異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

文字の大きさ
6 / 52

6.ユーカリパワー

しおりを挟む
 えー、三日目になりました。
 ユーカリの葉を求めて、今日も狩りに出かけるコアラです。
 
 ユーカリサーチを使いつつ、ステルスの念仏を頭の中で唱えることにも慣れてきた。
 スキル以外は全て順調。
 どんなところでモンスターが眠っているか分かってきたことが大きい。
 その証拠に、一時間ほどで既に三体のモンスターを仕留めているのだから。
 
 さて、お次はっと。
 ユーカリサーチを発動すると、赤い点が大量に集中している!
 お、おおお。
 こいつは……久々に来たな。大物が。
 
 そろりそろりと枝を伝って赤い点に近づいて行く。
 いたぞ。
 ユーカリのベッドで眠る狼型のモンスターがな。
 
 前回狩った時は、一撃で仕留めることができなくて死にそうな思いをした。
 今回はどうかなあ。
 危険?
 そんなもの、大量のユーカリを前に引っ込むってもんだ。
 コアラのユーカリに対する執着心を舐めちゃあいけねえ。
 
 巨体を丸めて眠る狼は、頭を横に向けて眠っている。
 前は地面に顎をつけるように眠っていたから、真上からストンといけたんだけど、今回は角度をつけないとダメだな。
 焦るな。
 観察しろ。
 眉間に繋がるコースがあるかどうか、念入りにチェックしなきゃならない。
 もし、コースが無いのなら諦めることも必要だ。
 欲張ると死に繋がる。
 これまでずっと上手くいっているから、今度もいけると勘違いしちゃあいけない。しくじると一撃死する状況は変わってない、と肝に銘じるべき……ユーカリ。
 待て待て。
 ユーカリに頭が支配されそうだった……。
 いかんいかんと首を振り、冷静に周囲を見やる。
 
 お、あそこからなら行けそうだな。
 狼を挟んで反対側の枝から斜めに落下すれば、ちょうど眉間に当てれそうだ。
 実際に見てみないと確定はできないけど……。
 
 ソロソロと目的の枝に移動し、見下ろす。
 よっし。行けそうだ。
 槍をアイテムボックスに仕舞い込み、枝にぶら下がる。
 
 ぶらーんぶらーんと勢いをつけ、飛び出す!
 槍をアイテムボックスから出し、構える。
 
 ――グサリ。
 穂先が狼の眉間に深く吸い込まれて行く。
 槍の勢いはそれだけで止まらず、地面に突き刺さった。
 と同時に狼がビクビクと全身を震わせ、ガクリと首から力が抜ける。
 狼は抵抗することもなく、そのまま砂と化した。
 
「マ、マジか……」

 驚きで思わず声を出してしまう。
 急ぎ樹上に戻り、周囲を確認しホッと胸を撫でおろす。
 
 俺? 強くなっている?
 あれほど頑強に抵抗した狼をものの見事に一撃で仕留め切った。
 ここに来て初めてレベルが上がったことを実感したぞ。
 
 といっても、やることは変わらない。
 まともにモンスターと対峙して勝てる気がしないのだ。
 こんな小さなコアラが、比較的弱いと予想される角が生えた猪と格闘してねじ伏せることができるか?
 俺は猪に跳ね飛ばされるビジョンしか浮かばないよ。
 
 さてっと、周囲にモンスターはいないようだし回収するか。
 狼はユーカリの葉十枚と牙、直径三センチほどの球体をドロップしていた。
 球体は……目玉っぽい……見ないようにしてアイテムボックスに仕舞い込む。
 
 ◇◇◇
 
 大量のユーカリの葉を獲得した俺はホクホクしながらも、ステルスを念じる。
 おや? いつものメッセージが脳内に浮かばないじゃないか。
 ひょっとしてステルスが発動した?

 何か変化があるのか確かめないとな。次はいつスキルの発動が成功するのか分からんし。
 考える時の癖で顎に手をやろうとした時、すぐに自分の変化に気が付いた。
 腕が目視できない。
 目だけで自分の足元を見てみると、足も見えず胴体も同じく見えない。
 なるほど……ステルスの効果とは自分の体を透明にすることか。
 つ、使い辛いな……。
 自分の体が見えないから、枝から枝に飛び移る時とか自分の指先を目視できないんだ。
 慣れるまでは辛いけど、モノにすればいろんな場面で使えそうではある。
 
 もう一つ確認してみよう。
 
 スンスン。
 自分の腕を鼻につけ、ヒクヒクさせてみたら……臭い。獣臭い。
 ダメか。匂いは消えない。
 自分の腹に手で触れてみたところ、モフモフした感触と体温を感じ取れた。
 
 ステルスでは姿を透明にするだけで、他はそのまんまのようだな。
 それなりに目くらましにはなるだろうけど、視覚以外の部分は誤魔化すことができないってわけか。
 
「把握したところで、次に行くか」

 声を出した瞬間に、自分の体が元に戻る。
 ……。
『スキルの使用に失敗しました』
 
 ですよねええええ。
 気を取り直し、次の獲物を探しに行く俺なのであった。
 
 ◇◇◇
 
 十五体のモンスターを狩ったところで、今日のところは切り上げることにする。
 夜明けまであと一時間くらいってところかなあ(コアラの腹時計による)。
 
『名前:草薙壮士くさなぎそうし
 種族:コアラ
 レベル:40
 スキル:有
 魔法:有』  
 
 レベルは順調に上がっている。だけど、徐々に上がり辛くなってきた印象だ。
 レベルが四十になったところで、選択できるスキルが増えた。
 新しく増えたスキルはこんな感じ。
 
『スキルマネンジメント
 現在選択可能なスキル一覧
 忍び足
 ニンジュツ
 槍
 斧
 鎖鎌
 エンチャント
 死霊魔法
 テイム
 水泳』
 
 この中から「忍び足」とせっかく槍を使っているので「槍」スキルを修得した。
 
 他にもある。
 なんと、ついに固有スキルが増えたんだよ!

『スキル一覧
 ユーカリサーチ
 ユーカリパワー
 ステルス 熟練度 34.2
 探索 熟練度 15.4
 解剖学 熟練度 12.1
 動物学 熟練度 10.1
 罠 熟練度 0
 魔法 熟練度 0
 治療 熟練度 0
 道具作成 熟練度 0
 忍び足 熟練度 0
 槍 熟練度 0』
 
 ユーカリパワー……まだ試してないけど、どんな効果を発揮するのか楽しみだ。
 明日の探索で一度使ってみようかな。
 
 少し早いけど、スキルの確認も終わったことだし寝るとしようか。
 ……。
 …………。
 目を瞑ったが、スキルのことが気になって眠れない。
 夜明けまでまだ時間があるし、覚えたスキルを使ってみよう!
 
「忍び足」
『スキルの使用に失敗しました』

 ……。

「槍」
 
 反応が無い。ってことは、ちゃんとスキルが発動しているのか?
 スキル一覧を見てみたけど、熟練度が上がっていないじゃねえか。
 槍は発動するスキルじゃなくて、槍を使えばあがるのかもしれない。
 
 ラスト。お楽しみの固有スキルを使用してみるとしようか。
 熟練度表記の無い固有スキルは、発動失敗が無いはず!
 
「ユーカリパワー」

 な、何にいい。
 勝手に手が動き、アイテムボックスから二十枚のユーカリを取り出してしまう。
 あ、あああああああ。
 ユーカリが緑の粉となって崩れ去り、俺の体に吸い込まれて行く。

 なんて酷いスキルなんだと思っていたら、体の奥底から熱を感じ、みるみるうちに俺の全身をが熱くなる。

「こ、これは……」

 試しに軽く枝を爪でこすってみると、軽々と枝を切り裂いた。
 どうやら、筋力を一時的に引き上げるスキルみたいだけど……ユーカリが勿体無さ過ぎて使うことがためらわれる。
 腹も膨れないしさ……。
 
 やっぱりスキルなんて試すもんじゃなかった、とふて寝する。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...