超名門貴族の次男、魔法を授かれず追放される~辺境の地でスローライフを送ろうとしたら、可愛い妹達が追いかけて来た件~

おさない

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第67話 通りすがりのメイドさんでゲス

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「………………」
「……………………」

 目を覚ますと、女の人の顔が正面にあった。

「わぁっ?!」

 僕は驚き、後ろの壁に頭をぶつける。

 ちょっとだけ痛かった。

「大丈夫でゲスか?」
「は、はい……」

 僕の目の前に居るのは、ダークエルフのメイドさんだ。

 見た目は僕より少しだけ歳上に見える。

 それにしても、このメイドさんは一体なぜこの部屋に入って来たのだろうか?

 もしかして……サボり?

「すみません……その瞼《まぶた》の裏に、こんなにも美しい吸い込まれるような瞳があるとは思ってなかったので……見惚れて言葉を失ってしまったでゲス……!」
「は、はぁ……」

 そんなことを考えていると、メイドさんが言った。

 ……この人は一体何を言ってるんだろう?

 明らかに不審な言動だ。

「あの……あなたは――」
「何も言う必要はないでゲスわよお嬢さん。人間誰しも、ヒトには言えないような辛い悩みを抱えているものでゲス」
「…………???」
「どうか涙を拭いて欲しいでゲス。可憐な乙女に、涙は似合わないでゲスよ!」

 不審なメイドさんは、そう言いながら僕の目元を指先で拭った。

「え…………」

 恥ずかしいことに、僕は涙を流していたらしい。

「あ、ありがとうございます……」

 一応お礼は言ったけど、泣いてる所を知らない人に見られてしまった恥ずかしさで顔が熱い。

「どうやらあっしは……この乙女の花園で咲き誇ろうと頑張る可憐な蕾に……心を奪われてしまったみたいでゲスね……!」
「…………はい?」
「こんなの……いけないことなのに……! あっしも罪な乙女でゲス……!」

 一人で盛り上がるメイドさん。

 本当に何なのこの人?

「ええと、すみません……どちら様ですか……?」
「……名乗るほどの者じゃないでゲス」

 メイドさんはそう言いながら、僕に背を向けて立ち上がった。

「あっしは、ただの通りすがりの……メイドさんでゲスからね!」

 そして、謎のポーズを決めながら僕の方へ振り向く。

「そうなんですか……」

 だめだ……行動の意味が何一つとして理解できない…………!

 関わっちゃいけない人だ……!

「ええと……ごめんなさい。忙しいので失礼します……」

 一緒に居るとまずいと思った僕は、不審なメイドさんの脇を通り抜けて部屋から出ようとする。

「ま、待って欲しいでゲス!」

 しかし回り込まれてしまった。

「な、なんなんですかぁっ!」

 もう嫌だ。泣きたい。一体僕に何の用があるというのだろうか。

 やっぱり、この人があの気配の正体……?

「あっしは……あっしは気付いてしまったんでゲス……!」
「………………ッ!」

 怪しいメイドさんは、そう言いながら僕の手を取る。

 そこでようやく理解した。

 ――そうか、この人は僕が男だということに気付いているのだ。

 だから、ボロを出させて告げ口する為にこんな方法で足止めを……!

「あの……僕はまだここを離れる訳にはいかないんです! だから見逃し――」
「一目惚れでゲスっ! どうかあっしとお付き合いしてくだせえっ!」
「??????????」

 この状況を切り抜ける方法を必死で考えていたところを不意打ちで告白され、困惑する。

 それに対して、目をキラキラと輝かせながら僕の返事を待つメイドさん。

「ごめんなさい」
「ゲスぅぅっ!」

 僕が丁重にお断りすると、メイドさんは悲鳴のようなものを上げながら倒れてしまった。

「だ、大丈夫ですか?! しっかりとしてくださいっ!」
「うぐぅ……もう、ダメでゲス……。あっしのことは……どうか放っておいてくだせえ……!」
「そんな……!」
「あぁ……でも、美少女からキスされたら元気になるかもしれないでゲスねぇ……」

 メイドさんは、物欲しそうな目でこちらを見てくる。

「元気そうなので大丈夫ですね」

 僕は、そんなメイドさんを無視してこの場から立ち去ることにした。

 今はこんなことをしている場合ではないのである。
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