに、なにをまちがって、このような権力に執着した歪んだ人間ができ上ってしまったのか。
そのくせ計画を立てる頭脳と行動力があるから質が悪い。
若いころから子分扱いしてきたグレイ伯をまきこみ、イザベラを側妃にねじ込んだ。うまい具合にイザベラは王子を生んだ。
しめしめ。
イザベラは、見かけばかりがいいバカだが、役に立った。
国王と上のふたりの王子を抹殺さえすればこのジェームズを王にできる。イザベラは王太后。グレイを使って国政を自分がつかさどるのだ。
カミラを王妃にすれば盤石である。
それなのに、ジェームズはシャーロットを王妃にしたいと言い出した。
まったく、色気づきやがって。
だがそのおかげで、国王一家を葬り去るいいシナリオを思いついた。
カミラがルイーズを毛嫌いして嫌がらせをしている。
ルイーズがいなくなれば王太子はカミラのものになる。
ではまず、ルイーズと王太子を排除しよう。
仲睦まじいふたりだが、どちらかが裏切ったとなれば、さぞや絶望の淵に落とされるだろうな。
不貞を働いた。なんてとてもいい裏切りだ。
王太子とシャーロット。もしくはルークとルイーズ。
そこに加わるのが、カミラとジェームズ。
この六人で民衆が大喜びする芝居を作りあげるのだ。
なんとすばらしい!
ブライス公はおのれの思いつきに、手を打って喜んだ。
いやいや、だからさ。人の気持はどうなんだ!
謀反から三週間後、刑は執行された。
カミラが正気を取り戻すことはなかった。刑場に引き出されても、幼子のように無邪気に笑いながら「アンジェラ」に話しかける姿に、刑を見届けに来た人々は目を覆った。
あの高慢で貼りつけたような薄い笑みを浮かべたカミラしか知らない人々は、とても同じ人物とは思えなかった。変わり果てたカミラはみなの涙を誘った。
ふしぎなことに、あれほど執着していた王太子のことはなにも覚えていないようだった。現に刑場においても、王太子のことは一瞥もしなかった。
死刑台に上げられ膝をつかされても「アンジェラ」を呼びつづける。その、刑場には不釣り合いなあどけない声は何年たっても何十年たっても人々の耳に残って消えなかったという。
ブライス公は手枷足枷をはめられ、死刑台の横に跪かされ、一族全員の死を見届け、いちばん最後に刑を執行された。
いったい彼は、我が子の様をどう思ったのだろうか。やつれて落ちくぼんだその目に、幼子にもどってしまったカミラはどう映ったのだろうか。
せめて「申し訳なかった」と思ってほしい。
メアリは修道院へ送られることになった。王太子に毒を盛ったのだ。本来なら斬首になるところだが、巧妙な罠にはめられ脅されたことから、斬首は免れた。
そのかわり、終生懺悔せよ、と陛下の命が下ったのだ。
闇賭博場は摘発を受け、黒幕はやはりブライス公であると胴元はあっさり白状した。
アランを罠にはめた友人は、わずかばかりの報酬で深い考えもなく請け負ったのだった。
けっきょく、闇賭博にかかわったとして検挙され、厳罰に処せられてしまったが。
そもそも闇賭博が違法なので、アランの借金は帳消しになった。
ウッドヴィル伯爵は、当主を遠縁の者にゆずり、アランともども領地で農業や牧畜に従事し、新しい領主の手伝いをするという。
こうして謀反は収束した。
90
あなたにおすすめの小説
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる