10 / 55
一章
神官の独り言。
しおりを挟む
私はダングスと言う、王都の神殿に勤めているしがない神誓神官だ。
神誓神官とは、家門を捨てた神官のことだ。
神のみに仕える誓約した神官として一目置かれている。ま、実際には大司教と兄弟という、元の肩書きがあるが故だ。新参の神官達は知らないが、古参や知る人ぞと言うやつなら知っている。
ある日、地方への巡礼が当番でやってきた。
地方回りはたまにやるが、新しい酒のツマミを開拓出きる楽しみがある。
いつもどおり街や村に行けばその地の領主にもてなされる。
ある領地にいくと、領主から相談された。
まあ、よくあることだ。
廃屋の浄化、忌まれた地の浄化など。
巡礼の祈りとは別件で頼まれたりする。
報酬も別でもらえるから断ることはない。
だからいつも通りに話を聞くことにした。
だがいつもとは、普通とは、違った。
娘が異質だから見てほしいと。
たまにあるが、生まれながらの気質や障害などは神のみもとでも治せないものがある。
だから、だいたいそんなのばかりだと思ってい。
たが違った。
本物だった。
私の守護霊も視えているようだ。
それ故に、両親が持て余した。
領主達も苦心惨憺したのが伺い知れた。
努力が身を結ばない虚しさは計り知れない。それが我が子のこととなると。
こちらで受け入れると承諾し、彼女は神殿で預かった。
そして視える力を伸ばすため指導した。
ある日、彼女は故郷を思い泣き出した。
まだ幼いのだから両親を慕うのは当然だ。
だから一時的に里帰りを提案したが、彼女は断った。
両親の背後は、視えていた。
だから知っていると言う。
「心配しているのも愛情がちゃんとあるのも、分かってる。でも私いると、ママ達心から笑わない。悲しむの、だから帰らない」
そう彼女は言った。
彼女は神殿の敷地内のみで過ごし、神殿で学ぶ。
視る能力をコントロールする訓練はなかなか難しく身につけるのに苦労していた。
他にもシスターから信徒の手ほどを受けていたが、彼女本人もまだその道に進むかは分からなかった。
月日は流れ、彼女は聖言を唱え浄化するまでの能力を身につけて立派にシスターにも慣れるほどだに成長した。
だが、彼女は神殿から出ない。
どんなに楽しいお祭りでも、王のパレードも市も出店も見ずに育った。
周りのシスター達が楽しげに話すのをただ聞くだけ。
祈祷にくる家族を羨まし気に眺め、そのあと悲壮な顔で部屋に駆け込むのを何度も見た。
もう自信を持って普通の生活が出来る。
もっと早くに家に帰れるはずなのに、何度言っても彼女は首を横に振った。
家族の面会を断り、10年が過ぎた。
デビュタントの年に帰ることが決まった。
「帰ったら悲しむから」
そう言う彼女にデビュタントが期限だと言った。
自信なさ気に「分かった」と頷く彼女の心境はいかばかりか。
それでも彼女の成長を願い、この神殿から突き放さなければならない。
あの幼な子はこんなに大きくなった。
もう、苦しまないといいのだが。
私もそろそろ子離れしなければ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
育て親の神官視点です。
ヒロインが神殿に預けられる経緯の話です。
本編を読む資料背景として頂ければと思います。
ご読了ありがとうございました。
次話から二章ですのでよろしくお願いします。
神誓神官とは、家門を捨てた神官のことだ。
神のみに仕える誓約した神官として一目置かれている。ま、実際には大司教と兄弟という、元の肩書きがあるが故だ。新参の神官達は知らないが、古参や知る人ぞと言うやつなら知っている。
ある日、地方への巡礼が当番でやってきた。
地方回りはたまにやるが、新しい酒のツマミを開拓出きる楽しみがある。
いつもどおり街や村に行けばその地の領主にもてなされる。
ある領地にいくと、領主から相談された。
まあ、よくあることだ。
廃屋の浄化、忌まれた地の浄化など。
巡礼の祈りとは別件で頼まれたりする。
報酬も別でもらえるから断ることはない。
だからいつも通りに話を聞くことにした。
だがいつもとは、普通とは、違った。
娘が異質だから見てほしいと。
たまにあるが、生まれながらの気質や障害などは神のみもとでも治せないものがある。
だから、だいたいそんなのばかりだと思ってい。
たが違った。
本物だった。
私の守護霊も視えているようだ。
それ故に、両親が持て余した。
領主達も苦心惨憺したのが伺い知れた。
努力が身を結ばない虚しさは計り知れない。それが我が子のこととなると。
こちらで受け入れると承諾し、彼女は神殿で預かった。
そして視える力を伸ばすため指導した。
ある日、彼女は故郷を思い泣き出した。
まだ幼いのだから両親を慕うのは当然だ。
だから一時的に里帰りを提案したが、彼女は断った。
両親の背後は、視えていた。
だから知っていると言う。
「心配しているのも愛情がちゃんとあるのも、分かってる。でも私いると、ママ達心から笑わない。悲しむの、だから帰らない」
そう彼女は言った。
彼女は神殿の敷地内のみで過ごし、神殿で学ぶ。
視る能力をコントロールする訓練はなかなか難しく身につけるのに苦労していた。
他にもシスターから信徒の手ほどを受けていたが、彼女本人もまだその道に進むかは分からなかった。
月日は流れ、彼女は聖言を唱え浄化するまでの能力を身につけて立派にシスターにも慣れるほどだに成長した。
だが、彼女は神殿から出ない。
どんなに楽しいお祭りでも、王のパレードも市も出店も見ずに育った。
周りのシスター達が楽しげに話すのをただ聞くだけ。
祈祷にくる家族を羨まし気に眺め、そのあと悲壮な顔で部屋に駆け込むのを何度も見た。
もう自信を持って普通の生活が出来る。
もっと早くに家に帰れるはずなのに、何度言っても彼女は首を横に振った。
家族の面会を断り、10年が過ぎた。
デビュタントの年に帰ることが決まった。
「帰ったら悲しむから」
そう言う彼女にデビュタントが期限だと言った。
自信なさ気に「分かった」と頷く彼女の心境はいかばかりか。
それでも彼女の成長を願い、この神殿から突き放さなければならない。
あの幼な子はこんなに大きくなった。
もう、苦しまないといいのだが。
私もそろそろ子離れしなければ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
育て親の神官視点です。
ヒロインが神殿に預けられる経緯の話です。
本編を読む資料背景として頂ければと思います。
ご読了ありがとうございました。
次話から二章ですのでよろしくお願いします。
0
あなたにおすすめの小説
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
安らかにお眠りください
くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。
※突然残酷な描写が入ります。
※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。
※小説家になろう様へも投稿しています。
この闇に落ちていく
豆狸
恋愛
ああ、嫌! こんな風に心の中でオースティン殿下に噛みつき続ける自分が嫌です。
どんなに考えまいとしてもブリガンテ様のことを思って嫉妬に狂う自分が嫌です。
足元にはいつも地獄へ続く闇があります。いいえ、私はもう闇に落ちているのです。どうしたって這い上がることができないのです。
なろう様でも公開中です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる