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第53話 憐れまれるルーテ

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「もういいです! 細かいことは経験値にしてから考えましょう!」

 情報を聞き出すことを諦めたルーテは、即席の木刀で≪狭霧《さぎり》の構え≫を発動させ、ノアとレアに向かって駆け出す。

「や、やめなさいッ! 神への供物に何をするおつもりですかッ!」

 すると、側に居た女が双子を庇うようにして前へ出た。

「やめません!」

 ルーテは間合へと踏み込み、戦技≪朧月≫を発動させる。

 手首を返して半円を描くように胴体を打ち抜き、そこから刃を反転させて首筋へ打ち込み、その上で更に胴体へもう一撃加える大技だ。

「当たると痛いですよ!」

 念の為、直前で忠告するルーテだったが、すでに手遅れである。

「うぐっごふっ! がはぁっ!」

 渾身の戦技が直撃した女は、血を吐き出してその場に膝をついた。

「あ、あぁ……」
「安心してください。峰打ちです」

 ルーテは、白目をむいて倒れた女に向かって決め台詞を言い放つ。

「ほ、本当に大丈夫なのか……これ……」
「木刀ならどこで打っても峰打ちみたいなものなのでセーフです!」

 バシリアの問いかけに対し、ルーテは自信満々で答えるのだった。

「そんなわけないだろう……」

 ため息交じりに呟くバシリア。

「――あなた……責任者ね……見るからに偉そうだし……」
「だ、だったら何だと言うのかね?」

 一方、シャーディヤはビュレトに詰め寄っていた。

「まさか、貴様ごときが私のことを――」
「…………問答無用」

 そう言って、持っていた木の棒を躊躇いなくビュレトの腹に突き刺すシャーディヤ。

「ぐふっ?!」
「土よ吸い取れ……サブルム」

 彼女が呪文を唱えると、ビュレトの体はみるみるうちに干からびていく。魔法によって、体中の水分が吸い上げられているのだ。

「な、なんだこれはっ?! やめろッ! やめろおおおおおおおおッ!」
「…………うるさい」
「ごっはぁッ?!」

 悲鳴を上げるビュレトに不快感を覚えたシャーディヤは、棒をさらに深くへ突き刺す。

「……いひひひひっ!」
 
 そうして苦しむビュレトを見て、楽しそうに笑った。

「き、君達は一体何なんだっ!」

 バシリアは、誰が敵なのか分からなくなっていた。

「僕も負けていられません!」

 シャーディヤに触発されたルーテは、木刀を構え直し、将来の第八オクタヴス紅蝠血ヴェスペルティリオである双子と対峙する。

「い、いや……やめて……もうぶたないで……!」
「おねがいします……ひ、ひどいことしないでください……」

 それに対し、体を震わせながら命乞いをするノアとレア。

「知っています。そうやって油断させるのがあなた達のやり方ですよね!」

 しかし、ルーテには通じなかった。

 ルーテは一気に間合いへ踏み込み、木刀を突き出す。

「えいえいっ! ほら、早く本性を表して変身してください! 僕に騙し討ちは効きません!」
「や、やめてぇ……つつかないでぇ……っ!」
「ご、ごめんなさい……許してください……!」

 ――その時だった。

「いじめるんじゃない!」

 突如としてバシリアがルーテの頭を引っぱたき、蛮行を止める。

「ふ……フレンドリーファイア……!」

 予想外の攻撃を受けたルーテは、木刀を地面へ落としてうずくまった。

「て、敵は……味方にいました……」

 そして、頭を押さえながら涙目でバシリアの方を見る。

「よく見ろルーテ! この子達が魔物に見えるのか?! 落ち着くんだ!」
「はい、見えます」
「………………っ!」

 ルーテの発言を聞いたバシリアは、なぜか悲しそうな表情をした。

「そうか……見えるのか……」

 震えた声で呟くバシリア。

「あの、だから邪魔をしないでください。もたもたしていると――」
「もう良いんだ……魔物に怯える必要は無いんだよ……」

 そう言って、突然ルーテのことを抱きしめる。

「え…………?」
「長い間魔物と闘い続けた冒険者は……人ですら魔物に見えるという話を聞いたことがある。……きっと、君もそうなんだろう。その歳でそんな風になってしまうなんて……!」
「いや、あの二人は原作で――」
「もう何も言うなっ! 今まで……辛かったな……っ! 君のことはちゃんと保護してやる……だから、もう戦わなくて良いんだ……っ!」

 バシリアは、目から大粒の涙を流しながらそっとルーテの頭を撫でた。

「………………?」
「教えてくれルーテ。一体、誰が君をそんな風にした……私は……絶対に許さないぞ……っ!」
「いいえ、僕は自分の意志で――」

 その瞬間、バシリアの頭の中で全てが繋がる。

「――この教団の奴らか! 君とシャーディヤは、初めから私に助けを求めていたのだな……! 妄想と現実の区別がつかない状態に陥りながらも、どうにか教団を逃げ出し……必死で……!」
「違いますが……」
「気付いてやれなくてすまない……っ!」

 ルーテの言葉は、盛大に勘違いした今の彼女には届かない。

「貴様ら……ふざけるなよッ!」

 そうこうしている間に、干からびて地面に倒れていたビュレトが突如として起き上がってしまう。

「……あ、まだ生きてた……」
「当然だッ!」

 ビュレトは身体から羽を生やし、虫のような姿へと変化し始めた。

「ふざけているのは貴様だ! 子供たちを……人と魔物の区別がつかない戦士にしてしまうだなんて……絶対に許さないぞッ!」

 バシリアは怒りに満ちた表情で剣を抜く。

「なにあれ……気持ち悪い……」
「妖蛆ビュレトです。仕方ないので、とりあえずこっちのボスから倒しましょう!」
「貴様ラに見せテやる……人と魔物を超越シた……私の力ヲォッ!」

 ――第二形態へと移行したビュレトは、激闘の末経験値となった。

 教団に攫われた人々は、ルーテ達の手によって救われたのである。
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