43 / 49
叙勲!?
しおりを挟む我が家の玄関前に、王家の馬車が到着した。白に金の装飾が施された豪華な馬車に、二頭の白馬。正装した御者。
我が家も正装した家族全員、それから使用人一同が一ミリの乱れもなく整列してお迎えする。
玄関の前にピタリと止まった馬車から降りてきたのは、これまた正装したえらい大臣。
「国王陛下よりの親書を持ってまいりました」
ははーっと一同が頭を下げる。
大臣の後ろからお付きの人が深紅のビロード張りの盆をうやうやしく捧げ持つ。
盆の上には封書が二封。あて名はおとうさまとわたし。
ひえーーー!
叙勲されるそうです。勲章です。
つまりごほうび。
この前の謀反の際、国王陛下ならびに王妃殿下、王太子、ルーク両殿下、さらにはルイーズ・カーソン公爵令嬢、エバンス侯爵およびシャーロット侯爵令嬢を助け、謀反人一味の捕縛に尽力したごほうびです。
ひえええ!
どうしましょう。そんなにたいそうなことをしたつもりはありませんでした。ただ、ついて行っただけなんです。
これで恩を売ってお嬢さまの侍女の座を死守しようなんて、姑息なことを考えてすみませんでした。
わたしとおとうさまのほかに、カーソン公爵、ヘンリー・パウエル侯爵子息、ジョージ・クラーク伯爵子息の五人が叙勲されることになった。
「えええ? わたしはいいですぅ。おそれおおい」
カーソン公と同列にならべるわけなかろう。わたしがならべるのなんて、ジョージ・クラークが関の山だ。
「ぜひお受けなさいな。あなたが来てくれた時ほんとうに安心したのよ。呪いのお話はとっても気が晴れたのよ」
ルイーズさまはそうおっしゃるが。
「いえいえ、わたしはただついて行っただけですから」
「なにを言っているの。あなたは身を挺してわたしを助けてくれたじゃないの。ほんとうに感謝しているのよ。ルークさまだって、あなたの望みならなんでもかなえてあげるっておっしゃったわ」
お嬢さままでそう言ってくる。それは永久侍女の座を確約していただくだけでよろしいのですが。
まあ、お断りなんてできるはずもありません。お嬢さまがとってもうれしそうににこにこしていらっしゃる。
お嬢さまが喜んでくれるならいっか。
関係者の処罰が終わり、国王陛下も王太子殿下も無事に回復なさった。
エバンス侯も回復なさった。
なぜあのとき、エバンス侯が倒れていたのか。
バタバタとやって来たわたしたちの足音を聞いて焦ったジェームズは、お嬢さまを盾にしようとした。
それを阻止しようとジェームズに手をのばしたエバンス侯を、ブライス公が殴り飛ばしたのだった。
飛ばされた拍子に頭を打って昏倒したわけだ。
回復はしたものの、こめかみに三センチほどの傷が残ってしまった。
逆に、その傷でイケオジに磨きがかかってしまった。少々の傷は色気が増すんですな。
カッコいいです、はい。
PTSDとか心配したけれど、お嬢さまは案外けろりとしている。儚げに見えるのは見掛け倒しだ。
ぷるぷる震えながら実は図太かったりする。たぶんなにかを気に病んで眠れない、なんてことはない。どんなときでも、ふとんに入ったら五秒で寝るタイプ。
そして悲嘆にくれることもない。なにがあっても、ふんすと立ちあがる。
それがシャーロットお嬢さま。
ルーク殿下はそのギャップにやられているんだな。
わかりますよ、ギャップ萌え。
ルーク殿下とお嬢さまについて語り合ったら一晩じゃ足りないな。そして「自分のほうがよく知っている」とどっちも譲らない。そのうち殴り合いにまで発展しそう。おそろしや。
ルイーズさまもだいじょうぶそうでなにより。ただ、あれ以来ティーケーキがきらいになった。しかたがない。トラウマでしょうね。もしかしたらこれから王宮でティーケーキが出ることはないかもしれない。
そして騒動から二か月後、叙勲式と記念の夜会が開かれることになった。
102
あなたにおすすめの小説
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる