12 / 117
第10話 平穏な夕食
しおりを挟む孤児院へと戻ったルーテ達は、そのまま食堂へと向かう。
そして各々夕食の準備を始めた。
今日の配膳を担当するのはゾラとイリアだ。
二人は大きな鍋に入ったシチューを、並べられた皿によそっていく。
その隣では、シスターが芋のサラダを人数分取り分けていた。
ルーテとマルスは、木製のトレーを手に持ってそこへ並ぶ。
「はらへった……」
(その呟き……まさに主人公って感じです! どうして原作でマルスをちゃんと喋らせてあげなかったんでしょうか!)
隣でお腹を空かせているマルスに対し、そんなことを思うルーテ。
――ちなみに、原作のゲームで彼を主人公として選ぶと「はい」か「いいえ」以外喋らなくなる。
そのため、ルーテが前世の記憶を元にイメージするマルスの将来の姿は「旅をしながら遭遇した魔物を無言で殺し続ける狂気の殺戮マシーン」だ。
「うぅ……このまますくすく育ってくださいねマルス……!」
「な、なんだよいきなり……」
「僕の心からの願いです」
「そうか……」
マルスは突然おかしなことを言い始めたルーテに困惑しつつも、深くは追及せず自分の食欲を優先することにした。
「――なあゾラ。俺の分は少し多めにしてくれ」
「ああ、いいよ!」
気前よくそう返事をするゾラ。
「だめよゾラ。みんな平等にしないと」
しかし、イリアがそれを制止した。
「え? そ、そうなの……? ボクも結構多めにしてもらってるけど……」
「次からは気を付けなさい。シチューは有限なの」
「は、はい……ごめんなさい……」
「分かれば良いのよ」
そう言って、ゾラの肩をぽんぽん叩くイリア。
「なんだよイリア。俺とゾラはいつもおかわりしてんだから、最初から多めによそったっていいだろ?」
「最初は平等に配りきることが重要なのよ。自分勝手なことをするのはやめて欲しいわね」
「イリアが頑固なだけだろ?」
「私にケンカを売っているのかしら?」
互いににらみ合い、火花を散らす二人。
配膳が滞り始めていた。
(これは……いつものやつが始まってしまいそうですね……)
マルスとイリアは、赤ん坊の時二人一緒にこの孤児院の前に捨てられていた双子の姉弟だ。
そうであるのにも関わらず、暇さえあればいつも喧嘩ばかりしている。
二人の喧嘩は、孤児院の子供達にとって日常茶飯事だった。
シスターは子供たちの自立を促すため基本的に放任主義なので、子供の手に負えない大喧嘩に発展するまではあまり介入してこない。
つまり、ルーテがこの状況をどうにかするしかないのだ。
「落ち着いてください二人とも……僕の分を後でマルスに分けてあげますから」
「え? いいのかルーテ?」
「はい。僕はそれほどお腹が空いていないので」
「ありがとう! やっぱり持つべきものはルーテだな!」
「意味が分かりません」
「俺も分かってないから大丈夫だぜルーテ!」
「……まあ、元気なのは良いことです」
ルーテは苦笑しながら言った。
「だめよそんなこと。ルーテがかわいそうでしょう?」
しかし、イリアがそれを許さない。
「そうだぞマルス。ルーテの分を取っちゃったら、ルーテがおっきくなれないだろ?」
おまけに今度はゾラまで反対した。
「た、確かに……! 俺より小さいルーテは、いっぱい食べて大きく成長するべきだな……!」
「食べる量で身長が変わる仕様はこのゲームに存在していなかったと思いますが……」
「相変わらずお前の言ってることはよく分かんないけど……俺が間違ってたよ! ルーテ、お前は沢山食べて立派になってくれ!」
ルーテは肩をガシッと掴まれ、仕方なく頷く。
(とにかく、問題は解決したようなので良しとしましょう)
そして、そう思うことにした。
「結局、イリアの言う通りだったね。ボクも反省するよ」
「るーちゃんが……おっきくなる……? せいちょうする……? かわいいるーちゃんが……?」
「イリア……?」
何やら不穏な空気を感じ取ったゾラは、恐る恐るイリアの顔を覗き込む。
「――ルーテの分を減らしましょう」
次の瞬間、イリアはとんでもないことを言い始めた。
「え……なんで……?」
「何でもよ。良かったわねマルス。あなたの分を多くしてあげるわ。沢山食べて成長しなさい」
「お、おう……?」
突然の豹変に首を傾げるマルス。
「あの、イリア? どうしたんですか……?」
異常を感じたルーテが問いかけたその時。
「だってるーちゃんは今のままがいいのっ! 成長しちゃだめっ! いつまでもぎゅってさせてぇっ!」
イリアはそう叫んだ。
「抱きつくのは今すぐにでもやめて欲しいのですが……」
「イリア……どうしちゃったの? なんか怖いよ……」
ゾラは駄々をこねるイリアを見て身を引く。
「……はい、そこまで。――平等に配膳しないと、こうしたトラブルの元になるので気をつけましょうね」
「で、でも先生ぇ……!」
「安心しなさい。ルーテはいくつになっても可愛らしいですよ」
「うぅ……確かに……そうかもしれないわ……ごめんなさい……」
「――ルーテだけではありません、ここに居る子たちは皆、いくつになっても可愛らしい私の子供です」
イリアの暴走によっていい加減埒が開かなくなってきたところで、ようやくシスターが介入してきて場が収まる。
(事態を収拾しつつ皆からの好感度も稼ぐ……やはり先生の【人心掌握術】は素晴らしいですね! 僕には習得できそうにありません!)
そして、その様子を見ていたルーテは彼女に対する尊敬の念を深めるのだった。
*
紆余曲折を経て配膳が終わり、ようやく皆が席につく。
パンとシチュ―ともう一品のおかず。これが、孤児院での基本的な食事である。
(僕は好きですが……能力値の上昇を考えるともう少し豪華にしたいですよね……夜中にこっそり抜け出して狩りでもするべきでしょうか……?)
孤児院の環境を改善すれば、その分だけ暮らしている皆も強くなる。
そうすれば、魔物の襲撃で死ぬはずだった皆も生き延びることができるかもしれない。
(アレスノヴァを使って遠くへ行けるようになったら……アイテムを集めてここの設備をもっと豪華にしちゃいましょう! 最強の孤児院を作ります!)
こうして、孤児院大改造計画が密かに始動しつつあった。
「それでは皆さん、神に感謝していただきましょう」
「いただきます!」
シスターの号令を聞いてスプーンを手に取るルーテ。
その懐の中で、アレスノヴァが怪しく光り輝いていた。
10
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる