61 / 117
第53話 憐れまれるルーテ
しおりを挟む「もういいです! 細かいことは経験値にしてから考えましょう!」
情報を聞き出すことを諦めたルーテは、即席の木刀で≪狭霧《さぎり》の構え≫を発動させ、ノアとレアに向かって駆け出す。
「や、やめなさいッ! 神への供物に何をするおつもりですかッ!」
すると、側に居た女が双子を庇うようにして前へ出た。
「やめません!」
ルーテは間合へと踏み込み、戦技≪朧月≫を発動させる。
手首を返して半円を描くように胴体を打ち抜き、そこから刃を反転させて首筋へ打ち込み、その上で更に胴体へもう一撃加える大技だ。
「当たると痛いですよ!」
念の為、直前で忠告するルーテだったが、すでに手遅れである。
「うぐっごふっ! がはぁっ!」
渾身の戦技が直撃した女は、血を吐き出してその場に膝をついた。
「あ、あぁ……」
「安心してください。峰打ちです」
ルーテは、白目をむいて倒れた女に向かって決め台詞を言い放つ。
「ほ、本当に大丈夫なのか……これ……」
「木刀ならどこで打っても峰打ちみたいなものなのでセーフです!」
バシリアの問いかけに対し、ルーテは自信満々で答えるのだった。
「そんなわけないだろう……」
ため息交じりに呟くバシリア。
「――あなた……責任者ね……見るからに偉そうだし……」
「だ、だったら何だと言うのかね?」
一方、シャーディヤはビュレトに詰め寄っていた。
「まさか、貴様ごときが私のことを――」
「…………問答無用」
そう言って、持っていた木の棒を躊躇いなくビュレトの腹に突き刺すシャーディヤ。
「ぐふっ?!」
「土よ吸い取れ……サブルム」
彼女が呪文を唱えると、ビュレトの体はみるみるうちに干からびていく。魔法によって、体中の水分が吸い上げられているのだ。
「な、なんだこれはっ?! やめろッ! やめろおおおおおおおおッ!」
「…………うるさい」
「ごっはぁッ?!」
悲鳴を上げるビュレトに不快感を覚えたシャーディヤは、棒をさらに深くへ突き刺す。
「……いひひひひっ!」
そうして苦しむビュレトを見て、楽しそうに笑った。
「き、君達は一体何なんだっ!」
バシリアは、誰が敵なのか分からなくなっていた。
「僕も負けていられません!」
シャーディヤに触発されたルーテは、木刀を構え直し、将来の第八・紅蝠血である双子と対峙する。
「い、いや……やめて……もうぶたないで……!」
「おねがいします……ひ、ひどいことしないでください……」
それに対し、体を震わせながら命乞いをするノアとレア。
「知っています。そうやって油断させるのがあなた達のやり方ですよね!」
しかし、ルーテには通じなかった。
ルーテは一気に間合いへ踏み込み、木刀を突き出す。
「えいえいっ! ほら、早く本性を表して変身してください! 僕に騙し討ちは効きません!」
「や、やめてぇ……つつかないでぇ……っ!」
「ご、ごめんなさい……許してください……!」
――その時だった。
「いじめるんじゃない!」
突如としてバシリアがルーテの頭を引っぱたき、蛮行を止める。
「ふ……フレンドリーファイア……!」
予想外の攻撃を受けたルーテは、木刀を地面へ落としてうずくまった。
「て、敵は……味方にいました……」
そして、頭を押さえながら涙目でバシリアの方を見る。
「よく見ろルーテ! この子達が魔物に見えるのか?! 落ち着くんだ!」
「はい、見えます」
「………………っ!」
ルーテの発言を聞いたバシリアは、なぜか悲しそうな表情をした。
「そうか……見えるのか……」
震えた声で呟くバシリア。
「あの、だから邪魔をしないでください。もたもたしていると――」
「もう良いんだ……魔物に怯える必要は無いんだよ……」
そう言って、突然ルーテのことを抱きしめる。
「え…………?」
「長い間魔物と闘い続けた冒険者は……人ですら魔物に見えるという話を聞いたことがある。……きっと、君もそうなんだろう。その歳でそんな風になってしまうなんて……!」
「いや、あの二人は原作で――」
「もう何も言うなっ! 今まで……辛かったな……っ! 君のことはちゃんと保護してやる……だから、もう戦わなくて良いんだ……っ!」
バシリアは、目から大粒の涙を流しながらそっとルーテの頭を撫でた。
「………………?」
「教えてくれルーテ。一体、誰が君をそんな風にした……私は……絶対に許さないぞ……っ!」
「いいえ、僕は自分の意志で――」
その瞬間、バシリアの頭の中で全てが繋がる。
「――この教団の奴らか! 君とシャーディヤは、初めから私に助けを求めていたのだな……! 妄想と現実の区別がつかない状態に陥りながらも、どうにか教団を逃げ出し……必死で……!」
「違いますが……」
「気付いてやれなくてすまない……っ!」
ルーテの言葉は、盛大に勘違いした今の彼女には届かない。
「貴様ら……ふざけるなよッ!」
そうこうしている間に、干からびて地面に倒れていたビュレトが突如として起き上がってしまう。
「……あ、まだ生きてた……」
「当然だッ!」
ビュレトは身体から羽を生やし、虫のような姿へと変化し始めた。
「ふざけているのは貴様だ! 子供たちを……人と魔物の区別がつかない戦士にしてしまうだなんて……絶対に許さないぞッ!」
バシリアは怒りに満ちた表情で剣を抜く。
「なにあれ……気持ち悪い……」
「妖蛆ビュレトです。仕方ないので、とりあえずこっちのボスから倒しましょう!」
「貴様ラに見せテやる……人と魔物を超越シた……私の力ヲォッ!」
――第二形態へと移行したビュレトは、激闘の末経験値となった。
教団に攫われた人々は、ルーテ達の手によって救われたのである。
0
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
サナリア王国は、隣国のガルナズン帝国の使者からの通達により、国家滅亡の危機に陥る。
従属せよ。
これを拒否すれば、戦争である。
追い込まれたサナリアには、超大国との戦いには応じられない。
そこで、サナリアの王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るため。
サナリア王が下した決断は。
第一王子【フュン・メイダルフィア】を人質として送り出す事だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことなんて出来ないだろうと。
王が、帝国の人質として選んだのである。
しかし、この人質がきっかけで、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす。
伝説の英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる