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二章
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「では呪術者を呼びますね」
ヴェクステル館長は呪術者を呼ぶとすぐに扉から入ってきた。
「彼がディマ・ヴィーエ。呪術者としてここに在籍しています」
おおー!初術者さま!は、何処にでも居そうな青年の姿だった。
茶色い髪に二十歳前後な顔つきで、普通に街中を歩いても目立たない青年。でも、ムッスリと不貞腐れた顔付きで渋々来ました感が半端ない。顔もそっぽ向いてこちらを向くこともない。
ヴェクステル館長の近くの椅子に座るとダラシなく足を組んでいる。
「彼が出来ることは、呪術の施行。後は、他人の呪術の気配が分かります。判別や追跡は能力外だそうです」
「結構偏りの激しい能力だなぁ」
つい間髪入れずに突っ込んで言ってしまった。だって出来るのは呪術の施行のみってことだ。
ムッとしたヴィーエさんがギロリと睨んでこっちを見た。
「視るだけの能力者に言われたくない」
「私は普通の市民だもん。術者じゃないもん。普通の人だもん」
反論した私に哀れみのような視線を投げるヴィーエさん。何故だ?
「君も充分能力者だと思うのだが?」
「これで普通なら、俺達も普通になるだろ」
「えー。一緒にしないでくださいよ」
ヴィーエさんとマアディン近衛騎士、二人して半眼で見ないでください!
この世界の呪術者は少ない。
術を使える特異な人は中々おらず、いたら王城で保護されるのだと聞いた。
呪術で呪われた王様は術者でなければ対応できないと思われていた。でも、呪術出来ても相手がどんな呪術を使ったか、詳しく調べるのは難しいのだそうだ。
秘されるのが呪術。
解明が難しいから解術まで時間がかかり、結局死に至りやすい。
だから、呪術者は敬われ畏れられ恐れられる。
でも、今回の事案は視れないと分からない事案だった。
視えなければ分からないもんね。
呪術の媒体の箱が城の外にあるから見れなかったみたい。幽体離脱させただけで、あとの行先がわからなきゃ戻せない訳だし。
まあ、私も幽体離脱後の行方なんて追えないけどね。追跡しにくいのが霊体。ふと消えて移動しちゃうから、追尾困難なのだ。
思念体とかもそう。
瞬間移動だから。
追えない。
「お前が王を戻したんだろ?」
「いえ。違いますよ。神官様です」
「でも、解決させたのはその霊視だろ」
ヴィーエさんはそう言うと椅子に立膝付いて背凭れにダラリとしてますが。
後ろの方からペチペチ叩かれてますよ。
言わないけど。
「君も充分、術者だと思うのだが」
「は?私が術者ですか?」
「その視える能力は術者と同じく貴重だと思う」
マアディン近衛騎士は私に向き合うと真剣に言ってきた。この能力に他の人が向き合うことなんて無かったからどう対応していいかなんて分からない。
「そうですかねぇ。他にもいそうですが」
「だが、そこまで意思疎通ができるのは立派だと思う」
「だからと言って、呪術者と同じ括りになれるとは思えません」
「そうか?なら術者ではなく能力がある者としても、充分素晴らしいことだと思う」
マアディン近衛騎士は力強くそう言うと大きな口を引いてニイと笑った。
その眼はちゃんと私を見て、発せられた言葉なのだと語る。
嬉しくて思わず頬を緩め笑った。
ーー褒められた。
疎まれ怖がられ避けられたこの能力。
褒められることなんかなかったのに。
どうこの気持ちを表現していいか分からない。
なんだか胸の中が暖かいのにモヤモヤしてよく分からなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ご読了ありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。
ヴェクステル館長は呪術者を呼ぶとすぐに扉から入ってきた。
「彼がディマ・ヴィーエ。呪術者としてここに在籍しています」
おおー!初術者さま!は、何処にでも居そうな青年の姿だった。
茶色い髪に二十歳前後な顔つきで、普通に街中を歩いても目立たない青年。でも、ムッスリと不貞腐れた顔付きで渋々来ました感が半端ない。顔もそっぽ向いてこちらを向くこともない。
ヴェクステル館長の近くの椅子に座るとダラシなく足を組んでいる。
「彼が出来ることは、呪術の施行。後は、他人の呪術の気配が分かります。判別や追跡は能力外だそうです」
「結構偏りの激しい能力だなぁ」
つい間髪入れずに突っ込んで言ってしまった。だって出来るのは呪術の施行のみってことだ。
ムッとしたヴィーエさんがギロリと睨んでこっちを見た。
「視るだけの能力者に言われたくない」
「私は普通の市民だもん。術者じゃないもん。普通の人だもん」
反論した私に哀れみのような視線を投げるヴィーエさん。何故だ?
「君も充分能力者だと思うのだが?」
「これで普通なら、俺達も普通になるだろ」
「えー。一緒にしないでくださいよ」
ヴィーエさんとマアディン近衛騎士、二人して半眼で見ないでください!
この世界の呪術者は少ない。
術を使える特異な人は中々おらず、いたら王城で保護されるのだと聞いた。
呪術で呪われた王様は術者でなければ対応できないと思われていた。でも、呪術出来ても相手がどんな呪術を使ったか、詳しく調べるのは難しいのだそうだ。
秘されるのが呪術。
解明が難しいから解術まで時間がかかり、結局死に至りやすい。
だから、呪術者は敬われ畏れられ恐れられる。
でも、今回の事案は視れないと分からない事案だった。
視えなければ分からないもんね。
呪術の媒体の箱が城の外にあるから見れなかったみたい。幽体離脱させただけで、あとの行先がわからなきゃ戻せない訳だし。
まあ、私も幽体離脱後の行方なんて追えないけどね。追跡しにくいのが霊体。ふと消えて移動しちゃうから、追尾困難なのだ。
思念体とかもそう。
瞬間移動だから。
追えない。
「お前が王を戻したんだろ?」
「いえ。違いますよ。神官様です」
「でも、解決させたのはその霊視だろ」
ヴィーエさんはそう言うと椅子に立膝付いて背凭れにダラリとしてますが。
後ろの方からペチペチ叩かれてますよ。
言わないけど。
「君も充分、術者だと思うのだが」
「は?私が術者ですか?」
「その視える能力は術者と同じく貴重だと思う」
マアディン近衛騎士は私に向き合うと真剣に言ってきた。この能力に他の人が向き合うことなんて無かったからどう対応していいかなんて分からない。
「そうですかねぇ。他にもいそうですが」
「だが、そこまで意思疎通ができるのは立派だと思う」
「だからと言って、呪術者と同じ括りになれるとは思えません」
「そうか?なら術者ではなく能力がある者としても、充分素晴らしいことだと思う」
マアディン近衛騎士は力強くそう言うと大きな口を引いてニイと笑った。
その眼はちゃんと私を見て、発せられた言葉なのだと語る。
嬉しくて思わず頬を緩め笑った。
ーー褒められた。
疎まれ怖がられ避けられたこの能力。
褒められることなんかなかったのに。
どうこの気持ちを表現していいか分からない。
なんだか胸の中が暖かいのにモヤモヤしてよく分からなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ご読了ありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。
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