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番外編 マルスの苦悩
しおりを挟むその日、マルスはベッドの中で苦悩していた。
「一体……どうなっちまってんだ…………!」
毛布をかぶり、頭を抱えるマルス。
「もう……何も信じられねーよ……!」
*
それは、ゾラが孤児院へやって来て数日が経過した時のこと。
「はぁ、毎日風呂に入るなんて、めんどくせーよな」
夕飯を食べ終わり、風呂場へ向かう途中でマルスは言った。
「そうかな? ボクは素敵なことだと思うけど」
それに対し、似た者同士で意気投合したゾラが答える。
「お前、意外と綺麗好きなんだなー」
「…………もしかして喧嘩売ってる?」
ゾラはマルスのことを睨みつけた。
「う、売ってないから! 怒るなって!」
マルスは慌てて否定する。
「ふーん。なら良いけど――ちゃんと体洗えよ」
そう言って、ゾラは女子の風呂場の前で立ち止まった。
「……おいおい待てよゾラ」
「なに? まだ言いたいことでもあるの?」
「いや、なんでそっちに入ろうとしてんだよ。お前男だろ? ヘンタイなのかー?」
マルスは笑いながらゾラのことを揶揄《からか》う。
一方その言葉を聞いたゾラの顔つきは、みるみるうちに険しく変化していった。
「………………ヘンタイはお前だよ……そんなにぶっ飛ばされたいのか……!」
震え声で言うゾラ。
「へ?」
予想と違う反応に、マルスは困惑する。
「――マルス。どう見たってゾラは女の子でしょう? あなた失礼すぎよ」
「…………え?」
見かねたイリアが、マルスにそう教えた。
「第一、ここに来てからずっとこっちに入ってたじゃない。……もしかして気付いてなかったの?」
「そ、そういえば……風呂場でゾラを見たこと無いな……!」
「……はぁ、呆れて物も言えないわ」
イリアは完全にお手上げ状態である。
「確かに、ボクが男っぽいのは認めるよ。……でも、一緒に暮らしてて今の今まで気付かないなんておかしいでしょっ!」
「落ち着いてゾラ。マルスはちょっとお馬鹿……じゃなくて抜けているところがあるの」
ゾラの肩をそっと抑え、優しく宥めるイリア。
「そ、そういえば……寝るときもゾラはこっちの部屋に居なかったな……!」
「そうだよ! だいたい、僕の胸を見れば分かるでしょ?!」
「いや、ぜんぜん分からない」
「やっぱりぶっ飛ばすっ!」
即答するマルスに、ゾラは顔を真っ赤にして激怒した。
「……そうね、今の発言は庇いきれないわ。もういっそぶっ飛ばされなさい」
イリアも今度はゾラに同調する。
「お、おい、嘘だろイリア……?」
「覚悟しろぉっ!」
「うわああああっ?! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
「待てええええええええっ!」
それから、マルスは俊足のゾラに追いかけまわされてあっさりと捕まった。
「ほらよく見ろ! ボクは女の子だぞっ! ちゃんと胸もあるだろっ!」
「あっ、ま、待てゾラ。胸が、ち、近いっ!」
「うるさいッ!」
「ごめんなさいっ!」
「くらえっ!」
「ぎゃあああああああああっ!」
そして、胸の膨らみを服の上から目視で確認させられた後、ぶっ飛ばされてしまう。
――ちなみに、その間ルーテは既に入浴を済ませてベッドですやすやと眠っていた。
*
しかし、マルスの災難はこれで終わりではない。
それは、ルーテの紹介で明丸や老人と知り合ってから、それなりに時間が経ったある日のこと。
「はー……」
お試しで刀の稽古を付けてもらったマルスは、老人と縁側でくつろいでいた。
「……やっぱり俺、カタナは向いてないんだな」
「筋は悪くないぞい。……じゃが、お主は斬るよりも力まかせに叩きつけるような武器の方が向いてそうじゃのう」
「そっか……。それなら俺、大剣が良い! カッコいいし!」
「……そうじゃな。お主には良い師匠が付いておるみたいじゃし、其奴《そやつ》にしっかりと教えてもらうとええ」
老人はそう話してお茶を啜る。
「……そういえば、明丸とルーテは?」
「わしがお主につきっきりで教えておったからの。あっちで『まほー』とやらの練習をしておったぞい」
「でも……見当たらないぞ?」
「……今は風呂にでも入っておるんじゃないかのう」
「――じゃあ俺、ちょっかい出してくる!」
「こら、待つんじゃ! まほーを使った後の明丸にそれは――」
老人の声は届かず、マルスは離れにある風呂場へと走って向かった。
「えっと……ここだよな?」
そして、扉を開けて脱衣所の中へと侵入する。
しかし、そこにある籠には明丸が脱いだ着物しか入っていなかった。
「…………あれ、ルーテは一緒じゃないのか。――まあ、いいや」
マルスは特に疑問を持たず、脱衣所を通り抜けて風呂場の前へ立つ。
「よお明丸! 背中でも流してやろうかー?」
そして、勢いよく扉を開けてそう言った。
「は…………?」
一方明丸は、ちょうど椅子から立ち上がって桶の水で体を流していたところである。
「え……? あれ……?」
当然、魔力を消費した現在の彼には、あるべきはずの刀が存在していない。
「うわあああああああああああああッ!」
明丸は真っ青な顔で絶叫した。
「な、なんでお前……付いてないの……?」
「わ、私は魔法を使うと女の体になってしまうんだっ! だから見るなっ!」
「いや……なんだよそれ。あり得ないだろ。――お前も冗談とか言うんだな!」
「冗談などではないッ!」
「足とかで頑張って隠してるだけだろ? まったく……脅かすなよ!」
「そんなわけあるかぁッ!」
「…………まじ?」
「さっさと出て行け助平《すけべ》ッ! 痴れ者ッ! 恥を知れッ!」
そう言って、持っていた風呂桶や足元の椅子を手当たり次第に投げつける明丸。
「いたっ! や、やめろ明丸!」
「わああああああああああああああああああああっ!」
「ご、ごめんなさいっ! 俺が悪かったですっ!」
かくして、マルスは明丸によって身も心もボロボロにされるのだった。
――ちなみに、その間ルーテは明丸に握ってもらったおにぎりを家の中で美味しく食べていた。
*
そして、孤児院にある風呂場の脱衣所にて。
「……はぁ」
「大丈夫ですかマルス?」
「やっぱり俺の心の友はお前だけだよ、ルーテ……!」
「何ですかいきなり」
「お前となら安心して風呂に入れるってことだ!」
「…………事情は分かりませんが、良かったですね」
ルーテはそう言って、着ている服を脱ごうとする。
その時、マルスはハッとした。
「…………そ、そういえばさ、お前って……よく女と間違えられるよな」
「そうですね。実に心外ですが」
「……お前は……違うよな? 正真正銘の男だよな? 男の中の男だよな?」
突然不安になったマルスは、ルーテの肩を掴んで問い詰める。
「………………」
だが、ルーテは俯いたまま何も答えなかった。
「な、なんとか言えよぉっ!」
「……すみません」
「え…………」
「実は……僕……」
ルーテはマルスの目を見て、着ている服をゆっくりと脱ぎ始める。
「ま、待て……!」
マルスは思わず後ずさった。
「そ、そんな…………やめろ……やめてくれ……っ!」
「――男なんです」
*
「ぎゃああああああああああああああああああっ!」
絶叫しながら飛び起きるマルス。
すると、そこは孤児院のベッドの上だった。
カーテンの隙間から、日の光が差し込んでいる。
「ゆ……夢か……良かった……」
マルスはほっと胸をなでおろした。
他の皆は既に起きていて、驚いた表情でマルスのことを見つめている。
「…………いや良くない。今まで何とも思わなかったけど……ゾラが女でルーテが男なのはおかしいだろ。おまけに明丸はなんなんだよっ! くっそぉ……頭がヘンになるぅ……! 俺はどうなっちまったんだっ!」
――彼の健全な精神は、仲間たちのせいで色々と限界寸前だった。
はたして、マルスの将来やいかに。
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