クリスマスはどこか熱い

熊虎屋

文字の大きさ
1 / 1

クリスマスのキセキ

しおりを挟む
今日は12月25日。
クリスマスである。
皆さんは、クリスマスと聞いて何を思い浮かべるだろうか。
恋人を持っている人ならデート。
小学生以下ならサンタさん。
子供を持つ大人ならクリスマスプレゼント。
クリぼっちは家でゲーム。
グループで遊ぶ人もいるだろう。
そして俗に言うリア充撲滅委員会ならリア充を潰しに行くのだろう。
など、様々な考えがあるだろうが、
俺には恋人がいる。
彼女の名前は「小恋寺 瑞葉(これんじ みずは)。」
去年付き合ったばかりで、
学校では俺以外に無視、つまり塩対応をする。
しかし、有名な理由は何と言ってもその可愛さ。
学校一と言われているほどのその美型は天からの加護だった。
だから、俺が付き合うには肩が違いすぎるのではないかと付き合い始めた当初は思っていた。
そして俺は今日、瑞葉にデートを誘われている。
勿論予定もないのでその誘いを受けることにした。
まあ俺は、学校では嫌われている。
何故なら瑞葉と付き合っているから。
学校で1番可愛いと言われている彼女と付き合って学校で嫌われるのは前から分かりきっていたことである。
あぁ、勘違いするなよ?
勿論俺から告白した。
彼女は数百人に告白され、それをバッタバッタなぎ倒してきた。
そして振る言葉はいつもこう。
「無理。
貴方達のような顔だけで群がる男は嫌いなの。
私が好きなのは一人だけ。
常に優しい心を持つあの人だけ。」
と。
つまり、顔の可愛さだけで好きになられるのは嫌だけど、一人だけ好きな人がいる。
と言いたいのである。
そして俺の告白シーン。
皆様方は俺の告白シーンなんて微塵も興味ないだろうが、一応な。
「俺と付き合ってくれ。
振られるのは分かってる。
だけどさ、自分と向き合ってみて、
結局君が好きなんだって。
思っちゃって、だから今日、
自分にけじめつけに来た。」
と、ぎこちなく言うと、瑞葉は泣いた。
「ずっと、ずっと君のその言葉を待ってた。
もう待つのはやめようって、昨日まで思ってた。
けど、自分の心に向き合える心を持ってるって。
そして貴方は私の深いところまで好きなんだって。
いつか貴方が告白してくれるって。
考えてた…思ってた。
だから、私からも言わせて。
付き合おう。」
まさかOKをもらえるとは思ってなかった。
ま、俺の彼女はこんな感じだ。
ちなみに俺の名前は神崎 凪(かんざき なぎ)。
うん?そろそろ瑞葉が来てしまうのか。
では、瑞葉が来る時まで。
さらばだ!



そうこうしていると瑞葉が前から走ってきた。
「ごめん凪!
待った?」
冬なので汗はかいていないが、息遣いが荒いので長時間走ってきたのは読み取れるが、
そうにも関わらず笑顔で俺にそう言ってきた。
「いいや、待ってねーよ。
今さっき来たところだし。
瑞葉もそんなに焦らなくても大丈夫だ。
俺は瑞葉を待つためなら何時間でも待つさ。
ほら、電車に遅れるし早く行こーぜ。」
と普段の声、言葉遣い、ポーズで喋ったが、
瑞葉は顔を赤らめ、下を向いた。
「凪優しすぎ…」
「そうか?
はっ、ありがとよ。」
俺は素直に礼を言った。
「あ!また私のことからかってるでしょ!
流石の私でも怒っちゃうよ?」
と今度は頬を膨らませて可愛い声で言ってきた。
「やっぱ瑞葉の声ってかわいいよな。」
と俺は言ったが、瑞葉の返事は無かった。



そして俺たちは電車に乗った。
「そういやさ。」
と田舎では当たり前の俺たち以外で誰もいないという電車内で瑞葉が喋りかけてくる。
「なんだ?」
「私達付き合って一年経つんだよ?」
「まだ一年も経ってねえよ。」
「じゃあ何日?」
「358日。
だって俺ら今年の正月から付き合ってんだから。」
「付き合い始めた日覚えてるのって…
やっぱり凪は私のこと好きなんだねえ。」
と1つの答えしか浮かばない質問が来た。
「お前のことは好きじゃねえよ。」
「え?
もう一回言って?」
「だから、お前のことは好きなんて言葉で表せねえから、
お前が大好きだって言ってんの。」
なんかこのセリフ恥ずかしいな。
と言ったあとに後悔した。
「カウンターは酷いよ…
なに?君は私をからかうのが巧すぎない?
まさか他にもこんな経験が…!?」
勿論ないので俺は素直に答える。
「ねえよ。
こんな姿見せんのもお前だけだ。」
「やっぱり他に経験ないとこんなに恥ずかしくさせられないって…
だって私ポーカーフェイスで有名なんだよ?」
「だけどポーカーフェイスできてねえのが事実だろ。」
と言い返すと、瑞葉は照れながら
「だって凪が優しいんだもん。」
と言ってきて、
「照れるな。
ありがとよ。」
「こちらこそだよ!」
こちらこその意味はあまり分からなかったが、
俺は嬉しいからいいか。
と思いながら電車が目的地に着くまで待つ。



ようやく目的地に着いた。
ここまでに約15分ほど。
現在の時刻は午前9時15分。
予定通りである。
「こっからどうする?」
「俺は大体考えてきたけど、
瑞葉が何かあるならなんでも言いなよ。
俺は瑞葉に合わせるから。」
と俺は素直に思ったことを言い放った。
「じゃあ、ここ気になってたんだよね!
この喫茶店!」
と俺にスマホを見せつけてくる瑞葉。
「じゃあそこは昼飯にするか?
それか今すぐ行くのか?」
と俺が質問する。
「うーん…
お昼ごはんにしようか!
まだ開いてないみたいだし!
朝ごはんは食べてきたんでしょ?」
「ああ、勿論食ってきたよ。」
「じゃあ時間あるし、
ゲームセンターでも行かない?
私音ゲー得意だよ!
勝負しようよ!」
「俺に勝てるとでも?」
「当たり前じゃーん!」
負けられない戦いが始まりそうだ。



「さて、ゲーセンに着いたはいいが…
まだ開いてないな。」
現在の時刻は9時28分。
あと2分で開店である。
「俺、ジュース買ってくるわ。
こいし、何飲みたい?」
「私、ファンター!」
「分かった。
そこの自販機で買ってくるよ。」
と言って俺は瑞葉をゲーセンの前に置いてジュースを買いに行った。
そして歩いてる途中、重大なことに気がついてしまった。
それは…
ファンタの味を聞いていない!
これは一世一代の大ピンチだ。
急いで帰って聞かなくては!
と少しふざけながら瑞葉のところに早歩きで戻る。
瑞葉のところに着いた。
すると、周りの人間がザワついている。
何か事件でもあったのか?
と俺は少し瑞葉を心配しながら声を出す。
「なあみず…」
と俺が名前を呼ぼうとした瞬間、俺が見た光景は…トラックに吹き飛ばされ地面に引きずられた瑞葉だった。
「瑞…葉…?」
と俺は近寄る。
「なあ瑞葉、起きろよ。
嘘なんだろ?
いつもみたいに俺に笑いかけろよ。
なあ瑞葉…みず…は…」
俺はいつしか泣いていた。
周りに群がる大人たち。
周りの大人の一人が、救急車を呼んだらしい。



そして瑞葉の搬送先の病院に着いた。
「残念ながら…
彼女さんは…」
「あ、はい…そうですか…」
いつしか涙は枯れていた。
もう体が拒否する程に泣いた。
これは、俺以外誰も悪くない。
こいしも、トラックの運転手も、医者も、
誰も悪くない。
自分だけが悪いんだ。
だから、報わなきゃ。
俺が死んだら、世界はハッピーエンドに終わる。
そうだよな?瑞葉。



現在の時刻は午後11時30分。
俺は高校の屋上にいた。
「さっさと死のう。
俺がいたら、みんなの悲しむから。
だから、自分はいなくなろう。
じゃあな、世界。
また次会うときまで。」
といって俺は屋上から飛び降りた。
落ちている最中、俺は上を向いていた。
風も、雲も何一つないこの日、俺と彼女は死ぬ。
(星ってこんなにきれいだったのか。)
と思って俺は星に手を伸ばす。
届きそうな気がしたから。
掴めそうな気がしたから。
しかしその直後に俺は地に落ちた。
そして、この世界での話は幕を閉じた。



次に目を覚ましたら、そこは空色で、とても明るかった。
ここは…天国?
いや、地獄と天国の境目か。
と、そんなことを考えていると、
横から声がした。
「ごめん凪!待った?」
「あれ…?
みず…は…?
なんでここに…?」
「いやなんでって…
今日デートでしょ!
ていうか凪もここまで来てるのになんでっておかしいよ。」
俺はその瑞葉の笑顔を見て泣いた。
「え!?
急にどうしたの!?
なんでいきなり泣いてるの!?」
「いや、俺にも分かんない。
でもなんか泣いてる。
はは、おかしいよな。」
どんな感情で泣いているかは、自分でも分からない。
嬉し泣きなのか、感涙なのか、
でもこれだけは分かる。
原理は分からないが俺はタイムリープしてる。
現在は12月25日の9時15分。
つまりは時間が戻っている…ということになる…
間違いない。
だったら俺にできることは…1つか。



「さて、目的地は決まってるものの…どこ行く?」
瑞葉が電車内で喋りかけてきた。
「あー…そういや決めてなかったな。」
前とは少し違う…つまり未来は変えられる?
じゃあ俺は瑞葉をあのときから守れば瑞葉は生き残れるのか…?
分からない。
そしてこのループが何回続くのかも全く分からない。
しかし、ループが一度で終わると仮定して、
最善の答えは…
「まずはカラオケでも行かないか?」
「いいね!
私上手いよ?」
と笑う瑞葉だが、俺の心は焦りまくっている。
「じゃあ一時間程度で予約しとくな。」
俺は瑞葉を外で待たせるということはさせず、待ち時間をなくすという選択肢に出た。



そしてあれから数十分後、電車の遅延があったものの目的地の駅に着いた。
「じゃ、行こっか!」
「あぁ。」
と俺たちは駅のホームの階段を降りようとする。
すると瑞葉が、「あっ…」と声をあげた。
「おい!」
と俺は手を伸ばすが届かず、
瑞葉は階段から落ちた。
そして彼女の元に行くと、
心臓が動いていなかった。
12月25日午前9時30分。
小恋寺 瑞葉、転落死による後頭部強打による
出血多量により死亡。
そして俺は泣いた。
前の世界と全く同じである。
「くそが…俺じゃ助けられねえのかよ!」
と己の無力さに俺の心と体は潰された。



「またこのパターンか…。
はは、二回目となると結構怖いもんだな。
自殺って。
だって人生で2回死ぬようなもんだしな。
命2つあるのかと勘違いするぜ、全く…」
現在の時刻は午後11時30分。
俺は同じく、前と同じ時刻で、そして同じ高校の屋上にいた。
「これで…
まだ戻れるのかな。」
と言って俺は人生二度目の自殺を行った。



目を覚ますと、前と同じで空は雲ひとつなく、
空色で包まれていて、眩しかった。
「成功してるのか…?」
「成功?
何言ってるの?凪。」
「あぁ、すまん。
ちょっと独り言だ。
気にしないでくれ。」
と咄嗟に誤魔化した。
前回は瑞葉が来る前だったが、今回は来ていたのか。
ループの時間にもブレはあるのか…
しかし…分単位ではズレない…
さっきから数十秒しか差がない。
なら…自殺のタイミングも分単位で時刻が合えばループできるのか…?
「ほら!
なにしてるの!
早く行かなきゃ電車遅れるよ!」
「そうか、分かった。」
これは瑞葉に言うべきなのか?
いや、そうすれば瑞葉は怪しまれてしまう。
それだけは絶対に避けなければ。
俺はどうなってもいいから…瑞葉だけは…
瑞葉だけは…



「どこ行く?」
これは…一度目と少し似ているな。
と少し振り返りながら過ごす。
「うーん…」
なるべく事故の起きにくいところ…
「映画なんかどうだ?」
「いいね!
私も最近観たい映画あったんだ~!
見に行こ!」
と浮かれ気分の瑞葉に持っていかれそうな緊張感を俺は死守する。
「さっきから何か悩んでるみたいだけど…
どうしたの?
相談ならいつでも乗るよ?」
と甘やかしてくる瑞葉に甘えてはいけない。
「いや、俺一人で解決できるからいいよ。
瑞葉は気にすんな。」
「そう?
わかった!
変な気遣いしてごめんね!」
「いいよ、俺こそ気にかけてくれてありがとう。」
やはりこの和やかな雰囲気に負けそうな心を俺は鬼にする。

暗転

「じゃあ行くか。」
目的地の駅に着くや否や、俺は席を立つ。
「うん!
早く行こっか!
映画楽しみだね~!」
「そうだな。」
俺はお前を助けることで頭がいっぱいであまり楽しむことは出来ていないがな。
しかしこれも運命なのだ。
仕方が無いあるまい。
「近くに映画館あるらしいし、
そこに行こっか!」
「分かった。
近いのが1番だしな。」
そして俺は腕時計の時間を見る。
午前9時27分。
あと3分で瑞葉は死ぬ。
それを守るために俺がいる。
果たして俺は瑞葉を守ることができるのだろうか?
先程調べた近くの映画館は、ここから3分で着く程近くはない。
「あと5分ぐらいで着くね。」
「そうだな。
交通事故に気を付けて、俺から必ず離れないこと。
いいか?」
「うん、まあ気をつけるけどいきなりどうしたの?」
「念のためにな。」
「流石にわかってるって!」
本当に分かっているのだろうか…?
と、ここでナレーターの様な俺に変わらせて貰ったが、今皆様方は思っただろう。
「お前あんまり焦ってなくね?」と。
まぁ、俺からのアンサーはこれだ。 
「焦ってるけど、結局何したらいいか分からんから冷静にいるように見えるだけ。」
こうだな。
まあ俺自身、こんな経験をしたことがあるはずもなく、何をしたらいいのかさっぱりだ。



あと1分、約束の時はすぐそこまでやってきていた。
「ねえ、時計ばかり気にしてるけどどうかした?」
「え?あぁ、なんでもねえよ。」
「なんか怪しい…
ま、いいや!
早く行こ!」
「待て!
離れるなって!」
と言うと瑞葉はすぐ戻ってきた。
「あれ?」
時間が来たのに何も起きない。
死ななかった…のか?
いや、この事故は分単位で起こる。
油断は出来ない。
「ごめんごめん!次からは離れないから!
早く行こーよー!
私待ちくたびれてるの!」
と言いながら俺たちは駅のホームを出て、
外に出る。
「分かった分かった。
早歩きで行こうか。」
「分かっ…」
と言うと瑞葉の上から鉄骨が落ちてきた。
「みず…は…?
また俺は駄目だったのか…?」
瑞葉の脈は既に止まっていた。
12月25日午前9時30分。
小恋寺 瑞葉、鉄骨落下による脳内出血により死亡。
「やっぱり生半可じゃ駄目なんだ…
もっと対策を…!」
と独り呟いていると、背後から声をかけられた。
「どうした、君。
彼女が死んだにも関わらずさほど悲しくなさそうではないか。」
「貴女には関係ないですよ。
俺にはやらなきゃなんないことがあるから…!
早く夜になれよ…!」
早く俺は死ななきゃなんねえんだよ…!
「夜に…なってほしいのか?」
「…あぁ。」
「私もだ。
何故か君と私は似ている気がするな。」
「気の所為じゃないですか…?」
「いや、気の所為ではないだろうな。」
「ちょっと…時間無いんで俺はお暇させていただきます。」
と、俺が去ろうとした瞬間、後ろから、
「タイムリープ、してんだろ?
頑張れよ。」
「は!?」
何故あの女はタイムリープを知っている!?
そして「分かんねえな。」
と、俺は見え見えの嘘をついた。



病院で医者から瑞葉の死を告げられた。
「またかよ…」
と岐路を辿りながら、
呟く。



俺は家に着いた。
まず俺がしなきゃいけないことを考えよう。
「瑞葉を助けるために…
まず本人に言うことなのか…?
いや、多分悲しんでしまう。
しかし行かないという選択肢は…」
流石に怪しまれてしまう…
特に言い訳なども考えていないし…
「いや、俺が甘かったのか…?
そうだ。
俺の考えが甘かったんだ…!」
と思いながら、俺は作戦を練った。

暗転

時は流れ、現在の時刻は午後11時30分。
俺は学校の屋上にいた。
「まーたこの展開…か。」
瑞葉が見てたらどう思うんだろうな。
「あとこのタイムリープはどういう原理なんだ…?」
そして今日会った女…
タイムリープを知っていた。
「そんで…あいつは何モンなんだ…?
あ、時間か。
じゃあな、この世界。」
と言って飛び降りた。



そして俺は目を覚ました。
眼の前は、真っ白で囲まれていた。
「いつもと違う…。
ここはどこだ…?」
「ここは『時無の部屋』だ。」
と少しだけ聞き覚えのある声が後ろからした。
「アンタは…」
「そう、先日君に会った謎の女さ。」
タイムリープを知っていたあの女…!
「『時無の部屋』…とは?」
「その名の通り外の世界では時が流れない部屋さ。
この部屋だけは時間が動いている。」
「この部屋とタイムリープは何か関係性が…?
それとも他に…」
と俺は純粋な疑問符を頭の上に浮かべた。
するとすぐに答えは出た。
「君のタイムリープ、実は私の能力なんだ。
そしてあと一分で君はこの部屋を出、
タイムリープをする。
そして君はこの部屋や私とここで喋ったことを忘れる。」
「あと一分!?
いや待って!
まだ聞きたいことが!」
と俺は叫んだが、時すでに遅し。
俺の視界は真っ暗になった。



「また戻ってこれた。」
今回は作戦を練ってきたから大丈夫。
必ず助けられる。
「ごめん龍!
待った?」
一度目と同じ…か…
つまり死に方も似る可能性がある…のか…?
「いいや、待ってねえよ。
ほら、早めに行こうぜ。
電車に遅れる。」
「うん!」
と俺たちは少し急ぎ目に駅のホームに向かった



目的の駅に着いた。
時刻はまだ余裕がある。
電車内では一度目とほぼ同様だった。
席も、運転士も、喋る言葉も、乗客がいないのも。
一度目ととても似ていた。
「これなら…」
事故も一度目と似る可能性が高い。
つまり…
『一人にさせない』。
これが絶対条件。
一度目の事故は俺が瑞葉のそばにいなかったから瑞葉は死んだ。
「つまりは…」
行き先を変える。
これが安全策だ。
「どこ行く?」
瑞葉が聞いてきた。
「俺、気になってる店あるんだよな。
今日中に行ってみたいんだが…
どうだ?
嫌なら俺は瑞葉の意見に賛同するが…」
「じゃあそこ行こうよ!」
正直、行きたい店があるとは本当のことだ。
「ありがとう。
じゃあそこまでに5分程度だが…
歩けるか?
電車で疲れてねえか?」
「もう!
何歳だとおもってるの?
子供扱いしないで!」
「はは、すまんすまん。」
と、俺は流れで少し浮かれてしまっていた。
いや、浮かれるな龍よ。
昨日の作戦を実行せねば…
『作戦1 側を離れない。』
これは作戦という程の物でもないか。
次に、『作戦2 これまでの3つの世界の言動や行動を意識し、それに合った行動をとる。』
先程にも詮索していたように、ここまでの言動にて一度目の世界に似ている。
つまりトラックの事故になる可能性が高い…
そう言い切れる訳ではないが…
作戦3はあと4分後に実行する。
「もう9時なんだね…」
「でも時間通りだぞ?
俺はそういう時間で来るつもりだったし、
何より電車が遅れていないからな。」
そう、電車が遅れなかったので、
現在の時刻は午前9時6分。
勿論、俺は瑞葉を守るために必死に考えてきた。
だが、これで大丈夫なのだろうか…
と不安に思ってしまう。
「ねえ、聞いてなかったけどどこに行くの?」
「あぁ、この店だ。」
と言って俺はスマホで調べ、画面を見せた。
「へえ~オシャレな服屋じゃん。」
「3枚までなら奢るぞ。」
「ホントに!?
やった!」
「まあ、でも散歩がてら遠回りしないか?」
これが『作戦3 遠回りして車の少ない道を通る。』
「まあ時間はあるっぽいしね!
いいよ!」
「ありがとう。」
よし、これで車での事故の確率は減ったはずだ…
しかし少し懸念が残ることがある。
それは、事故の時間がズレを起こす可能性が無いわけではないことだ。
この世界は俺たちが思っているほど甘くない。
人生山あり谷ありだとも言うし、
全ての『世界』の座右の銘は「情けは人の為ならず」なのだろう。
世界は俺たちを思いやってくれない。
だから俺たちが世界を変える。
情を与えてくれない世界の常識…運命をぶっ潰す。
俺たち人間はそのために生きている。
と考えながら俺たちは遠回りの道を進む。
「こんな田舎みたいな道あったんだ…」
「確かにあの駅周りを見るとこんなのなさそうに見えるがな。
少しズレるとこんな道に出るんだ。」
瑞葉は、ほへー。
という言葉が似合いそうな顔をした。

暗転

現在の時刻は9時28分。
俺たちは店に着いた。
これなら問題なさそうだ…!
試行回数4度目で、ようやくチャンスが回ってきた。
「この服かわいー!」
と言いながら燥ぎ回る(はしゃぎまわる)
俺は瑞葉を見つめた。
いや、油断は禁物…
後一分で9時30分だ。
時間になると必ず何かは起こる。
そして、俺は『作戦4』をもう既に実行している。
何が起きてもいいように、
知り合いの医者を連れてきているのである。
ちなみに名前は桜宮 紗帆(さくらみや さほ)。
日本の中でも有名で腕の利く医者だ。
ちなみに事情は知っている。
俺がタイムリープをしていることも、
この時間に必ず瑞葉が死ぬことも。
信じて貰えないかと思ったが、
以外とあっさり信じてくれた。
「まあ出来ることはするわ。
無理だったら…
ごめんね。」
と、軽い感じで受けてくれた。
「あぁ、よろしく。」
と俺は紗帆に告げた。
「ねえ、これなんかどう?」
と瑞葉が話しかけてきた。
「いいじゃないか!
爽やかで、模様も綺麗で、お前にめちゃ合ってる!」
と俺が褒めると、
「試着してみますか?」
と近くにいた店員さんが声をかけてきてくれた。
俺は、
「どうする?
試着するか?」
と言いながら瑞葉の方を向くと、
瑞葉はいきなり倒れた。
現在の時刻は9時29分。
今回は事故発生から少し時間が経ってから死ぬ事故か…
俺はそんなことを考えながら、
「紗帆!」
と叫んだ。
すると、紗帆が入口から入ってきた。
そして瑞葉の服の中に手を突っ込み、
心拍数を測る。
そして俺は脈の確認をしていた。
「心拍数が途轍もなく低い…
この症状は…
急性心臓発作…!
でも応急処置程度しか…
強心剤と増血剤…精神剤…
でもこれ以上使ったら…」
と呟く紗帆に、俺は、
「俺に何かできることはないか!?」
と言うと紗帆は何かを言おうとしたが、
その口は止まった。
「心肺停止…
残念だけど瑞葉ちゃんは…」
「また駄目だったのかよ…!」
12月25日午前9時30分。
小恋寺 瑞葉、急性心臓発作による心肺停止により死亡。



俺以外に人生で同じ人間の死を見た人間は世界にいるのだろうか。
もしもいたら俺はそいつに同情するし、
そいつは俺に同情してほしい。
だから、「一緒に頑張ろーぜ。」
と一言呟いて、また俺は死んだ。

「時無の部屋…」
「覚えているとは、珍しいな。」
と俺は答えが来ないと思っていた言葉に反応され、びっくりした。
「また君か。
この部屋に来るのは…実に5度目か…?
4度目だったか?
わからんな。
あと2分、君は何を聞く?」
「じゃあまずは、『お前は何モンだ?』だ。」
「私か?
私は時間を操る妖怪とでも思っておいてくれ。
それが最もしっくりくるしな。
時間だ。
まあせいぜい頑張り給え。」
と時無の部屋から開放された俺であった。
そして俺は何度も綾なす生と死を繰り返した。
4度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、線路に転落し電車に轢かれたことによる出血多量により死亡。
9度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、電線の断裂部分に触れ感電により死亡。
17度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、大地震による建物崩壊に巻き込まれ圧死。
26度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、通り魔にナイフで刺され死亡。
38度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、プールで溺れることによる酸欠により死亡。
51度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、暴風による川の氾濫により水に流れ死亡。
74度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、自転車との衝突事故による脳損傷で出血多量により死亡。
99度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、急性心不全による心肺停止により死亡。
124度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、自動車に引き摺られ脳震盪により死亡。
153度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、セアカゴケグモに刺され毒が回り死亡。
185度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、突然なアレルギーの発作により死亡。
256度目 突然の火事に巻き込まれ一酸化炭素中毒により死亡。
371度目 食事に毒キノコが入っており死亡。
422度目 湖に落下し溺死。
何度も、何度も、何度も瑞葉の死ぬ姿を見た。
けど、俺は諦めなかった。
12月25日午前9時31分の元気な瑞葉を見たかったから。



あれから、どれだけの時間が経ったのだろう。
9時30分に鳴るタイマーの音と、死ぬ彼女の声、顔、姿をどれだけ聞き、見たことだろう。
メモに書いていたので、俺は分かる。
次で500度目。
俺と瑞葉は500回も生と死を繰り返した。
それでも、彼女は助からなかった。
まだ足りないものが…ある…
俺はその足りないものを探して、探して、探し続ける。



時は流れ、514度目の死。
俺は、これで無理なら諦めようって思った。
もうこれだけやって無理なんだ。
じゃあもうそれは運命なのだ、無理だろう。
と思って屋上から飛び降りた。



「この部屋に来るのも…514度目か。
そして今回でお別れだな。」
「やあ、もうすっかりタメ口になってしまったな。」
「そりゃあこんだけ会ってるしな。」
気づいた頃には敬語は消えていた。
「今回で最後なのだろう?
時間は伸ばしておいてある。
ラストなんだ。
私に好きなだけ質問するといい。」
「じゃあ、まずは名前を…」
「私は咲、千秋 咲。
時間操作の能力持ちだ。」
「じゃ、俺がみず…彼女を助けるために必要なものは…?」
これは、人に聞くもんじゃないと分かってる…
分かってるんだ…!
けど…
もう自分では分かんねえから、人を頼る。
「答えを言うのは…
よそう。
では、ヒントを与えよう。
『これまで君が彼女に与え続けていたもの』だ。君は彼女が最初に死んで以来、
彼女にあまり与えれなかったものさ。」
なんだ…?
与えられなかったもの…?
プレゼント…真面目な返答…?
いや…
そうか…!
これだ…!
「分かったようだね。
あとアドバイス。
『誰かを助けるのに、犠牲がいらない訳がない。』
それじゃあ私はここで。」
「あぁ、これまでありがとう。」
と俺の視界に映っていた白い世界は暗くなる。



「あれ…?
さっきまでの世界は…?
しかも…記憶がある…!?」
なんでだ…?
514度目のタイムリープ。
俺に突然な変化が起きた。
それは、これまで覚えていなかった白い世界の記憶を覚えている…というものだった。
これまでは全くなかった。
こんな記憶一切なかった。
が、今の俺にはある。
つまり…
「これなら助けられる…!」
今、514回目の瑞葉とのクリスマスが始まる



しかし今回も助けられなかった。
「やっぱ…駄目なのかなぁ…
俺一人じゃ何にも出来ねぇなぁ…」
と暗闇の冬の中で一人呟き、自殺を行うのであった。
514度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、前方不注意によりトラックに轢かれ死亡。
630度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、信号機の落下により死亡。
726度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、死亡。
892度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、死亡。
1264度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、死亡。
1683度目
12月25日午前9時30分。
小恋寺瑞葉、死亡。
2670度目、死亡…5137度目、死亡…12406度目、死亡…31279度目、死亡…42178度目、死亡…
いつしか俺は諦められなくなっていた。
ラストだと思っていた白い世界も、何度も行った。
咲にも、紗帆にも沢山世話になったな。
俺の体ははもうとっくに限界を迎えていた。
でも、諦めきれない俺の心が叫び、それに引っ張られるように俺の体は動いていた。
いつしか俺は瑞葉の事以外一切考えられなくなっていた。
「どんだけ好きなんだよ…
てか…俺をどんだけ好きにさせたんだ…
一生恨むぜ、瑞葉。」
と言いながら俺は屋上から飛び降りた。
そしてこの54514度目のタイムリープ、キセキが起こった。



やっぱり、俺は瑞葉に伝えた。
瑞葉が今日午前9時30分に必ず死ぬことと、
俺がタイムリープしてること。
正直、瑞葉は俺のことを引くかと思ってた。
けど、思ったような返しは来ず、こいしは
「凪が言うんだったらそういうことなんだね。
私今日死ぬんだ。
じゃあ楽しまないとね!」
と瑞葉は言った。
「受け入れる…のか…?」
「そりゃあそうじゃん!
勿論、自分が死ぬんだって分かって悲しいし、
私も泣きたいよ…?
けどさ、ここで私が笑顔を絶やすとさ、
凪が悲しむだろうし、しかも凪の努力が無駄みたいになっちゃうじゃん!
こんなときこそ楽しまないと!」
正直、嬉しかった。
受け入れてくれるなんて、思ってもみなかった。
「ありがとう…ありがとう…」
と俺は半泣きで礼を言った。
何度も、何度も…。
言い続けた。



「え~っと、午前9時30分に死ぬんだよね?」
「そうだ。」
「じゃあどうしようか…」
俺たちは二人で考える。
しかし特に良いアイデアなどは思いつかず、
電車を降りてしまった。
「降りちまったけど…
あと12分か…
電車の遅延は仕方ねぇか…」
「あと12分、どこで過ごす?」
「そこら辺歩こうぜ。
そのほうが気も楽だろ。」
「うん、そうだね。」
多分、今の瑞葉は涙を堪えている。
だから、頭をポンポンと軽く叩いた。
すると瑞葉は半泣きで、「ありがと…」
と言ってきたので、
「どういたしまして。」
と答えた。
そんな会話を繰り広げていく内に、残り時間は5分となった。
しかし緊張感はあまりなかった。
俺は当たり前なのだが、死を前にしてここまで堂々と出来る瑞葉にはまだまだ勝てないのだなと実感した。
すると瑞葉に聞かれた。
「時間差ってあるの?」
「時間差…?
あぁ、死ぬ時間差か。
一応調べた結果、分単位の時間差は起こらないっぽいな。
つまり60秒未満の数十秒のズレはある。」
「わかった…
って言いたいところだけどね。
あと2分か~。
なんか全然実感湧かないね。」
「どう死ぬのかは…ランダムだがな。」
「じゃあ地獄みたいに死ぬことも…!?」
「ないことはない…な。」
「嫌だなあそれだけは。」
それから無言の時が過ぎ、9時30分となった。
「もうそろそろだ。」
「うん。」
といって俺は瑞葉の右斜め後方に付く。
音の出ない信号機の3分割中の1部が、青に光る。
それから約1秒開けてから、俺たちは渡った。
その時、右からクラクションが鳴った。
トラックが突っ込んできている。
ヤバい!


いや、予定通り…!
これまで下一桁に4が付いていると車やトラックの事故が多かったのである。
そして今回は54514度目。
つまり下一桁に4が付いているので、車が来ると思っていた。
元から俺の作戦はこういうものだった。
瑞葉を庇い、俺が犠牲になる。
咲の言う通り、ここまで来たらもう犠牲者を出すしか瑞。を助ける手段はない。
瑞葉が渡る横断歩道に俺は突っ込む。
「瑞葉!」
と言って俺は瑞葉の服を引っ張った。
俺と瑞葉の体の位置が入れ代わり、
そして俺の身は空に委ねられ、
いつの間にか飛んでいた。
これまでに感じたことのない衝撃、
頭上に稲妻が落ちたような威力だった。

途轍もない速度で飛び、重力に引きずられた。
「なんで…なんで龍が…?
私が死ぬんじゃないの…?
あぁ…死なないでよ…死なないでよ凪!
また私に笑いかけてよ!
またいっぱい優しくしてよ…!」
朦朧としていたが、この意識はまだあった。
そして俺は、
死ぬときってこんな感覚なんだなあ。
自殺以外で死んだことのない俺には初体験である。
瑞葉が何度も経験したことが、これだったのか。
そしてそんなことを考えていると、唇に柔らかい感触がした。
何故だか分からない。
瑞葉の考えていることも分からない。
けど、これだけは分かる。
俺は初めて…初めて、俺は瑞葉とキスをした。
瑞葉の思惑は分からない。
でも、優しい空気に抱かれた気がし、俺は気が楽になった。
しかし意識は既に朦朧としており、考える気力も失せている。
よって俺は、地獄からの迎えが来たんだな、と悟った。
そして俺は遂に気を失った。



目を覚ますとそこには、白い天井、白く光る蛍光灯、目を動かすと右上にはチューブに繋がっている点滴の器具のような物があった。
これが…地獄…?
いや、ここは病院か…?
じゃあ瑞葉は…!?
瑞葉の為の犠牲が出なかった。
つまり瑞葉は死んでいる…
また…やり直しか…
こんなチャンスまたいつ来るんだろうなあ…
と思っていたら、看護師が部屋に来た。
「目を覚ましたんですね。
では貴方に会いたいと言っている人がいるのですが…」
誰だ?
親は…死んでいる。
おばさんか?
それなら面倒臭そうだ。
「すいません、呼んでいただけますか?」
「分かりました。
少しお待ち下さい。」
と少し駆け足をしているかのような足音で看護師が廊下を歩く。
数分後、ドアのノックが鳴った。
「やあ、久々…だな。」
「咲…?
何しに来たんだ?」
「いや、一応様子を見たくてね。
どうだ?体調は。」
「勿論、最悪だよ。
咲が思ってる以上にね。」
少しは心配してくれているのだろうか…?
「そういや、表で泣いてる女がいたな。
高校生程度だったか…?
ま、私には関係ないがな。」
「高校生…?」
誰だろうか。
いや、この病院は知る病院の中でもかなり広いし、他の客と言える。
俺の知人だと、かなり気まずいだろうが。
少しして、咲は帰ろうとした。
「じゃ、お見舞いありがとよ。」
と帰り際に伝え、部屋では俺一人になった。
そして次の客が来た。
「紗帆か。
ずっと付き合わせて悪かったな。」
と謝罪した。
本当の気持ちだった。
本当に、心から謝罪した。
「貴方からしたらずっとかもしれないけど、
私からしたら数十分付き合っただけなの。
気にしないで。
貴方こそよくここまで戦って、頑張ったわね。
お疲れ様。
もう…大丈夫よ。」
大…丈夫…?
今の俺には意味が分からなかった。
「しっかし…貴方のその回復力…
トラックに轢かれたとは思えない。
まさにクリスマスのキセキと呼べるわね。」
「どういうことだ…?」
と思った今日この頃。
すると紗帆は言いたいことだけ言って帰っていった。
「11時30分、俺は今日自殺出来んのかなぁ…」
と未来の心配をしながら、俺は寝転ぶ。
体はとても痛い。
包帯はキレイに巻かれているし、
点滴も打たれているが、
それでも万全には程遠い。
そして目を閉じ眠りに着こうとしたその瞬間、
バタバタバタバタ!ガッシャーン!
という音がドアのすぐそこから聞こえた。
何だ!?
すると音の主であろう女がノックもせずに入ってきた。
「あれ…?
みず…は…?」
「凪…!
生きてたんだ…
私を庇って…」
「今の時間は…?」
といって俺はテレビを点ける。
9時25分…
そして空は明るい。
まさか…まだ時間は来ていない…?
失敗したのだろうか…?
「凪、今日の日付…分かってる?」
「いや…わからんが…」
と少し間が開いて瑞葉が口を開いた。
「12月26日だよ。」
「え…?
つまり…
成功してる…のか…?」
「うん…!
成功してるんだよ…!」
「やった…やった…!
俺の努力は無駄じゃなかったんだ…!」
紗帆の言った、クリスマスのキセキが起こった。
初めてのキスのおかげで、俺と瑞葉は生きている、まだ、この世界に留まれている。
54514回の生と54513回の死。
俺は…いや、俺たちはそれを糧にし、それを経て今を生きている。
だから、またスタートしよう。
初心に戻って今を生きよう。
またピンチになったら、助けるから。
と俺は心で瑞葉と誓い、笑った。
俺たちは涙を流しながら、静かな病室で笑い合った。
そして抱き合って、
ラストに、俺は彼女と、二度目のキスをした。



入院して3ヶ月、リハビリも頑張って、俺は無事退院した。
そして俺と瑞葉は1つ屋根の下で暮らし始めた。
瑞葉の親は海外赴任、俺の親は…前にも言ったが既に死んでいる。
学校側からの許可も貰い、同棲をしている。
俺にとっても、瑞葉にとっても初めての試みだし、何より恥ずかしい。
同じ風呂にも入っているし、寝室も同じなのだ。
そして同棲を始めて1ヶ月が経ったある日、
俺は独り言のように呟いた。
「そういや、俺の夢は叶わなかったなあ。」
「夢…って?」
「クリスマスの時な、俺が望んでたのは、
『12月25日午前9時31分の元気な小恋寺瑞葉を見たい。』と思ってたんだ。
でも、叶わなかったな。
ま、それも経て今があるんだしな。」
「その夢、また次叶えよ!
今年もあるし、来年もある。
そして再来年もある。
またその次の年も、その次も。
夢の期限は無限なんだし!
時間は永遠に過ぎるんだから。
そしてクリスマスは必ず来る。
何年も12月25日午前9時31分の元気な瑞葉ちゃんを見せてあげるよ!」
「はは、夢の期限は無限…か。
そうだよな。
次は、今回よりも楽しもうぜ。」
「そうだね!
もっと楽しいことしなきゃ!
夢の期限は無限でも、
時間は有限だよ!
今を楽しもう!
ほら、いい天気だよ!
外行こっか!」
「そうだな。」
俺たちはまた神に迷惑かけたみたいだ。
これからは神に頼りすぎないようにしないとな。
そして俺はドアを開け、外に出た。
上を見上げると青色に染まる空。
いつも嗅ぐ生活的な匂い。
眩しいと感じる太陽を手で遮りながらながら俺は瑞葉を追いかけ、手を繋いだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

そんな世界なら滅んでしまえ

キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは? そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。

処理中です...