盲目魔法使いの摩天楼攻略記

熊虎屋

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第一章

摩天楼に閉じ込められた!?

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どうも初めまして!
ナターシャ・コルギと言います!
至って普通の女の子…と言いたいところですが、欠点が沢山あります。
まず私、盲目なんです。
生まれつき左目がなく、そして右目も見えないって言う。
とても多くの人に怖がられるため左目は常に黒い眼帯を着けています。


「さ、練習練習!」
そしてもう一つの大きな欠点。
それは、魔法を使えない魔法使いであること。
全人類が4歳になったら受けなければならない、適正検査という検査があります。
それで私は【魔法使い】の適正を受け、魔法の練習を何年も続けていましたが、全く魔法が使えません。
盲目で底辺の魔法使い。
そんな全く使い物にならない私は、家族に捨てられました。
その後はモンスターの出ない草原に家を建て、静かに暮らしています。
それでも誰かの力になりたい。
そう思って魔法の練習を続けています。


「集えマナよ。
秘めたる力を熱と化せ。
火球ファイアボール!」
魔導書に書かれてある通りに詠唱をするのですが、このように全く何も起きません。
「はぁ…」
そう溜め息をついていると、何故か声が聞こえてきた。
「こんな所にいたんですね。」
「わっ!?
だっ…誰ですか!?」
私は驚きを隠せず、とんでもない声を出してしまった。
「あ、驚かせてしまってすいません。
僕はソリッド村という村の底辺魔法使いです。」
同じ境遇…?
「村を追放されてから各地を彷徨い、あなたの噂を聞きつけてここに辿り着きました。」
「なぜ私なんかの噂が…?」
何もしてないはずだけど…
「ここ、モンスターが出ないでしょ?
そこに住んでる魔法使いがいるって噂をある街で聞いたんですよ。」
なるほど。
「ということは、何か用があるんですね?」
「…お察しがいいですね。
僕と共に魔法使い向けの摩天楼に行きませんか?」
「ま、摩天楼!?」


【摩天楼】
天に届くような超高層のダンジョンの総称。
低ければ低いほど強いモンスターが出てくる通常のダンジョンと違い、高ければ高いほど強いモンスターが出てくる。


「あ!
もちろん初心者向けですよ?
階層も50階で、出てくるモンスターも魔法に弱いです。」
うーん…
魔法を使えない私にとったらモンスターなんかどうしようもないんだけど…
「分かりました。
行きましょう!」
私には、摩天楼に行かなければならない理由がある。
「本当ですか!?
やったー!」
今、この男の人がどんな顔をしているかはわからない。
ただ、私は目的を果たすために行く。
「準備、してきます!」
私はそう言って勢いよくドアを開けた。


「摩天楼には各層食料と水があるって聞くしそこは大丈夫。
じゃあ杖とローブと魔導書と…これ!」
私はひいおじいちゃんから貰ったネックレスを着け、またドアを開けた。
「できました!」
「じゃあ早速行こうか。」
私は男の人の足音を頼りに、歩き始めた。


「盲目と聞いていたんですが…
歩くのとか怖くないんですか?」
「もう10年ぐらいこの生活ですから。
だいぶ慣れてきましたよ。」
「へー…
あ、自己紹介してなかった。
僕の名前はダーリア。
あなたは?」
「私はナターシャです。」
「ナターシャさん…
改めて、よろしくお願いします。」
「はい、お願いします。」
そしてそれからは会話がなく、静かに進む。


「そういえば、その眼帯は?」
私の左目の眼帯を指しているのだろうか。
そんな気がする。
「あまり人には言わないのですが…
私、生まれつき左目がないんです。
だから眼帯を着けているんですよ。」
「へ、へー。」
ダーリアさんは少し気まずそうにしていた。
「あ!
もう見えてきましたよ!」
1時間半ほど歩いただろうか。
ダーリアさんはそう言った。
「もうですか!
楽しみですね!」
どれぐらい高いか、どれぐらい威圧があるかは近くに行かないと全く分からない。
けど、ただ楽しみだ。
「少しスピードを上げますか。」
足音のペースが上がった。
それに合わせて、私は歩いた。


「さて、着きましたよ。」
あれから数分でダーリアさんはそう言った。
「高い…ですね。」
「え、分かるんですか?」
「もう慣れてきたので、少し分かるんです。
周りの風景とか。」
鮮明に分からなくとも、高さや長さなど少しは分かる。
「では、早速入りましょうか。」
そう言ってダーリアさんは重そうなドアを開けた。
「先に入って下さい。」
そう言ってくれたので、私は入った。
小さい段差を杖で確認しながら入った。
すると…
バーン!
という音が鳴った。
「何!?」
私はそう叫んだが、ダーリアさんの声は聞こえない。
すると、脳にある声が響いた。
(ざまぁみろガキが!)
ダーリアさんの声が響いた。
「何するんですか!」
そう叫んだが、返事は返ってこない。
(お前の親に依頼されてな。
お前がバカで助かったぜ。
生憎とここは最難関摩天楼。
ここで大人しく死にな。)
プツン。
と言う音が脳に響く。


また、見捨てられた。
そんなことを考える。
そしたら、私の右目からは涙が出た。
膝から崩れ落ちそうになった。
けど、踏ん張ってこう叫んだ。
「泣いちゃダメ!」
私は自分にそう言い聞かせ、涙を拭った。
「何のために練習してきたと思ってるの!」
私はそう言って杖を強く握った。
すると、声を聞いてきたのかモンスターの
声が聞こえた。
「ギギャッ!」
「これは…ゴブリンの声?」
そしてその音の近くからするピチャピチャという水のような音はスライムだろう。
「割と近い…」
あと5分ほどでモンスターの視界に私が映るだろう。
「フゥ…」
私は一度深呼吸をきめる。
「よし。」
私は炎適正があると言われたので、これまで炎魔法の練習しかしてこなかった。
だから、今回は他の属性の魔法も試してみたいと思う。
「集えマナよ。
秘めたる力よ氷塊となれ。」
私はそう言ったが、何も起きない。
「集えマナよ。
秘めたる力よ雷となれ。」
何も起きない。
そう悠長にしている間に、モンスターはかなり近くまで来ていた。
「あーもうこんなとこで使うつもりじゃなかったのにー!」
私はひいおじいちゃんから貰ったネックレスを外した。
そして、そこについている鉱石を杖にぶつけて割った。
すると、杖に何か変化が起きたような気がした。


「これは…?」
その瞬間。
(あーあー。
聞こえるか?)
聞き覚えのある声…
「これってまさか…ひいおじいちゃん!?」
私の脳内に突然流れてきた声は、ひいおじいちゃんのものだった。
(これを聞いてると言うことは、割ったと言うことじゃな。
ようやく、摩天楼に来たか。)
私は固唾を飲んだ。
(この鉱石にはな、ナターシャの力が封じられていたんだ。)
どういう…こと…!?
そんなことを思うが、ひいおじいちゃんの言葉は止まらなかった。
(すまないナターシャ。
お前を助けるためだったんだ。
お前が宮廷魔法使いにならないように。
お前は本当は優秀な魔法使いなのだ。
だから、お前の魔法の適正を間違いの炎にした。
全てはお前のためだ。
…といいたいんだがな。
お前が摩天楼を攻略する姿が見たいだけなのかもしれん。
天国にいるかもしれないジジイの願い、一つ聞いてくれんか?)
随分とお節介して貰ってる…
(そして最後に。
お前の本当の適正は、闇魔法だったんだ。)
プツン。
と、聞こえた。


「分かったひいおじいちゃん。
私に任せて!」
私はそう言いい、ゴブリンとスライムのいる方に顔を向ける。
「集えマナよ。」
そう言った瞬間、私の杖に大きな重みを感じた。
特に、先端の水晶の部分。
「秘めたる力よ闇となれ。
スクーロ・アスティーレ!」
私は走ってくるゴブリンに杖を向けた。
するとゴブリンの影から数本の闇の槍が突き出され、腕や胸を貫いた。
「ギアァァ…!」
ゴブリンを1体倒した。
あの、底辺魔法使いの私が。
やったー!
と喜びたいが、まだ戦闘は終わってない。
相手はスライム。
攻撃力は低いが防御、自己回復力が高い。
なら!
「集えマナよ。
秘めたる力よ闇となれ。
スクーロ・ティラーレ。」
私は杖を両手に持って上に向けて闇の穴、ブラックホールを作った。
するとその穴はスライムを吸い込んだ。
「なんとなく見た覚えのある魔法を使ってみたけど…
この魔法強い。」


ブラックホールを消したため、スライムは跡形もなくなったと思う。
「摩天楼からの脱出方法は最上階をクリアすることだから…」
完全制覇しないといけない。
「けどダーリアさん…いや、ダーリアが最難関って言ってたような…」
1人で攻略はかなり厳しいだろう。
空気中のマナには限界があるし、何より私の体力とMPが足りない。
「というかMPってどうやって回復するんだろう。」
初めて魔法を使ったから全く分からない。
「まぁいいや!
とりあえず進めるところまで進んでみよう!」


最終目標は最上階なんだ。
進まないわけにはいかないよね。
「そういや闇魔法って眷属召喚できたような…」
私の欠点は盲目であること。
盲目に慣れてきたとはいえ探索、戦闘となると話は別になる。
なら私に情報をくれる眷属がいた方がいいに決まってる。
そしてあわよくば強い眷属を手に入れられたら…


「本に書いてあった通りにやってみよう!」
次の階に行くまではモンスターは湧いてこない。
だからゆっくりできる。
どの階層にも食料はあるし、大丈夫だ。
「集えマナよ。」
私は杖を掲げるように持った。
確かここはこれで詠唱ができるはず。
「闇魔法、コンボカーレ・スキアーヴォ」
この魔法名はとある国の言語らしい。
私には関係のないことだが。
「あれ、何も起きない。」
MPも消費されていないみたいだし、魔法が発動しなかったのだろう。
私は倒れ込んだ。
「やっぱりそう上手くはいかないよねー。」
そんなに順調に進んでては面白くもない。
「それより他にこの摩天楼に挑んでる人はいないのかな…」
こんな大きな摩天楼が堂々と建っているため、誰かがいてもおかしくはない。
「でもいないのかな…」
摩天楼のモンスターの復活までの期間は45日程と言われている。
そのため、一階層にモンスターがいたと言うことはここ最近人の出入りがなかったと言うことだ。
「あまり期待はできないかな…」
外からの助けを待つのも善策ではなさそう。
「だった前に進もう!」
私は地面に杖を突きながら歩く。
段差の確認をしながら歩いているが、それでも足場があまり良くないため躓いてしまう。


ゆっくりと歩いていると、杖が壁にぶつかった。
だが上にずらすと何もない。
ということは…
「階段だ。」
階段の隣にある部屋に食料があるらしいが、一階層ではあまり体力もMPも消費しなかったので、食事は取っていない。
「一旦3階層まで行ってみよう。」
私はそう言って階段を登ろうとした。
その瞬間、後ろから圧と視線を感じた。
「誰!?」
そう聞くが誰からも返事は来ず、気配も感じなくなった。
「誰だったんだろ…」
雰囲気的に人外であったことは分かる。
ただ…
「敵じゃなさそう…?」
根拠?
知らないそんなもの。
多分女の勘というものだ。
「ま、いいや。
とりあえず進もう。」
急な階段を登りながら私は、探知魔法使いたいなーと思った。


「よし、2階。」
割と長かった階段も終わりを迎え、2階にやってきた。
そういえば、左目がなくて右目が盲目って言ったけど詳しく言うと少し違うの。
完全に盲目なんじゃなくて、右目だけは明るさぐらいなら分かるんだ。
「あれ、誰に向かって言ってるんだろ。」
私は少し疑問に思いながら歩いた。


「むむっ、敵。」
今度はオークだろうか。
ゴブリンとは違った荒い息が聞こえる。
「さてどうしようかな。」
というか最難関なだけあって凄い。
2階でオークが出てくる摩天楼なんて聞いたことないよ…
「ま、閉じ込められちゃったし結局はやらなきゃだもんね。」
確か摩天楼の中は時空が歪んでおり、老いる速度が現実の100分の1ほどだとか。
しかもその原因が全く分かっていない。
凄い場所だよね…


オークの弱点は確か牙だった気がする。
でも牙なんてそんな小さい的を狙える魔法なんて…
闇魔法で考える限りそんな魔法、私は知らない。
「だったら狭い範囲攻撃魔法で!
集えマナよ。
闇魔法、リストレット・アッチェカーレ。」
私はオークの口の中を少し吸引力のある闇の球で狭く塞ぎ、実質的に牙にダメージを与えた。
「グオォォ…」
声的にダメージが入ったのだろうか。
多分ノックバックした。
「効いてる…?」
でもまだ生きているはず。
「集えマナよ。
闇魔法、カデーレ・ドラギナーサ。」
私は影で出来た大きな剣を召喚した。
そして杖を振り下ろすと、剣はオークの体に刺さった。
「これ強い…」
オークは多分消滅した。
まだまだ威力は弱いが、範囲は広く消費MPも少ないためコスパもいい。
スクーロ・アスティーレと組み合わせたらかなりの物になるかも…?
敵の大きさ、数、強さに合わせた魔法の使い方を覚えていこう!
私はそう決意し、歩き始めた。


「えっと次は3階だよね。」
1階がスライム&ゴブリン、2階がオークとなると次は…
「リザードかな?」
簡単に言うと二足歩行の爬虫類。
武器は三又の槍を使ってくる。(らしい)
移動速度が少し速く、群れで行動しがち。
2,3体来てもおかしくない。
「魔導書読んで集団戦に強い魔法をっと…」
闇魔法については初歩的な魔法しか覚えていなかったため、調べないといけない。
そこで持ってきた魔導書を取り出し、調べた。
あ、盲目なのになんで本が読めるかって?
そう言う生活魔法があるんだ。
本を持ちながらその魔法を使うと、内容が分かりやすく頭に流れ込んでくる的な。
これ、本を読むのが嫌いな人用に作られたという説があるが私にとっては革命的な魔法だ。
このように、使える生活魔法は数個ある。


先ほども言ったが一度モンスターを倒すと異変がない限り45日は復活しない。
なので私はゆっくり調べることにした。
「えっと集団戦に強くて火力もある魔法………これだ!」
私は調べ終わり、一回だけ撃つことにした。
杖を掲げ、詠む。
「集えマナよ。
闇魔法、アッコルタ・ボット。」
すると闇が吸引を始め、3秒後に爆発した。
「おー!
爆発系統!」
炎魔法の上位互換に爆裂魔法と言うものが存在する。
それに比べたら完全に見劣りするが、リザードだし全然大丈夫だろう。
「よし、これならいける。」
MPには余裕がある。
やはり3階を突破してから休憩するのが一番良いだろう。
「行こう!」
そう言って私は階段を登った。


「おー。」
さっきと一変し、湿地帯のような湿気だ。
理由は水のマナが多いからだろう。
「じゃあやっぱり…」
私は右側を見た。
「だよね。」
そこには4体のリザードが槍を構えて立っている。
想定よりも1体多いが、あまり気にしないでおこう。
「さっきと同じようにやれば…」
そう言って私は杖を掲げた。
「集えマナよ。」
そう言うと、何故かMPが一気に減った。
「!?」
でも、そんなことを気にしている場合じゃない。
「闇魔法、アッコルタ・ボット。」
魔法は成功した。
吸引を始め、少ししたら爆発した。
リザード全員が被爆したと思われる。
が、誰1人倒れていない。
「なんで…?」
想定と全く違うシナリオだ。
せめて一体は倒したかったのに…!
「集えマナよ!」
私はまた杖を掲げたが、MPが切れて膝をついた。
「えっ…?」
もう、魔法を撃てない。
「なんで…どうして…!」


理由は明らかだった。
ただでさえ使い手が少ない闇魔法。
そのため、空気中に闇のマナが余っていたのだろう。
だから、これまでは少ない消費MPで魔法を撃つ事ができた。
しかしこの階層は違う。
明らかに水のマナが多い…というか水のマナしかない。
なので自分のMPを消費する必要があった。
しかし私には中級魔法を撃つことでMPを切らしてしまう程しかなかった。
「ここで終わりか…」
少しダメージを食らったリザードは足並みを揃えて少しずつこちらに近づいてくる。


10数秒後、目の前に来た。
「はぁ…」
こうなることは目に見えていた。
だが…
「まさかこんな早いなんて。」
私は目を瞑り、死を悟った。
その瞬間だった。
「ダメだよ。
こんな危ないところに魔法使いが…ましてや女の子が1人でなんて。」
私は後ろから聞こえてきた声にびっくりして目を見開いた。
「大丈夫、僕がなんとかする。」
その男の人は剣を構えた。
「何あの武器…」
剣…じゃない!?
長さが違う。
私はマナの流れで長さ、大きさ、形を微かに把握して、それが何か考えた。
アレは…何かの本で載っていた事がある気がする。
「まさか…刀!?」
「お、正解。
使い手が少ないから知らないと思ってた。」
私も実物が近くにあるのは初めてだ。
「リザードさんよ。
女の子相手に集団リンチなんて…少し野暮じゃないか?」
そう言って男の人は刀を鞘と言われる入れ物に納め、屈むように構えた。
「さて、終わりにしよう。
焔火抜刀術攻ノ型八式【蒼壊炎そうかいえん】」
そう言って男の人は刀を縦、横の順に振った。
「炎魔法と組み合わせてる…!?」
焔火…って言ってたしそうかも…?
そんなこんなでリザードは消えた。


「大丈夫?」
男の人はそう声をかけてくれた。
「あ、大丈夫…なんですけどMP切れで立てなくて…」
「あーなるほど。
それならこうだ。」
男の人は突然私の背中に手を当てた。
「な、なんです!?」
「ちょっと待ってて。
今、魔力を君に与えるから。」
魔力を与える…?
そんなことを思っていたら、MPがどんどん回復していった。
「これで大丈夫かい?」
「は、はい。」
「MPは普通の食事でも回復できるけど、こんな感じに人から貰うこともできるんだ。」
なるほど…
「え、でも貴方も魔法を使うんじゃ…」
「あーあの技?
アレは炎が錯覚で見えるだけでそんなことないよ。」
なんですかそれ…


「ところでお名前は?」
2人で食事をしていたら、そんなことを聞かれた。
「私はナターシャです。
魔法使いをしてます。」
「よく1人でここまで上がってこれたね…」
確かにそう言われたらそうだ。
普通に考えたら難しいだろう。
「あ、僕はアルトリア・グラシアル。
アルでいいよ。」
「ア、アルトリア・グラシアル…ってあの!?」
「お、知ってるんだ。」
とても有名な貴族の家系で、かつては国王をやった人がいるほどの貴族だ。
「あのリィ・グラシアルの子孫…」
アルメリア王国の先々代国王を務めた人だ。
「今は死んじゃったけど、優しくて強いひいおじいちゃんなんだ。
僕の誇りだよ。」
「そうなんですね。」


「あ、ナターシャの下の名前は?」
階段を登っていると突然そんなことを聞かれた。
「言ってなかったですか?」
「うん。
ナターシャ、とだけ。」
そうだっけ…
「コルギです。
そういえばひいおばあちゃんがグラシアル家と少し関係があるって言ってたような…?」
「コルギ…ってあの!?」
そんなことを言われて困惑する。
「そ、そんな有名なんですか?」
「有名も何も、勇者を出した家系だよ!
確かひいおじいちゃんとパーティを組んでいたって話も聞くし…」
凄いなそれは…
「アフェリス・コルギ。
それが先代魔法使いの勇者の名前だ。
全ての魔法を使いこなし、特に強力だったのは光魔法。
サポートと攻撃を1人でこなし、ひいおじいちゃんをサポートした…」
「そ、そんな凄い人がひいおばあちゃん…!?」
知らなかった。
「ところでアルさん。」
「さんは付けなくてもいいよ。
これから呼び合うのに面倒だろう?」
歳上だし気が引けるけどそう言われたら仕方ない。
「じゃあ、アルはどうしてここに?」
素朴な疑問だが、私にとっては超重要だ。
「ん?
普通に気になったからだけど?」
「…え?」
驚きの返答に、私は疑問符を浮かべるしかできなかった。


「ふっつーに高かったから。
じゃあ入った途端間違えて1階で寝てしまってね。
そしたらいつの間にか入り口が塞がっちゃって。」
あ、それは私たちがやったことだ。
「なるほど…?」
理解できるが理解できない。
そんな状態が続いた。
「じゃあ君が入ってきてたから、僕は君を追いかけてきたんだ。」
「まさか1階の視線って…アルだったの?」
「そうかも。
君を見つめた記憶もあるから。」
いやあの圧の掛け方は凄かったけど記憶がある、程度なんだ…
「あれは少し気になったけどアルなら良かった。」
味方だったなら嬉しい誤算だ。
「僕もナターシャで安心したよ。
国のやつなら…って考えたら恐ろしい恐ろしい。」
「く、国…?」
なんでだろう。
「あぁ、僕次期国王候補だから。」
国王候補…
「って、えぇ!?」
「あ、やっぱり知らなかったんだ。
何故か人望だけはあってね。
何故か国王候補まで来ちゃったんだ。」
そんなのアリ…?
「じゃあ中々ヤバいんじゃない…?」
「いや?
そんなに大事にはしてないよ。」
「え、なんで?」
国王候補がこんなところに来たら街中大騒ぎだろうに…
「この摩天楼、時空の歪みが他の摩天楼よりおかしいから外の時間より1000分の1ぐらいしか進まないんだよね。」
「へ、へー。」
それでもやばいんじゃないかなぁ。
「ならいいや。
とにかく先に進もう。
最上階に着かないことには出られないし。」
「あぁ、そうだね。
行こうか。」
アルが差し出した手を掴み、立ち上がった。


「あれ、なんで地面に杖ついてるの?」
「あ、言ってなかったっけ。」
アルは大きく首を縦に振った。
「私、盲目なんだよ。
この眼帯もカッコつけてるわけじゃない。
左目の眼球が生まれつきなくて、右目も見えないんだ。」
「…不便?」
「うーん…
普通の生活をするだけだったら不便じゃないかな。」
もう慣れてきたし。
「ただ戦闘ってなるとちょっとね…」
「じゃあどんどん頼ってくれ。
どんどん足引っ張ってくれ。」
「いや私も足を引っ張らないようにがんば…」
「何言ってんのさ。
前は任せて。
後ろは任せたって意味だよ。
僕はナターシャを守る。
アルはその時間に成長して、僕を守ってくれ。
それが仲間ってものだろう?」
なんか厨二病みたいだけどカッコいい…!
「なら任せたよ!
前衛アル!」
「じゃあ任せた!
後衛ナターシャ!」
そう言って私たちは階段を上った。


「さて、4階層だ。
例によって4階はモンスターの数が多くて単体は弱い。
少人数と戦う僕には不向きな敵だね。」
「なら私が…!」
「そんなに気負わなくていいよ。
残党は僕がやるから。
いい練習台だと思ってやりなよ。」
「わ、分かった。」
先程の件で自信をなくしてしまった。
でもこの階には闇のマナが沢山ある。
前衛のアルもいるわけだし、落ち着いてやれば絶対大丈夫。
「よし、行こう!」
私はそう言ってアルと共に歩き出した。


「なにこの数…」
30体ほどいるのだろうか。
私は足が震えている。
「コボルトか…
集団で行動しているもののそこまで連携能力は高くない。
守りは僕1人でできるはずだ。
だから3階で撃った魔法を使ってみなよ。
自信にも繋がるかも。」
確かに怯えてちゃ意味がない…
「じゃあ撃ってみる…!」
私はコボルトたちに杖を向けた。
「集えマナよ。」
私は一度目を瞑った。
アルを巻き込まないように、尚且つ敵を殲滅できるように!
「闇魔法、アッコルタ・ボット。」
あえてコボルトの後ろに配置し、アルへの危害を最小限に抑える。
「ギーギー!」
コボルトたちがどんどんと吸い込まれていく。
20体ほど吸い込まれただろうか。
私は魔法を解除し、爆発させた。
「おぉ!
なにそれ!」
と言いながらアルは刀を振る。
「焔火抜刀術守ノ型二式【火柱】」
そう言ってアルとモンスターの間に高い火の壁のようなものができた。
「な、何それ…」
「これは若干炎魔法を使ってるんだ。
中々凄いだろう?」
な、中々とかそんなレベルじゃない気が…
「さて、終わりにしよう。
焔火抜刀術攻ノ型壱式【紅蓮燦々ぐれんさんさん】」
ゆっくりと、横に刀を振る。
「アツッ…!?」
熱がここまで来た。
何が起きているか、詳しくは分からない。
けど、目の前にあるであろう美しい景色。
私はこの目で見てみたいと強く願った。


「しゅーりょー!
いやー大活躍だったね!」
「う、うん。」
「どうしたんだい?
元気がないように見えるけど。」
あまりにも実力差がありすぎる。
これから何度も足を引っ張るだろう。
けど、それをなくすために成長しよう。
私はそう思った。
「大丈夫。
私は元気だよ。」
「なら良かった。
というかさ、ナターシャが撃ってた魔法!
あれ闇魔法だよね?」
「え、うん。
そうだけど?」
「ホントに!?
珍しいね!
アルメリア国の魔法騎士団には闇魔法使いがいないからね。」
そうなのか…
「この階で一旦休もうか。
僕、眠いや。」
そう言ってあくびをしながらアルは壁にもたれて座った。
「ね、寝た…?」
早すぎやしないだろうか。
「私も寝ようかな。」
私はローブを膝にかけてアルの真正面で寝た。
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