外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーで成り上がる~

うみ

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第25話 護衛問題

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 トネルコの姿が見えなくなってから、エステルが遠慮がちに俺へ目を向けた。
 
「あ、あの。ストームさん、せっかくトネルコさんが書写本を売ってくださるのに……」
「エステルにも心配かけてしまったかな? 売上が無くてもお金の面は大丈夫だよ」

 販売先が無くなってしまったと思って心配してくれているエステル。お金に関してだけなら、本屋に卸さない方が稼げちゃうんだよな。
 にゃんこ先生はまだまだ買い取ってくれるし、魔術師ギルドの需要だけでも俺の生産が追いついていない。
 
 クラーケンの連中が俺を干上がらせようという目的でいるなら、とんだ見積もりの甘さだよ。
 さすがに、俺が冒険者ランクAだと知っていたし(冒険者ギルドの依頼で生活が困らない)、魔術師ギルドとの関係性も分かってるだろう。
 恐らく奴らの目的は俺を街の販売網から締め出すこと。俺たちのシマにはぜってい入らせねえぞって感じか。
 
「大丈夫だよ。エステル。俺が本屋に本を卸すのは、この街の販売網に食い込みたいからだけだから。本屋に卸すと儲け自体は却って減るんだよ」
「そ、そうなんですか……」

 ほへえと不思議そうな顔で首を傾けるエステルの姿に微笑ましい気持ちになる。
 思わず彼女の頭を撫でると、むううと頬を膨らませてきたから「ごめんごめん」と冗談めかして呟くと、すぐに彼女の頭から手を離す。
 
「その目的でしたら、やはりトネルコさんに頼まれた方が……」
「今はダメだ。エステル。さっきトネルコさんに俺が言ったことを思い出してくれ」
「……あ」

 エステルははっとしたように目を見開き、眉をひそめた。
 そうなんだよ。トネルコが協力してくれるのは、とてもありがたい。
 でも、このままだとエステルと同じように攫われる危険性があるんだよ。だからこそ、今はアウストラ商会に従うフリをしていてもらう必要がある。
 トネルコはそれを分かっていて覚悟を決めていたが……。
 
 む、なんだかとても重い空気になってしまったな……。
 えっと、ここは。
 
「他にも気になっていることは、あるんだけどな」
「そうなんですか?」

 微妙な空気になってしまったことを誤魔化すようにエステルへそう告げると、彼女はすぐに話に乗ってきてくれた。

「今回のことも『クラーケン』かその裏にいる『アウストラ商会』が糸を引いているのは確定として」
「はい」
「彼らって、どうもやり口が杜撰ずさんというか、君をさらった時も倉庫で待ち構えていたはいいけど……俺たちのことを分かっているはずなのに対策をしていないとか……」

 昨日、豆を食べている時にも考えたことだけど……奴らはライバルがいなかったからなのか、抜けが多すぎる。本気でこちらと事を構えるにしては、適当過ぎるんだよなあ。繰り返しになるが、これは単にボスであるグラハムが油断しているだけの可能性もある。
 これがワザとだとすると非常に厄介だが……もし、ワザとやっているのなら、既に俺たちは罠にかけられているはず。何度もそのチャンスはあったのだから。

「私にはよく分かりません……で、でもですね、ストームさん!」
「んん?」
「相手が油断しているなら、ストームさんにとって悪いことじゃないですよね!」

 にぱあと笑みを浮かべキラキラとした目で見つめられると何も言えなくなってしまう。
 彼女の子供っぽい仕草に思わず笑みが……。
 
「ま、またあ、子供扱いしましたよね!」
「気のせいだよ」
「むー!」

 旗色が悪くなる前に退散するとしよう。
 俺はくるりとエステルから背を向け、宿の外へ出る。
 
 まずは冒険者ギルドに行くか。ちょうど顔を出そうと思っていたところだったし……。
 彼らに護衛の仕事とか依頼できないかなあ。
 
 ◆◆◆
 
 冒険者ギルドに行くと、さっそくギルドマスターのルドンに取次を頼む。
 ちょうどルドンの手が空いていたみたいで、奥の部屋に通され彼に会う事ができた。
 
「よお。ランクの高いモンスターを次から次から狩っているって聞いてるぜ」

 ルドンは人好きのする笑顔を浮かべ、右手をあげる。気さくな彼らしい挨拶だ。

「すいません。忙しいところ」
「お前さんが直接会いたいってことは、大きなヤマか? ひょっとして伝説のSSランクの闇龍を狙うとかか? くうう。熱いぜ!」

 ルドンは大仰な仕草で、額をパチンと叩き弱ったなあって顔を見せる。

「い、いえ。そうではなく……」
「違うのか。そうか、あいつだろ。エンシェントキマイラ。古代遺跡の奥地にいるという……見つけたのか?」

 だ、ダメだ。なんだか一人で盛り上がってしまっている。
 でも「古代遺跡」って言葉に少し惹かれたのは秘密だ。
 
 しばらくいろんなモンスターの名前を出しているルドンを放置し、彼が落ち着くのを待つ。
 お、喋り過ぎて喉が渇いたようだな。水を飲み始めた。ここが好機!
 
「ルドンさん、護衛の依頼をしたいんですよ」
「ほう? この街は比較的安全なんだがな。守衛もちゃんと仕事をしているし……」

 興味無さそうにポリポリと指先で鼻をかくルドンへ、俺は低い声で囁くように告げる。
 
「クラーケン……」

 俺の言葉を聞いたルドンは急に興味が出てきたようで、身を乗り出してきた。
 
「ほう、続けてくれ」
「クラーケンと一戦交えたんですよ」
「おもしれえ奴だ。確か……本か何かを趣味で売っていたよな、お前さん。そうかそうか」

 ルドンはガハハと笑ながら、愉快そうに首を振る。
 今の言葉だけで彼は事態を理解した様子で、豪快な見た目の割にさすがギルドマスターと言ったところか。只者じゃあないな……。
 
「それなら、仕方ねえ。守衛は意味がないな!」
「はい。安全のため、朝晩ずっと働いてくれる護衛を二人欲しいんです。もちろん交代制で」
「いいぜ。依頼を出してくれ。ただし、ずっとは無理だと思うぜ。お前さんならもう分かってるだろう?」
「もちろんです。ありがとうございます」

 ルドンの言わんとすることはもちろん理解している。
 冒険者ってのは、一期一会なんだ。従業員じゃないんだから、せいぜい一か月が限界だろう。
 人をとっかえひっかえするなら、一年でも二年でも依頼を受けてはくれるだろうけど、入れ替わりが激しいとなるとだな……アウストラ商会に付け入られる隙も出るし、手癖の悪い冒険者が来るかもしれない。
 
 だから、一か月間より短い期間で護衛を準備しろって暗にルドンは示しているんだ。

「サービスだ。信頼できる奴を四人準備する。その代わり報酬は弾んでくれよ」
「ありがとうございます! もう一つ、依頼があります」
「分かってるぜ。任せときな。冒険者から足を洗おうと思っている奴に声をかけておく」
「察しが良くて助かります。そちらも紹介料を出しますので」
「おう!」

 俺とルドンはガッチリと握手を交わした。
 思った以上にすんなりと事が進んでビックリしている……。
 きっとルドンは俺が依頼に来ると踏んでいたのだろう。クラーケンとの一戦は彼の耳に入っていてもおかしくないから。
 それに、俺が街にとどまっている時に何をしているのかも知っているし……予測するのは容易い……と思う。
 
 ◆◆◆
 
 意気揚々と宿に戻り、書写を再開する……。この時まではよかった。
 
 しかし、三日が過ぎても冒険者ギルドからの連絡は無い。
 報酬は充分だと思うんだよなあ。行商人の護衛依頼の五割り増しの金額を提示しているのだから。
 報酬が高い街の中での護衛と報酬が低い街の外でモンスターが襲ってくるかもしれない場所での護衛……どちらに飛びつくか火を見るよりも明らかなんだが……。
 
 何か問題があるんだろうか?
 不思議に思って、冒険者ギルドに顔を出すとルドンの気遣いのために希望者が来ないことが分かった。
 
 彼はレベル二十五以上の中堅冒険者の「四人パーティ」に限定していたのだった。
 信頼できる者をと頼んだが、一定以上の能力がある冒険者たちにとってはモンスターを狩った方が割りがいい。しかも、パーティとなると益々「狩り」に向いているのだから……。
 
 パーティを解散したばかり、又はソロの中堅冒険者なら集まるかもしれないけど、いつになるのか分からない。
 よし、ならば……みんなに相談してからになるが、思いついた案がある。
 俺は一旦冒険者ギルドを後にするのだった。
 
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