37 / 55
二章
26
しおりを挟む
王様の執務室から一歩出た瞬間、脱力した。とにかく疲れた。
「部屋まで送ろう」
「手を引こうか?」
「抱えて行くか?」
どれもお断りします。
アエス王子に送ってもらうのは疲労を重ね掛けするので遠慮します。執事モードのファルシュさんに手を引かれるのもお断りします。マアディン卿、オカンですか?過保護ですよ?
周りから気遣って貰ったけど。
今の私は周りに気を配る余裕がなかった。皆がどんな眼で見ているかなど。気にも留めていなかった。
とにかく急いで部屋に戻ってベッドに横になった。
掛布にもぐり目を瞑る。
王妃の実家は、レトン侯爵家。
長女ミニエーラ・レトン侯爵令嬢が家を継ぐ長子。
次女アリアージュ・レトンは王妃となった。
庭園で会ってお茶をしたのがアリアージュ王妃。
ーーでも
あの部屋で、アリアージュ・ゼス・キュイベルだと言った、あの女性は?
あと後倒れて見た夢。
目を瞑り微睡むと、
あの夢の続きが甦えるーー。
ーー時が流れ結婚式が行われている。
白い衣装を纏う二人を国民が祝福する。
華やかなパレードの裏で泣いている女性がいた。
『なら!私が産む!私の子が王子となり王となる!貴女はお飾りで置き物の王妃になるの!」
激昂する女性と泣く女性。
交互に影が入れ替わり暗くなる。
ーー暗い寝室で眠る女性。
『貴女はもう居ないわ』
『貴女は私』
『先に死んだのはお姉様よ』
『さようなら。お姉様ーー』
コンコンコン。
ハッと飛びあがった。
恐る恐る掛布から顔を出すと再び、コンコンコンとノックが聞こえる。
逡巡したが、ノロノロと寝台から降りて扉をゆっくりと開けた。
「話しがあるんだ」
ファルシュさんが立っていた。
向かい合わせにソファーに座り、ただ無言のまま俯いた。
何をしに来たのか。
何となく予想がして言葉が出て来なかった。
「聞きたいことがある」
喉が詰まったように声が出せず、その問いに、「はい」と言うのがやっとだった。
「あの子供部屋に、誰が、居たのか教えてほしい」
息が詰まったように言葉が喉で止まった。
「ベッドの上に居たのだろ?」
見透かされていると言うより、あの時視線の先を気取られていたようだ。
アエス王子とは違う、影武者としての眼。鋭く動向を見極める、猛禽類の如く威圧されて萎縮した。
「話してもらえないかな?」
重い空気の中、緊張に包まれながら口を開いた。
「アリアージュ・ゼス・キュイベル王妃が座って居ました」
「アリアージュ王妃……。そうか、なら君はもう知っているのだね?」
何を知っているか、答えられなかった。
ファルシュさんの視線の圧に、発する言葉を失った。
黙した私に代わり話し始める。
「視えたんだね、王子の本当の母親を。王妃が王妃でないことを。
君は、王は側室に第一子を産ませるとレギール王から君は聞いている。なら王妃は第一子の義母だと分かる。だが、アリアージュ王妃は子を産み今も生きて生活している。
三つ子の出産に耐えたのなら話は簡単だ。
だが亡くなり、霊となってベッドに居る。
時同じく、ミニエーラ・レトン侯爵令嬢が亡くなったのを鑑みて、君も答えに行き着いたのだろ?」
一旦区切ると私のことを確認するように視線を巡らせたファルシュさん。
「我ら三つ子の母が本当のアリアージュ・ゼス・キュイベル王妃。
今のアリアージュ・ゼス・キュイベル王妃はミニエーラ・レトン侯爵令嬢だ」
やっぱりか、と眉間に皺を寄せギュッと目を瞑った。
レギール王の話し。
夢の中の出来事。
辻褄の先に辿り着いてしまった。
王妃の挿げ替え。
三つ子を産み亡くなった妹の代わりに、姉が死んだことにして王妃の身代わりとなった。
王家の秘密など知りたくなかったのに。
関わりたくないのに。
でもなぜか話しをしたファルシュさんの方が苦悶の表情を浮かべていた。
第一子は三つ子だ。
一人は王子となり、残りの二人は影武者になるのだろう。
王子とファルシュさんともう一人で三つ子の兄弟だ。
きっと、亡くなった仲間と言うのが兄弟だったのだろう。
「影武者の中で王妃が義母なのは公然の了解だ。誰も口にしない。出来ないしな。消されるから。
同じ兄弟なのに、扱いの違いに恨みもしたさ。反抗も。でも、アエスも兄弟として苦しんだ。アイツが……、ファルセダが死んで俺も死にかけたりもした」
恨み苦しみ、それでも引き合う三つ子の縁。
祝福か呪いか。
レギール王の言葉が消えないまま心の隅に残った。
私の疑問気な顔に「兄弟より幼馴染のような間柄なんだ。不思議か?」とファルシュさんは聞いてきた。
「三つ子は引き合うみたいだ。だから離れるのも難しい。祝福なのか呪いなのかわからないが」と呟く。
「君はこの秘密をどうするんだい?」
そう聞かれて言葉を無くした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつもお読み下さりありがとうございます。
今更ですが、登場人物を章の始めに置きました。髪色や目の色、年齢です。
近況ボードには詳しい説明つきで置きました。
ネタバレがあるので、お目を通す際はご注意下さい。
次話もよろしくお願いします。
「部屋まで送ろう」
「手を引こうか?」
「抱えて行くか?」
どれもお断りします。
アエス王子に送ってもらうのは疲労を重ね掛けするので遠慮します。執事モードのファルシュさんに手を引かれるのもお断りします。マアディン卿、オカンですか?過保護ですよ?
周りから気遣って貰ったけど。
今の私は周りに気を配る余裕がなかった。皆がどんな眼で見ているかなど。気にも留めていなかった。
とにかく急いで部屋に戻ってベッドに横になった。
掛布にもぐり目を瞑る。
王妃の実家は、レトン侯爵家。
長女ミニエーラ・レトン侯爵令嬢が家を継ぐ長子。
次女アリアージュ・レトンは王妃となった。
庭園で会ってお茶をしたのがアリアージュ王妃。
ーーでも
あの部屋で、アリアージュ・ゼス・キュイベルだと言った、あの女性は?
あと後倒れて見た夢。
目を瞑り微睡むと、
あの夢の続きが甦えるーー。
ーー時が流れ結婚式が行われている。
白い衣装を纏う二人を国民が祝福する。
華やかなパレードの裏で泣いている女性がいた。
『なら!私が産む!私の子が王子となり王となる!貴女はお飾りで置き物の王妃になるの!」
激昂する女性と泣く女性。
交互に影が入れ替わり暗くなる。
ーー暗い寝室で眠る女性。
『貴女はもう居ないわ』
『貴女は私』
『先に死んだのはお姉様よ』
『さようなら。お姉様ーー』
コンコンコン。
ハッと飛びあがった。
恐る恐る掛布から顔を出すと再び、コンコンコンとノックが聞こえる。
逡巡したが、ノロノロと寝台から降りて扉をゆっくりと開けた。
「話しがあるんだ」
ファルシュさんが立っていた。
向かい合わせにソファーに座り、ただ無言のまま俯いた。
何をしに来たのか。
何となく予想がして言葉が出て来なかった。
「聞きたいことがある」
喉が詰まったように声が出せず、その問いに、「はい」と言うのがやっとだった。
「あの子供部屋に、誰が、居たのか教えてほしい」
息が詰まったように言葉が喉で止まった。
「ベッドの上に居たのだろ?」
見透かされていると言うより、あの時視線の先を気取られていたようだ。
アエス王子とは違う、影武者としての眼。鋭く動向を見極める、猛禽類の如く威圧されて萎縮した。
「話してもらえないかな?」
重い空気の中、緊張に包まれながら口を開いた。
「アリアージュ・ゼス・キュイベル王妃が座って居ました」
「アリアージュ王妃……。そうか、なら君はもう知っているのだね?」
何を知っているか、答えられなかった。
ファルシュさんの視線の圧に、発する言葉を失った。
黙した私に代わり話し始める。
「視えたんだね、王子の本当の母親を。王妃が王妃でないことを。
君は、王は側室に第一子を産ませるとレギール王から君は聞いている。なら王妃は第一子の義母だと分かる。だが、アリアージュ王妃は子を産み今も生きて生活している。
三つ子の出産に耐えたのなら話は簡単だ。
だが亡くなり、霊となってベッドに居る。
時同じく、ミニエーラ・レトン侯爵令嬢が亡くなったのを鑑みて、君も答えに行き着いたのだろ?」
一旦区切ると私のことを確認するように視線を巡らせたファルシュさん。
「我ら三つ子の母が本当のアリアージュ・ゼス・キュイベル王妃。
今のアリアージュ・ゼス・キュイベル王妃はミニエーラ・レトン侯爵令嬢だ」
やっぱりか、と眉間に皺を寄せギュッと目を瞑った。
レギール王の話し。
夢の中の出来事。
辻褄の先に辿り着いてしまった。
王妃の挿げ替え。
三つ子を産み亡くなった妹の代わりに、姉が死んだことにして王妃の身代わりとなった。
王家の秘密など知りたくなかったのに。
関わりたくないのに。
でもなぜか話しをしたファルシュさんの方が苦悶の表情を浮かべていた。
第一子は三つ子だ。
一人は王子となり、残りの二人は影武者になるのだろう。
王子とファルシュさんともう一人で三つ子の兄弟だ。
きっと、亡くなった仲間と言うのが兄弟だったのだろう。
「影武者の中で王妃が義母なのは公然の了解だ。誰も口にしない。出来ないしな。消されるから。
同じ兄弟なのに、扱いの違いに恨みもしたさ。反抗も。でも、アエスも兄弟として苦しんだ。アイツが……、ファルセダが死んで俺も死にかけたりもした」
恨み苦しみ、それでも引き合う三つ子の縁。
祝福か呪いか。
レギール王の言葉が消えないまま心の隅に残った。
私の疑問気な顔に「兄弟より幼馴染のような間柄なんだ。不思議か?」とファルシュさんは聞いてきた。
「三つ子は引き合うみたいだ。だから離れるのも難しい。祝福なのか呪いなのかわからないが」と呟く。
「君はこの秘密をどうするんだい?」
そう聞かれて言葉を無くした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつもお読み下さりありがとうございます。
今更ですが、登場人物を章の始めに置きました。髪色や目の色、年齢です。
近況ボードには詳しい説明つきで置きました。
ネタバレがあるので、お目を通す際はご注意下さい。
次話もよろしくお願いします。
0
あなたにおすすめの小説
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
安らかにお眠りください
くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。
※突然残酷な描写が入ります。
※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。
※小説家になろう様へも投稿しています。
この闇に落ちていく
豆狸
恋愛
ああ、嫌! こんな風に心の中でオースティン殿下に噛みつき続ける自分が嫌です。
どんなに考えまいとしてもブリガンテ様のことを思って嫉妬に狂う自分が嫌です。
足元にはいつも地獄へ続く闇があります。いいえ、私はもう闇に落ちているのです。どうしたって這い上がることができないのです。
なろう様でも公開中です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる