9 / 43
第9話 暴力の化身
しおりを挟む
魔力解放をしたメリア先生とダリア先生にド派手にぶっとばされ、やや調子に乗っていた心をへし折られてから六日が経ち、いよいよ精霊祭の前日となった。
一応、怪我は治っている。年下のニナから「少しは加減してくださいっ!」と説教される先生達の姿は見ていて忍びなかったがな。
「さてと。出かける準備も済ませたことだし、早速馬車に――」
「失礼しますアラン様。……お父様がお呼びです。どうぞ書斎へ」
「……ふえぇ?」
気合を入れて屋敷を出発しようとした俺は、突然の呼び出しによって出鼻を挫かれる。
まったく、お父さまは一体俺に何の用があるんだ?
俺は首を傾げつつ、渋々書斎へと向かうのだった。
*
「おはようございます、お父さま。僕はもう出かける準備を済ませましたよ」
書斎へとやって来た俺は、まず適当にお父さまへ挨拶をする。
「…………そうか」
すると、お父さまは書類を書く手を止めて返事をしてくださった。実に感動的である。
「……はい」
「………………」
「………………」
それにしても無口だな。儀式に参加する俺への激励の言葉はないのか? まったく、やれやれだ!
「……で、話とは一体なんですか?」
俺は気を取り直して、お父さまに問いかける。
「………………エルヴァールにはプリシラも連れて行く」
ぼそりと答えるお父さま。
「えぇっ!?」
プリシラとは俺の妹の名だ。亡き母と同じく病弱な身に生まれてしまったため、今は静かな別荘で療養しているのである。
……改めて思うに、性格最悪な暴君であるアランから遠ざけるという意図もあったのかもしれない。
記憶によると、妹に対しても高圧的な接し方をしていたからな。あのまま一緒に過ごしていたらプリシラに数多くのトラウマが残ること間違いなしである。
しかし、なぜ今さら……。
「良いな」
「あの、僕とプリシラを会わせても良いのですか?」
「何一つとして問題はない」
「さ、さようで……」
よく分からないが、今の俺なら大丈夫だということだろうか。コミュニケーション能力が壊滅的なお父さまと対話する際は、頑張ってその発言の意図を正確に読み取らないといけないから困る。
本当に面倒くさいぞ! クールキャラぶるのも大概にしろ!
「……ということだ。隠れていないで出てきなさい、プリシラ」
俺が億劫な気分になっていると、お父さまは突然そんなことを言い始めた。
「え……?」
まさか、もうこの場にプリシラが潜んでいるというのか?
「い、一体どこに……!」
俺は慌てて周囲を見回す。
刹那。
「おーーーーーっ!」
背後から元気な叫び声がした。俺はとっさに振り返る。
「ふんっ!」
するとそこには、長い白髪の見かけだけは儚げな美少女であるプリシラが立っていた。
それにしても、今の奇声は一体何なんだ。
「ひ、久しぶり……」
「うおーーーーーーっ!」
プリシラは俺の挨拶を無視して突進してくる。
「うぐっ!」
「えいっ! えいっ! えいっ! おりゃーーーーっ!」
俺の腹部に頭から突っ込み、何度も正拳突きをしてくるプリシラ。
しかし、この程度の攻撃など通用しな……痛い!
「ごふっ!」
「くらえーーーっ!」
「あ、相変わらずだね……プリシラ……」
「………………とうっ!」
嫌な予感はしていたが、過去の記憶にあった通りのお転婆である。
……いや、もはやお転婆という域を超えて蛮族と化している。病弱だからといって大人しいとは限らないということだな。
「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁっ、はぁっ……」
体力は全然ないみたいだが。
「ふーっ、ふーっ…………」
それからしばらくのあいだ息を切らしていたプリシラだったが、やがて顔を上げて言った。
「……おとうさま! この人はお兄さまではありません! なんか違うからニセモノです!」
「…………!?」
まさか、俺が前世の記憶を思い出したと見抜かれたのか? なかなか侮れない奴だな。……見抜いた理由は意味不明だが。
――それで、肝心のお父さまの反応は……。
「そうだな。お前と離れている間に、アランも成長したということだ。良い顔つきになった」
「ふ~ん、そっか~!」
嘘だろ……! まさかお父さまが俺のことをそんな風に思ってくれていただなんて……!
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
俺は素直に感謝の言葉を述べた。
「理解しただろうプリシラ。今のアランを怖がる必要はない」
「……うん!」
お父さまの問いかけに対し、元気よく笑って返事をするプリシラ。
「気がすむまでたくさん殴ったから、今までお兄さまが殴ってきた分は許してあげる!」
……なるほど、そういうことか。どうやらさっきまでの行為はプリシラなりに歩み寄ろうとしてくれた結果らしい。
「プリシラ……今まで、ごめん」
「ううん。いつも私が先に殴りかかってたから、あやまらなくてもいいよ! ごめんね!」
「プリシラ……!」
まったく。こんなに健気な妹を怖がらせていただなんて、アランとかいう奴は許せないな! 死刑に値する!
――原作だと本当に死んだから洒落にならん!
「あとその代わり、これからはいっぱい遊んでね!」
「……うん。分かったよ」
でもよく考えたらいきなり殴ってくるのはおかしいだろ。
やはりプリシラは怖い。アランとの確かな血の繋がりを感じる。
笑いながら敵をいたぶるタイプ……暴力の化身だ!
「やった~! お兄さま大好きっ!」
そう言ってぎゅっと抱きついてくるプリシラ。ふわりと甘い香りがした。
「……ふひひっ」
「変な笑いかた~!」
うん。可愛いからいっか!
一応、怪我は治っている。年下のニナから「少しは加減してくださいっ!」と説教される先生達の姿は見ていて忍びなかったがな。
「さてと。出かける準備も済ませたことだし、早速馬車に――」
「失礼しますアラン様。……お父様がお呼びです。どうぞ書斎へ」
「……ふえぇ?」
気合を入れて屋敷を出発しようとした俺は、突然の呼び出しによって出鼻を挫かれる。
まったく、お父さまは一体俺に何の用があるんだ?
俺は首を傾げつつ、渋々書斎へと向かうのだった。
*
「おはようございます、お父さま。僕はもう出かける準備を済ませましたよ」
書斎へとやって来た俺は、まず適当にお父さまへ挨拶をする。
「…………そうか」
すると、お父さまは書類を書く手を止めて返事をしてくださった。実に感動的である。
「……はい」
「………………」
「………………」
それにしても無口だな。儀式に参加する俺への激励の言葉はないのか? まったく、やれやれだ!
「……で、話とは一体なんですか?」
俺は気を取り直して、お父さまに問いかける。
「………………エルヴァールにはプリシラも連れて行く」
ぼそりと答えるお父さま。
「えぇっ!?」
プリシラとは俺の妹の名だ。亡き母と同じく病弱な身に生まれてしまったため、今は静かな別荘で療養しているのである。
……改めて思うに、性格最悪な暴君であるアランから遠ざけるという意図もあったのかもしれない。
記憶によると、妹に対しても高圧的な接し方をしていたからな。あのまま一緒に過ごしていたらプリシラに数多くのトラウマが残ること間違いなしである。
しかし、なぜ今さら……。
「良いな」
「あの、僕とプリシラを会わせても良いのですか?」
「何一つとして問題はない」
「さ、さようで……」
よく分からないが、今の俺なら大丈夫だということだろうか。コミュニケーション能力が壊滅的なお父さまと対話する際は、頑張ってその発言の意図を正確に読み取らないといけないから困る。
本当に面倒くさいぞ! クールキャラぶるのも大概にしろ!
「……ということだ。隠れていないで出てきなさい、プリシラ」
俺が億劫な気分になっていると、お父さまは突然そんなことを言い始めた。
「え……?」
まさか、もうこの場にプリシラが潜んでいるというのか?
「い、一体どこに……!」
俺は慌てて周囲を見回す。
刹那。
「おーーーーーっ!」
背後から元気な叫び声がした。俺はとっさに振り返る。
「ふんっ!」
するとそこには、長い白髪の見かけだけは儚げな美少女であるプリシラが立っていた。
それにしても、今の奇声は一体何なんだ。
「ひ、久しぶり……」
「うおーーーーーーっ!」
プリシラは俺の挨拶を無視して突進してくる。
「うぐっ!」
「えいっ! えいっ! えいっ! おりゃーーーーっ!」
俺の腹部に頭から突っ込み、何度も正拳突きをしてくるプリシラ。
しかし、この程度の攻撃など通用しな……痛い!
「ごふっ!」
「くらえーーーっ!」
「あ、相変わらずだね……プリシラ……」
「………………とうっ!」
嫌な予感はしていたが、過去の記憶にあった通りのお転婆である。
……いや、もはやお転婆という域を超えて蛮族と化している。病弱だからといって大人しいとは限らないということだな。
「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁっ、はぁっ……」
体力は全然ないみたいだが。
「ふーっ、ふーっ…………」
それからしばらくのあいだ息を切らしていたプリシラだったが、やがて顔を上げて言った。
「……おとうさま! この人はお兄さまではありません! なんか違うからニセモノです!」
「…………!?」
まさか、俺が前世の記憶を思い出したと見抜かれたのか? なかなか侮れない奴だな。……見抜いた理由は意味不明だが。
――それで、肝心のお父さまの反応は……。
「そうだな。お前と離れている間に、アランも成長したということだ。良い顔つきになった」
「ふ~ん、そっか~!」
嘘だろ……! まさかお父さまが俺のことをそんな風に思ってくれていただなんて……!
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
俺は素直に感謝の言葉を述べた。
「理解しただろうプリシラ。今のアランを怖がる必要はない」
「……うん!」
お父さまの問いかけに対し、元気よく笑って返事をするプリシラ。
「気がすむまでたくさん殴ったから、今までお兄さまが殴ってきた分は許してあげる!」
……なるほど、そういうことか。どうやらさっきまでの行為はプリシラなりに歩み寄ろうとしてくれた結果らしい。
「プリシラ……今まで、ごめん」
「ううん。いつも私が先に殴りかかってたから、あやまらなくてもいいよ! ごめんね!」
「プリシラ……!」
まったく。こんなに健気な妹を怖がらせていただなんて、アランとかいう奴は許せないな! 死刑に値する!
――原作だと本当に死んだから洒落にならん!
「あとその代わり、これからはいっぱい遊んでね!」
「……うん。分かったよ」
でもよく考えたらいきなり殴ってくるのはおかしいだろ。
やはりプリシラは怖い。アランとの確かな血の繋がりを感じる。
笑いながら敵をいたぶるタイプ……暴力の化身だ!
「やった~! お兄さま大好きっ!」
そう言ってぎゅっと抱きついてくるプリシラ。ふわりと甘い香りがした。
「……ふひひっ」
「変な笑いかた~!」
うん。可愛いからいっか!
224
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました
ララ
恋愛
3話完結です。
大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。
それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。
そこで見たのはまさにゲームの世界。
主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。
そしてゲームは終盤へ。
最後のイベントといえば断罪。
悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。
でもおかしいじゃない?
このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。
ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。
納得いかない。
それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる