転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ

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婚約の行方

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 王宮で六日間。さらに自宅で六日間療養をした。足の痛みもなくなり、おでこの擦り傷も無事にかさぶたが剥がれて、うっすらと跡が残る程度になった。

 お化粧でかくせばわからない。

 若いってすごい。傷の治りも早い。



 それでめでたく侍女に復活した。

「もっと休んでくれてもいいのだけれど、やっぱりアメリアがいないとこまるの」

 なんてお嬢さまが言う。

 うん、うれしい。これまで以上にがんばります。



 落ち着いてみると、あの夢はなんだったのかと思う。

 希望が見せた自分に都合のよい夢だったのか。それにしてはやけにリアルだった。

 それとも意識不明の間、意識だけがこの世界を離れてあちらの世界をのぞいてきたのか。

 どちらにしても、あちらへ帰ることは叶わないのだな、と納得してしまった。

 こちらでアメリア・ハミルトンとして生きていくしかないのだ。

 それならそれで、すっきりとあきらめがつく。

 この疲れ知らずのシミもシワもない若い体なら、がんばれるよ。



 あのヤロー、アンディ・ブランドンは一度だけお花が届いただけで、見舞いにすら来なかった。



 もう別にいいし。

 そんな花屋の店先の見本みたいな花束いらん。お見舞いなのに、赤や黄色のけばけばしい花束。

 たぶんこれ、お祝いにあげるやつだよね。

 やっつけで贈ったんだな。



 それに、ヘンリー卿が毎日お花を贈ってくれるし、お見舞いだって何度か来てくれた。家族一同の歓迎付き。



「ヘンリーと呼んで」

 そんなことを言われて。

 ええ……。……。もじもじ。てれてれ。

 もちろん、節度のあるお付き合い。いや、ただのお見舞いだし。



 王太子の侍従と王子妃の侍女。まちがっても醜聞なんていけません。



「よし! 婚約破棄だ!」

 おとうさまが張りきった。なぜ。

「浮気の証拠はここに!」

 おにいさまも張りきって書類の束を掲げる。なぜ。



 ブランドン家を呼びつけて、浮気の証拠を突きつけて婚約破棄を申し入れた。もちろん慰謝料も請求した。



 わたしはその場に出なかった。出なくていい、とおとうさまも言ってくれたし、もうアンディの顔も見たくなかったし。

 交渉はおとうさまとおにいさまがうまくやってくれた。



 アンディはごねたらしいが。

 いや、わからん。これだけのことをしておいて、何事もなかったように結婚なんてできるわけなかろう。

 どういうつもりなんだ?



 あっちの女は愛人にでもするつもりだろうか。

 ここまでコケにされてゆるせるわけないのに。ふざけんな!

 バーカ!



 もちろん、浮気相手にも慰謝料は請求した。わたしの療養中もふたりで仲よくお出かけしていたようだから、諸々上乗せで。

 多額の請求にステイシー家は青くなったそうだけど、当然だろう。

 金を払うのがいやだったら、娘を諫めるべきだったのだ。

 ステイシー家の懐具合は知らないが、おにいさまは全額耳をそろえてむしり取ってきた。

 さすがおにいさま、優秀です。



 そんなわけで金持ちになったわたし。

「おめでとう、でいいのかしら」

 お嬢さまが首をかしげる。

「ええ、もちろん。すっきりさっぱりいたしました」

 にっこりとほほ笑むわたし。

「これでわたし、ずっとお嬢さまの侍女ができますよ」

 お嬢さまはちょっと微妙な顔をする。

「それはうれしいのだけど。アメリアの次の婚約者の方はゆるしてくださるかしら」

「次はなくてもいいんですよ」

 そう言ったらお嬢さまはぴょこんっと飛び上がった。



「ええっ?」

「もう結婚なんてこりごりです」

「まだしていないじゃない」

 そうだった。うっかり、うっかり。

「でもほんとうに結婚はしなくていいから、ずっとお嬢さまの侍女ができればいいなと思っているんですよ」

 

 うれしい反面、複雑なお嬢さま。お口が微妙にもごもごしている。

 うん、かわいいです。



 今回のわたしの活躍(?)で王家とエバンス家に恩を売れるんじゃないかとほくそ笑んでいるわたし。

 お嬢さまが嫁に行っても侍女としてついて行こう。とごり押ししてもいいんじゃないだろうか。

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