転生ゲーマーは死亡確定のサブキャラから成り上がる~最序盤で魔物に食い殺されるキャラに転生したので、レベルの暴力で全てを解決します~

おさない

文字の大きさ
111 / 117

第97話 サルガスの神隠し

しおりを挟む

「さあお前たち! ミネルヴァお姉ちゃんの為にビシバシ働くのですよ!」

 暇を持て余したミネルヴァは、自分より歳下の子供を十数人、孤児院の外に集めて命令した。

「ミネルヴァおねぇちゃん! はたらくって、なにするの?」

 すると、一番近くに居た桃色の髪の少女が問いかける。

「虐げられる民衆をうまく演出するのです!」
「む、むずかしくてわかんないよぉ……」
「くふふ……!」

 彼女が今やっているのは、女王様ごっこだ。自分に逆らえない子供達が命令に苦しむ様子を眺め、悦に入るのである。

「……やめなさいミネルヴァ。みんなを困らせちゃダメよ」
「あ、イリアおねえちゃん!」

 するとその時、孤児院の中からフィラエの看病を終えたイリアが姿を表し、注意をした。

 ミネルヴァが呼び集めた子供たちは皆、イリアの方へ駆け寄って行く。

「お、お前たちっ! ミネルヴァを裏切るのですかっ!」
「だって、ミネルヴァおねえちゃんよくわかんないんだもん!」
「んああああああああああああああっ!」

 彼女には人望がないのである。

「も、もう良いのですっ! 可哀想なミネルヴァは一人で寂しく遊ぶのですよ! 全部お前たちのせいなのですっ!」
「待ちなさいミネルヴァ! 拗ねないで!」
「拗ねてなんか……ないのですよぉっ!」

 イリアの制止を無視して、涙目で走り出すミネルヴァ。

 ――その時だった。

「いてっ!」

 彼女は、何かにぶつかり弾き飛ばされる。

「お、いきなり当たりか。テメェが『女王』だな」

 そこに立っていたのは、紅蝠血ヴェスペルティリオのサルガスである。

「お前……! 物分かりがいいやつですね! ミネルヴァにぶつかって来たことは許してやるです!」
「テメェがぶつかって来たんだろうがよォッ!」

 言いながら、サルガスは全力でミネルヴァを蹴り飛ばす。

「……あ?」

 しかし、彼の攻撃は一切通らなかった。

「ほぇ?」

 間抜けな顔をしたミネルヴァに、片手であっさりと受け止められてしまったのである。

「…………手加減しすぎたか?」

 現実を受け止められず、そんな独り言を呟くサルガス。

「まあいい。……おいガキ。残念ながら、テメェ以外は皆殺しだ!」

 彼は仕方なく、呆然と立ち尽くすミネルヴァに向かって叫んだ。

「もしかしてこいつ……悪い奴なのですかっ?!」

 そこでようやく状況を理解したミネルヴァは、超高速でイリアの元へリターンし、その後ろに隠れる。

「…………あ? 消えた?!」

 あまりの速さに、サルガスは彼女の行動を認識する事が出来なかった。

「お帰りなさい」
「あ、あいつ、敵なのですっ!」
「先生のお客さんでしょう? いけないわミネルヴァ。いくら目つきが悪くてちょっと汚いからって、人を見かけで判断するのは」
「皆殺しにするとか言ってたのです!」
「まぁ……! 言葉遣いまで醜く汚れているわ……!」

 驚愕の事実に思わず口元を覆うイリア。

「イリアもなかなかヤバいのです!」
「お、おねぇちゃん……」「あのひと……わるいひとなの……?」

 物騒な言葉を聞いてしまった子供達は、イリアに向かって震えながら問いかける。

「そ、そうね。悪い人みたい……」

 イリアは、おどおどしながら答えた。

「わ、私が何とかするから、あなた達は家の中に――「じゃあもやさないと」

 桃色の髪の少女が、ぼそりと呟く。

「もやさないと」
「もやそう」
「もやす」

 すると、彼女に呼応するように、他の子供たちが大合唱を始めた。

「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「もやす」「ミネルヴァも燃やすです!」

「な、なんだコイツら……?」

 あまりにも異様な光景に、サルガスは思わず後ずさる。

「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」
「もやせ」「もやせ」「もやせ」「もやせ」

「く、くそッ! 気色悪りぃガキどもだッ!」

 彼らに対し得体の知れない恐怖を感じ、一度撤退しようとするサルガス。

 だが、遅かった。

「はぁッ?」

 突如として、彼の右腕が発火したのである。

 サルガスは、瞬く間に全身を炎で包み込まれる。

「ぐあああああああああああああああああああッ!?」

 焼かれる痛みに悶え苦しみ、地面をのたうち回るサルガス。しかし、火の勢いは増すばかりだ。

「み、みんな!? 何をしているの?! いけないわっ!」
「でも、ルーテおにいちゃんが、わるいひとはもやして、うごけなくして、ぼくのところにつれてきてくださいって、いってたよ?」

 イリアの言葉に首を傾げる少女。

「わるいひととか、まものをもやすとね、ルーテおにいちゃんが、おかしくれて、ほめてくれるの! けいけんち? になるんだって!」

 子供達は皆、ルーテによって教育済みなのである。

「るーちゃんっ! また、あなたなのね……っ!」

 頭を抱えるイリア。ラストダンジョンから帰還したルーテは、間違いなく彼女に説教されるだろう。

「あ……がはぁッ!」

 一方、子供達の連続無詠唱火炎魔法を食らったサルガスは、焼け焦げになってその場へ倒れ伏す。

「このひとすごくよわい!」
「でも、どうするの? ルーテおにいちゃん、いまいないよ?」
「おにいちゃんのおへやにつれていこう!」
「おかしはあとでもらうの!」
「さんせー!」

 子供たちは、動かなくなったサルガスの近くへ群がり、ずるずると孤児院の中へ引っ張っていく。

「弱い人みたいだし、みんなに任せても大丈夫かしら……?」

 その様子を見ていたイリアは、ほっと胸を撫で下ろしながら呟いた。

「いいや、敵はまだいるかもしれないのですよイリア! 燃やし損ねないよう、全力で警戒すべきなのです!」
「そ、そうね……まだ危ないかもしれないし、それに、フィラエさんにも言っておかないといけないわ」

 二人はそんな会話をしながら、防犯対策をする為に孤児院の中へ引き返していく。

 ――かくして、辺り一帯は何事もなかったかのように静まり返ったのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...