114 / 117
第100話 シャウラの絶望
しおりを挟む「う……ん……?」
気が付くとシャウラは、どこかのダンジョン内にある小部屋の石畳の上に、縄で体を縛られた状態で寝かされていた。
「あ、あれ……私は一体何を……?」
どうしてこんな場所に居るのか思い出せず、困惑するシャウラ。
彼女であれば、この程度の拘束は容易にすり抜ける事が出来る。
しかし、問題はそこではない。
この狭い小部屋には、夥しい量の血が飛び散った跡があるのだ。
つまり、凄惨な拷問がここで行われていたということになる。
「は……?!」
同時に、シャウラの体も全身に返り血を浴びて汚れていた。血は既に乾いているので、かなり時間が経っているようだ。
「な、何よ……何なの……!」
身の危険を感じ、激しく取り乱すシャウラ。
「ふんふーん、ふふふんふーん」
――その時、部屋の外から、鼻歌交じりにこちら側へと近づいて来る何者かの足音が聞こえて来た。
「あ……あ……! 逃げないと……ッ!」
そこで、彼女は漸く思い出す。現在に至るまでの記憶を。
*
「……やけに静かね」
ジュバの後を追いかけ、孤児院の前までやって来たシャウラとギルタブリル。
「やっぱり、もう終わっちゃったのかしら? “皆殺し”さんの出番は無かったわね?」
「――いや、中から大勢の気配がする。そういう訳ではなさそうだ」
「ふぅん」
シャウラは興味なさそうに返事をした後、孤児院の外側の壁を探り始める。
それから、ギルタブリルの方へ振り返って言った。
「じゃあ、私が中の様子を確認してくるわ。あなたはここで待機していてちょうだい」
「了解した。……気を付けろよ」
「ええ。ありがとう」
言いながら、シャウラは孤児院の壁に手を当て、自身の体を透過させて内部へと侵入する。
「うふふ。見張りも居ないような場所に侵入しても、いまいち張り合いがないわね」
そして、愉快そうに言った。
「あぁ、楽しみだわ。ここの子達は、一体どんな風に泣き叫ぶのかし……ら……」
恍惚とした表情を浮かべながら大きめの独り言を呟いていたその時、彼女は侵入した部屋の異常性に気付いてしまう。
「う……そ……何これ……」
シャウラが目撃したのは、黒焦げの状態で部屋の真ん中に転がされているサルガスの姿である。
「ぁ……ぁつい……あああ……」
「な、なによ……なんで……どういうことっ?!」
派手に死にかけている同族を目の当たりにし、その場で腰を抜かすシャウラ。
彼女が運悪く侵入したのは、物置部屋であった。
燃やしたサルガスをルーテの部屋に運んだ子供達は、反省中のマルスに追い返され、仕方なくこの場所に置いておくことにしたのである。
「ぎ、ギルタブリルッ!」
部屋の中から、外で待機しているギルタブリルの助けを呼ぶシャウラ。
しかし、返事はない。
「な、なにしてるのよアイツはッ!」
その時だった。
突然、扉が開き、薄暗い部屋の中に光が差し込む。
「こっちだよー!」
響く子供の声。
「よいしょ、よいしょ」
「このひと、けっこうおもい!」
「うーん……しょっ」
「みんながんばって!」
「それっ!」
外の廊下から可愛らしい会話が聞こえた後、真っ黒な何かが部屋の中へ投げ込まれた。
「ひっ!?」
シャウラは、自分の目の前に転がって来たそれを間近で見てしまう。
「う……ぐはぁっ……ぁぁ……」
真っ黒なそれの正体は、燃やされて黒焦げになり、苦悶の表情を浮かべたまま気絶したイクリールだ。
上空で待機していた彼は、子供達が詠唱した雷魔法の餌食となり、こうして見るも無残な姿となって孤児院へ回収されてしまったのである。
「い、いやあああああああああっ?!」
変わり果てた同胞たちの姿を見て、絶叫するシャウラ。
「……あれ、おばさんだあれ?」
「だめだよ! おねえさんってよんであげないと!」
「ごめんなさい。おねえさんだれ?」
そしてとうとう、彼女も子供達に見つかってしまう。
「うーんと……かってにはいってきてるから……」
「わるいひとのなかま!」
「もやそう」
「ここでもやしちゃだめっ!」
「じゃあ、どーするの?」
シャウラは、瞬く間に五、六人の子供達に取り囲まれてしまった。
「な、なんなのよあなた達はぁッ!」
大粒の汗を流し、恐怖で目を見開きながら問いかけるシャウラ。
「こおらせて、うごけなくしよう」
――すると、子供のうちの一人が答えた。
「それだ!」
「あたまいい!」
「こおらせよう!」
「こおれ!」
「こおれ!」
刹那、シャウラの足の先がゆっくりと凍り付いていく。
「いやッ! いやあああああああああッ!」
彼女はもはや、ただ泣き叫ぶことしかできなくなっていた。
「こおれ」「こおれ」「こおれ」「こおれ」「こおれ」「こおれ」
「あ、あ、ああああああああ」
為す術なく凍り付いていくシャウラの体。
「よいしょっ、よいしょっ」
「このひとっ、おもすぎっ!」
「おもいっ、おもいよぉっ……」
「みんながんばってっ!」
その意識が途切れる直前に彼女が目にしたのは、別の子供達に運び込まれてくる、豚の丸焼きのような姿になったジュバだった。
0
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる