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第二章 ルッタ・アルルー冒険の日々
第41話 悩める姉と弟!
しおりを挟む分身の術を手に入れてヒサギリから帰還した翌日の朝、いつも通り目覚めたルッタは手早く身支度を終え、精霊石を持ってリリアの部屋を訪ねた。
「リリア姉さま、起きていますか?」
彼は軽く扉をノックしながら、抑えめの声で呼びかける。
「……ええ、少し待っていて」
すると、中からそんな返事があった。
少しして、がちゃりと部屋の扉が開き、寝巻き姿のリリアが顔を出す。
「ルッタちゃん、どうしたの……?」
彼女は首を傾げながら問いかけた。
「実は、また精霊石を発見したのです! しかも今度は、メルカとは正反対な氷の精霊ですよ!」
元気よく言いながら、今回の冒険で手に入れた精霊石を差し出すルッタ。
「ふ、ふえぇ……!?」
寝起きのリリアは、突然のことに頭の整理が追いついていない様子である。
「ちなみに、名前はツララと言います!」
「で、でも私……まだメルカって子とも契約できていないわ……! せっかくルッタちゃんがプレゼントしてくれたのに……」
明らかに動揺しながら、申し訳なさそうに言うリリア。
「問題ありません! 焦らずじっくりやれば、きっと契約にも成功するはずです! リリア姉さまには素晴らしい魔法の才能がありますからね!」
「私……そんなにすごい子じゃないわ……。式典では褒められたけれど……まだ全然魔法を覚えられていないもの……」
どうやら、彼女の魔法の勉強は少し行き詰まっているようだ。
「いいえ! リリア姉さまは主人公みたいなものなので、将来は数多の精霊を従える最強の精霊騎士になるはずです! 自信を持ってください!」
しかし、姉の将来を知っているルッタは、真っ直ぐな瞳で見つめながら断言した。
「か、買いかぶりすぎよルッタちゃん……! そんなキラキラした目で見ないで……っ!」
対して、リリアは明らかに困った顔をしながら言う。
「とにかく、適性のない僕が持っていても仕方ないので、これはリリア姉さまが持っていてください!」
「……わ、わかったわ。ありがとう、ルッタちゃん」
少し悩みつつも観念した彼女は、ぎこちなく笑いながら精霊石を受け取るのだった。
「これからも沢山持ってきますね!」
「ど、どこでそんなに見つけてくるの……?」
果たして、リリアは弟の重すぎる期待に応えることができるのだろうか。
*
姉との心温まるやり取りを終えて部屋に戻ったルッタは、懲りずに分身の術を発動する。
「今日こそはちゃんと屋敷で過ごしてください! よろしくお願いしますよ、僕!」
そして、白煙と共に現れたもう一人の自分に向かって言った。
「もちろんです! 任せてください!」
「…………」
自分が「任せてください!」と言いつつ堂々と脱走する人間であることは、昨日の一件で流石のルッタも理解している。
「……エルナ先生の授業を受けることでもステータスは上がるのですから、勉強もゲームを攻略するうえで大切なのです。分かっていますよね?」
「もちろん分かっていますが……それなら、本体の僕が屋敷に残るという手も考えられます!」
「……分身の方が脆いので、危険な冒険は本体の僕がするべきです! 分身の僕は大人しく屋敷に残っていてください!」
「うーん……まあ、そこまで言うのであれば仕方がありませんね。今日は脱走しないよう、なるべく頑張ります!」
「…………」
この時、彼は初めて自分に脱走される両親や使用人たちの気持ちを少しだけ理解したのだった。
「とにかく、エルナ先生が来るまでちゃんと座っていてくださいね!」
ルッタは分身の肩を掴み、自室の椅子に座らせる。
「……僕は真面目に授業を受けるので、そっちの僕はちゃんと経験値を稼いで来てください!」
一方、分身からはそんな風に言われることになるのだった。
――そうして自室を後にしたルッタは、一息つきながらこう呟く。
「……ふう、僕に言うことを聞かせるのは一苦労なのですね。手強い相手です……」
するとその時。
「あら、おはようございますルッタ様」
廊下の向こうから、メイド服に身を包んだエルナがやって来ていた。
「おはようございます、エルナ先生!」
ルッタはすかさず彼女の元へ駆け寄り、挨拶をする。今自室を覗かれると分身がバレてしまうからだ。
「あの、これから授業ですが……今日は大丈夫そうですか?」
「いいえ! 僕は今日も脱走を企てているので、授業中も逃げ出さないようしっかりと見張っていてください!」
彼女の問いかけに対し、とんでもない返事をするルッタ。
「……もちろんそうしますが……なぜわざわざそれを私に? 脱走したいのであれば言うべきではないでしょう?」
エルナは不思議そうな顔をしながら言った。
「それはですね――僕は脱走したいのですが、僕を脱走させたくはないのです!」
「…………難しいお年頃なのですね」
どうやら、奇跡的に今の説明で納得してくれたらしい。彼女は理解のあるメイドなのだ。
「場合によっては、椅子に縛りつけてもらっても構いません!」
「それはできかねますが……」
「とにかくお願いしますね! 僕を脱走させないでください!」
ルッタはそう念を押してどこかへ走り去って行くのだった。
「今から授業なのですが……流石に戻って来ますよね……?」
エルナは彼の背中を見送りながら、ぼそりと呟く。
それから気を取り直し、先にルッタの部屋で待っていることにした彼女が目にしたものは――
「おはようございます、エルナ先生!」
椅子に座るルッタの姿だった。
「…………ん?」
エルナは目を細める。
「ルッタ様……いつお部屋に……?」
そして、戸惑いを隠せない様子で問いかけるのだった。
「さっきからです!」
「先ほど、お部屋とは反対方向へ走っていったように見えましたが……」
「見つかってしまったのですね! 僕も詰めが甘いです!」
「…………?」
いまいち腑に落ちないエルナだったが、彼の奇行は今に始まったことではないので、深くは考えないようにして授業を始めるのだった。
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