転生ゲーマーは死亡確定のサブキャラから成り上がる~最序盤で魔物に食い殺されるキャラに転生したので、レベルの暴力で全てを解決します~

おさない

文字の大きさ
41 / 117

番外編 マルスの苦悩

しおりを挟む

 その日、マルスはベッドの中で苦悩していた。

「一体……どうなっちまってんだ…………!」

 毛布をかぶり、頭を抱えるマルス。

「もう……何も信じられねーよ……!」

 *

 それは、ゾラが孤児院へやって来て数日が経過した時のこと。

「はぁ、毎日風呂に入るなんて、めんどくせーよな」

 夕飯を食べ終わり、風呂場へ向かう途中でマルスは言った。

「そうかな? ボクは素敵なことだと思うけど」

 それに対し、似た者同士で意気投合したゾラが答える。

「お前、意外と綺麗好きなんだなー」
「…………もしかして喧嘩売ってる?」

 ゾラはマルスのことを睨みつけた。

「う、売ってないから! 怒るなって!」

 マルスは慌てて否定する。

「ふーん。なら良いけど――ちゃんと体洗えよ」

 そう言って、ゾラは女子の風呂場の前で立ち止まった。

「……おいおい待てよゾラ」
「なに? まだ言いたいことでもあるの?」
「いや、なんでそっちに入ろうとしてんだよ。お前男だろ? ヘンタイなのかー?」

 マルスは笑いながらゾラのことを揶揄《からか》う。

 一方その言葉を聞いたゾラの顔つきは、みるみるうちに険しく変化していった。

「………………ヘンタイはお前だよ……そんなにぶっ飛ばされたいのか……!」

 震え声で言うゾラ。

「へ?」

 予想と違う反応に、マルスは困惑する。

「――マルス。どう見たってゾラは女の子でしょう? あなた失礼すぎよ」
「…………え?」

 見かねたイリアが、マルスにそう教えた。

「第一、ここに来てからずっとこっちに入ってたじゃない。……もしかして気付いてなかったの?」
「そ、そういえば……風呂場でゾラを見たこと無いな……!」
「……はぁ、呆れて物も言えないわ」

 イリアは完全にお手上げ状態である。

「確かに、ボクが男っぽいのは認めるよ。……でも、一緒に暮らしてて今の今まで気付かないなんておかしいでしょっ!」
「落ち着いてゾラ。マルスはちょっとお馬鹿……じゃなくて抜けているところがあるの」

 ゾラの肩をそっと抑え、優しく宥めるイリア。

「そ、そういえば……寝るときもゾラはこっちの部屋に居なかったな……!」
「そうだよ! だいたい、僕の胸を見れば分かるでしょ?!」
「いや、ぜんぜん分からない」
「やっぱりぶっ飛ばすっ!」

 即答するマルスに、ゾラは顔を真っ赤にして激怒した。

「……そうね、今の発言は庇いきれないわ。もういっそぶっ飛ばされなさい」

 イリアも今度はゾラに同調する。

「お、おい、嘘だろイリア……?」
「覚悟しろぉっ!」
「うわああああっ?! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
「待てええええええええっ!」

 それから、マルスは俊足のゾラに追いかけまわされてあっさりと捕まった。

「ほらよく見ろ! ボクは女の子だぞっ! ちゃんと胸もあるだろっ!」
「あっ、ま、待てゾラ。胸が、ち、近いっ!」
「うるさいッ!」
「ごめんなさいっ!」
「くらえっ!」
「ぎゃあああああああああっ!」

 そして、胸の膨らみを服の上から目視で確認させられた後、ぶっ飛ばされてしまう。

 ――ちなみに、その間ルーテは既に入浴を済ませてベッドですやすやと眠っていた。

 *

 しかし、マルスの災難はこれで終わりではない。

 それは、ルーテの紹介で明丸や老人と知り合ってから、それなりに時間が経ったある日のこと。

「はー……」

 お試しで刀の稽古を付けてもらったマルスは、老人と縁側でくつろいでいた。

「……やっぱり俺、カタナは向いてないんだな」
「筋は悪くないぞい。……じゃが、お主は斬るよりも力まかせに叩きつけるような武器の方が向いてそうじゃのう」
「そっか……。それなら俺、大剣が良い! カッコいいし!」
「……そうじゃな。お主には良い師匠が付いておるみたいじゃし、其奴《そやつ》にしっかりと教えてもらうとええ」

 老人はそう話してお茶を啜る。

「……そういえば、明丸とルーテは?」
「わしがお主につきっきりで教えておったからの。あっちで『まほー』とやらの練習をしておったぞい」
「でも……見当たらないぞ?」
「……今は風呂にでも入っておるんじゃないかのう」
「――じゃあ俺、ちょっかい出してくる!」
「こら、待つんじゃ! まほーを使った後の明丸にそれは――」

 老人の声は届かず、マルスは離れにある風呂場へと走って向かった。

「えっと……ここだよな?」

 そして、扉を開けて脱衣所の中へと侵入する。

 しかし、そこにある籠には明丸が脱いだ着物しか入っていなかった。

「…………あれ、ルーテは一緒じゃないのか。――まあ、いいや」

 マルスは特に疑問を持たず、脱衣所を通り抜けて風呂場の前へ立つ。

「よお明丸! 背中でも流してやろうかー?」

 そして、勢いよく扉を開けてそう言った。

「は…………?」

 一方明丸は、ちょうど椅子から立ち上がって桶の水で体を流していたところである。

「え……? あれ……?」

 当然、魔力を消費した現在の彼には、あるべきはずの刀が存在していない。

「うわあああああああああああああッ!」

 明丸は真っ青な顔で絶叫した。

「な、なんでお前……付いてないの……?」
「わ、私は魔法を使うと女の体になってしまうんだっ! だから見るなっ!」
「いや……なんだよそれ。あり得ないだろ。――お前も冗談とか言うんだな!」
「冗談などではないッ!」
「足とかで頑張って隠してるだけだろ? まったく……脅かすなよ!」
「そんなわけあるかぁッ!」
「…………まじ?」
「さっさと出て行け助平《すけべ》ッ! 痴れ者ッ! 恥を知れッ!」

 そう言って、持っていた風呂桶や足元の椅子を手当たり次第に投げつける明丸。

「いたっ! や、やめろ明丸!」
「わああああああああああああああああああああっ!」
「ご、ごめんなさいっ! 俺が悪かったですっ!」

 かくして、マルスは明丸によって身も心もボロボロにされるのだった。

 ――ちなみに、その間ルーテは明丸に握ってもらったおにぎりを家の中で美味しく食べていた。

 *

 そして、孤児院にある風呂場の脱衣所にて。

「……はぁ」
「大丈夫ですかマルス?」
「やっぱり俺の心の友はお前だけだよ、ルーテ……!」
「何ですかいきなり」
「お前となら安心して風呂に入れるってことだ!」
「…………事情は分かりませんが、良かったですね」

 ルーテはそう言って、着ている服を脱ごうとする。

 その時、マルスはハッとした。

「…………そ、そういえばさ、お前って……よく女と間違えられるよな」
「そうですね。実に心外ですが」
「……お前は……違うよな? 正真正銘の男だよな? 男の中の男だよな?」

 突然不安になったマルスは、ルーテの肩を掴んで問い詰める。

「………………」

 だが、ルーテは俯いたまま何も答えなかった。

「な、なんとか言えよぉっ!」
「……すみません」
「え…………」
「実は……僕……」

 ルーテはマルスの目を見て、着ている服をゆっくりと脱ぎ始める。

「ま、待て……!」

 マルスは思わず後ずさった。

「そ、そんな…………やめろ……やめてくれ……っ!」
「――男なんです」

 *

「ぎゃああああああああああああああああああっ!」

 絶叫しながら飛び起きるマルス。

 すると、そこは孤児院のベッドの上だった。

 カーテンの隙間から、日の光が差し込んでいる。

「ゆ……夢か……良かった……」

 マルスはほっと胸をなでおろした。

 他の皆は既に起きていて、驚いた表情でマルスのことを見つめている。

「…………いや良くない。今まで何とも思わなかったけど……ゾラが女でルーテが男なのはおかしいだろ。おまけに明丸はなんなんだよっ! くっそぉ……頭がヘンになるぅ……! 俺はどうなっちまったんだっ!」

 ――彼の健全な精神は、仲間たちのせいで色々と限界寸前だった。

 はたして、マルスの将来やいかに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 サナリア王国は、隣国のガルナズン帝国の使者からの通達により、国家滅亡の危機に陥る。 従属せよ。 これを拒否すれば、戦争である。 追い込まれたサナリアには、超大国との戦いには応じられない。 そこで、サナリアの王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るため。 サナリア王が下した決断は。 第一王子【フュン・メイダルフィア】を人質として送り出す事だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことなんて出来ないだろうと。 王が、帝国の人質として選んだのである。 しかし、この人質がきっかけで、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす。 伝説の英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

処理中です...