魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ

文字の大きさ
20 / 30

20.保留だ

しおりを挟む
 今日も今日とて朝日が昇る頃に起き、大鍋で炊き出しをした後すぐに狩りに出かける。
 そうそう、ゴブリンたちに水回りの使い方を教えたのだけど……水を飲み、はしゃいでいたな。
 なんだか、子供たちを相手にしている気になってきた。あいつらって見た目は凶暴だけど、中身はとっても単純で聞き分けも悪くない。
 ただし、食糧に関することが最優先される。
 
『壁はそのままなのかもきゃ』
「よっし。今日もあっさりと肉確保だ」

 倒れ伏すイノシシと虎の首を持つ魔獣、馬の体に蛇の頭がついた不気味なモンスターを見下ろし、ふうと息を吐く。
 パンパンと手を叩き、こきりと首を回した。

「食べられるのかな、これ……」
「たぶん?」

 不安気にまつ毛を震わせるラウラに俺も額にタラリと冷や汗を流しつつ応じる。
 一応、肉だし……いけるんじゃない?
 道ずがら鹿とかイノシシみたいな動物を見かけたら狩ることにしようか。
 
『そのままなのかもきゃ?』

 肩まで登ってきた小動物が何か言っているが、無視だ無視。聞こえなーい。
 痛て。
 こいつ、爪でひっかいてきやがった。

「あれは保留だ」
「ごめんね。あれでも精一杯描いたの……」

 肩を落とすラウラに「いやいやいや」と大きく首を左右に振る。
 彼女の絵は俺の考えている以上に精微なものだった。
 だが、被写体が悪すぎる。
 これをそのまま、採用するのはちょっと……なんだよね。
 
 未だにカリカリと俺の首筋をひっかくもきゃを指先でコツンと弾く。
 
『もきゃー!』
「分かった。帰ったらやるから」
『分かればいいもきゃ』

 彼女の絵は、フクロモモンガがもきゃーと両手を広げているものだったのだ。
 いやさ。もしここにいるのがフクロモモンガじゃなくて狸だったとしたら、採用してもいい。
 でも、ルルーそっくりなこの絵を使うのがなあ……。
 と思っていたけど、一瞬で描きかえることができるしラウラに新しい絵を描いてもらって差し替えすりゃいいか。
 
 このまま放っておくと、ルルーがうるさいからな。
 
「ごぶー。ごぶー」
「ごぶぶー」

 そうこうしているうちに、ゴブリンの鼻歌が聞こえてきた。
 今日も彼らが追いつく前に狩りが完了だ。順調順調。
 
「んじゃ、あとはゴブリンたちに任せて。俺たちは探索に向かおう」

 ズラ―っとトロッコを出し、ゴブリンたちに獲物を引き渡した後、奥地に向かう。
 
 ◇◇◇
 
「うーん。徒歩だと中々進まないな」

 ラウラと並んでてくてくと風景を楽しみながら歩くのは悪くない。
 時折、野草やキノコを採集しつつのんびりとしたゆったりとした時間が流れていく。
 モンスターの姿もなく、肉も同じく見かけなかった。
 生活基盤が整ってからなら、こういう時間を過ごしたい。だけど、今はまだその時じゃないんだ。
 
 焦っても仕方ないってわかっているんだけどさ。冬を迎えるまでにいろいろ整えたいんだよな。

「あ、野イチゴがあったよ」
『寄越すもきゃー』

 鮮やかな赤色の野イチゴがなる低木の元でしゃがみ込んだラウラが首だけをこちらに向ける。
 するとスレイプニルに乗っかったルルーがひょいっと地面に降り立ち、するするっとラウラの肩に乗っかった。
 にこにことした彼女は指先で摘んだ野イチゴをルルーのピンク色の口元に寄せる。
 
 野イチゴをはっしと両手で挟み込んだルルーは、そのままもっちゃもっちゃと小さく口を動かした。
 果汁が口元から垂れて汚らしい。
 
 おっと。和んでいる場合じゃあない。
 創造スキルの柔軟性を活かし、移動手段を確立したいところ……。
 木々を薙ぎ倒しながら行くなら大丈夫だけど、せっかくの狩場を荒したくないよなあ。
 
「うーん」
「どうしたの? さっきからずっと難しい顔をして」

 はいっと手の平に乗せた野イチゴを掲げ苦笑するラウラ。
 ひょいっと野イチゴを一ついただき、口に含む。
 うーん。酸っぱい。だけど、この酸っぱさがリフレッシュによいよい。

『どうしたもきゃ?』
「べったべたになっているぞ。ほれ」

 ウェットティッシュを創造し、ルルーの口元を拭いてやる。
 しかし、すぐに次の野イチゴを食べ始めてしまったので、無駄に終わった。
 こ、この野郎。喋るんじゃなかったのかよ。
 
『それで、どうしたもきゃ? もっちゃもっちゃ』
「……まあいいやもう。いや、ほら、ノンビリ行くのもいいんだけど、スピードアップもいいかなってな」

 食べるのを止めないらしいので、ラウラに聞いてもらいたい意味で俺の想いを説明する。
 ところが、先んじたのはルルーだった。
 
『空飛ぶ魔物を捕獲すればいいもきゃ』
「軽く言ってくれるなあ……倒すより手懐けるのは遥かに難しいんだぞ」
 
 喋ったから果汁が余計飛び散る。ダラダラと口から垂れていて彼の長い毛がベタっと固まっていた……。
 それはいいんだが、ラウラが期待の籠った熱視線を俺に向けているじゃあないか。
 
「捕まえるの?」

 ラウラがキラキラした目をして聞いてきた。
 う、うーん。
 腕を組み、唸る俺の足元に前脚を乗せたスレイプニルが小首をかしげ「にゃーん」と鳴く。
 そうか、お前だけが俺の味方ってわけか。

「ラウラ。翼のいっぱい生えた蛇とか、とてもじゃないけど御せるように思えないんだよ。それに、万が一、従ってくれたとしてもあの蛇には乗りたくないな……」
『あれは肉もきゃ。美味もきゃ』
「確かに。淡泊ながらも肉質が柔らかく中々のものだった」
「にゃーん」

 スレイプニルも俺とルルーの意見に同意する。

「いい案が思いつかない。ゆっくり行きながら、ところどころで高いところに登ろうか」
「うん」
『不甲斐ない奴もきゃ』
「高いところに登ったら、飛行タイプのモンスターが襲ってくるかもしれないし。ほら、蛇も来ただろ。今日だってモンスターが寄ってきたし」

 高いところに登るとやっぱり注目されるみたいで、巨体を誇るモンスターが必ずといっていいほどやって来る。
 といってもまだ二日目だから、たまたまかもしれないけどさ。
 
 丁度いい、思いついたが吉というじゃないか。
 一時間ちょっと歩いてきたから景色も少しは変わっているだろ。
 
「出でよ」

 足元からぎゅーんと柱が伸び、俺たちを乗せ大木の上まで視界が高くなった。
 そして、これだ。
 取り出した……いや、作り出したるは望遠鏡。
 何度も作っているから、パーツごとに作らなくても想像できるようになったのだ。
 経験って大事ね。
 
「ラウラ」
「いいの?」
「うん。俺の分は今作るから」
「ありがとう」
 
 望遠鏡を握りしめ、ワクワクした様子で覗き込むラウラ。
 俺もぐるりと周囲の景色を見渡した後、彼女と同じように望遠鏡を覗き込む。

「お、滝があるな」

 切り立った山肌から落ちる滝を発見した。規模はそれほど大きくなくて、この角度だったからちょうど木々の隙間を縫ってみることができたって感じだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

処理中です...