2 / 117
第2話 初期スキル
しおりを挟む明け方、ルーテは鳥のさえずりによって目覚めた。
彼が眠っているのは、孤児院内にある男子用の寝室である。
「ふわぁ……」
ルーテは小さくあくびをした後、勢いよくベッドから起き上がる。周囲の様子を確認すると、他の子供達はまだ眠っていた。
(……だいじょうぶそうですね)
ルーテは枕元に置いてある本を手に取り、皆を起こさないよう静かに寝室を抜け出す。
シスターや女子に見つからないよう注意しながらこっそりと階段を降り、正面玄関から孤児院の外へ出た。
扉を開けると、顔に日の光が差し込んでくる。
「今日もいいグラフィックです!」
ルーテは眼前に広がる草原を眺めながら、そんなことを呟いた。
(……そろそろレベルアップできると良いんですけど)
軽く準備運動をした後本を開いて読みながら、孤児院から南にあるルクス村まで続く一本道を歩き始めるルーテ。
――あれから約二年ほど経ち、彼は現在八歳である。
ルーテは二年間でこの世界について様々な発見をしていた。
そのうちの一つが、レベルとスキルの存在である。
ゲーム版の仕様と同じく、この二つは密接に関係していて、所持スキルに対応するトレーニングをすると自動的に経験値が入り、レベルアップする事ができるのだ。
ルーテはデフォルトで【速歩】と【速読】のパッシブスキルを所持している。
つまり、歩きながら本を読むのが最も効率的なレベリングの方法なのだ。
しかし傍から見たらかなりの奇行なので、医者や祓魔師《エクソシスト》を呼ばれないよう誰も見ていない早朝のみこの珍妙な行為をしている。
ちなみに、【速歩】と【速読】の効果はそれぞれ「歩行速度1.1倍」と「読書速度1.1倍」なので、ゲームのスキルとして見れば完全に死にスキルである。
どうせ死ぬキャラなのでその程度のスキルしか貰えなかったのだろう。
(こんなに簡単なことで経験値を得られるのはラッキーです! これは有用スキルですね!)
だが、ルーテはむしろ喜んでいた。
*
その日は村と孤児院の間をちょうど三往復したところで、レベルアップを知らせるファンファーレが脳内で鳴り響き、ルーテはレベル12となることができた。
「やった! レベルアップです!」
現在のレベルを確認するには、呪文のように「ステータス」と唱えれば良い。そうすることで、自分自身に関する様々な情報が脳内へ直接流れ込んでくるのである。
ルーテは自分のステータスを確認しながら考え込む。
「でも、二年頑張ってまだこのレベル…………やっぱり、この方法は安全だけど効率が悪いですね」
孤児院の子供達はレベル1から3程度、村の大人はレベル5程度なので、一般人としてはかなりの高レベルだ。
しかし、他人のレベルを測ることができないルーテには知る由もない。ただ、仮にその事実を知ったところで問題の解決にはならないだろう。
「このままだとレベル不足です……」
なぜなら、ルーテの最終目標は十二歳になる前までに自分を殺す予定の魔物を上回る力を付けること――即ち負けイベントの回避だからである。
万全の準備を期すのであれば、いくらレベルを上げても上げ足りないのだ。
「確か、負けイベントの魔物はレベル30くらいだったので……とりあえず成長限界のレベル50までは鍛えたいですね」
ルーテは、華奢で儚げな見かけに反して脳筋であった。
「あぁ……限界までレベルを上げた僕から放たれる一撃によってボスモンスターが粉砕される姿を想像しただけで……とても心が踊ります……! RPGの醍醐味ですよね……!」
おまけに戦闘狂でもあった。
「ですが……低レベルでの攻略も捨てがたい……! 最も入手経験値が少ないルートを見定め、ボス戦は毎ターン致命的な攻撃が飛んで来ないことを祈りながらの戦闘…………あぁ、その全体攻撃はだめですっ! 全滅しちゃうぅっ! ああああああああああっ!」
加えて縛るのも好きだった。
だが、この世界にコンテニューはない。ハードコアモードで低レベル縛りプレイは、あまりにもレベルが高すぎる。
「…………ふぅ。とにかく、慎重に行かないといけませんね。望むところです!」
「ねえるーちゃ――じゃなくてルーテ」
「ひゃぁっ?!」
ルーテが玄関扉の玄関扉を背に一人で盛り上がっていると、突然後ろから声をかけられる。
「さっきから誰に向かって話してるの?」
驚いて振り返ると、そこには金髪に碧い瞳をした少女――イリアが立っていた。
10
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる