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38.ノエルのおごりでね

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 不本意ながらアルトたちと食事をし、翌朝ヨッシーコースターで一気にアマランタの街まで帰還する。
 食べた後すぐにヨッシーコースターに乗るもんじゃねえな。ちょっと気分が優れない……。
 ともあれ、ヨッシーとスイの登録もしなきゃだし、まずは冒険者ギルドに向かうことにしよう。残してきたスライムも気になっていることだし、ね。
 きっとミリアムならちゃんと手続きをして、お預かりルームを手配してくれているはず。
 それにほら、ここに彼女へのお礼もある。
 うんうん。
 
 そんなわけで、冒険者ギルドまでやって参りました。
 俺、一体誰に説明してんだ……。
 
「うおっぷ」

 ギルドに入るやいなや、スライムがぺちゃりと俺の顔に飛び込んできた。
 顔にはりついたままの彼をやんわりと引きはがし、そのまま手の平に乗せる。
 
「すまん。置いていっちゃって」

 ぷるぷると震えて抗議するスライムを指先でつっつく。
 それでもう満足してくれたのか、スライムが跳ねてリュックの中に潜り込んだ。
 スライムが元気でいてくれてホッとした反面、何故冒険者ギルドの中にいたんだろうと不思議に思う。
 通常、獣魔は預かり所という別の場所で管理されているはずなのだけど、ギルドの中で面倒を見てくれていたのかな?
 スライムは決して誰かを傷つけたりするような子じゃないから、問題ないのだけど。それでも世間はそうは思ってくれないものだ。
 モンスターだから危険という認識は根強い。ぷるぷるしてて可愛いのに。
 
 まずは受付に向かおう。
 幸い、受付を行っている冒険者がおらず、そのまま営業スマイルを浮かべるミリアムの向かいに座ることができた。
 俺が座ると途端に無表情に変わるミリアム。
 昔からの仲だから、営業スマイルを張り付けてくれとは言わないけど、もう少し愛想よくしてくれてもいいんじゃないだろうか。
 いや、まあ、気持ちは分からんでもない。スライムを置いていってしまった俺の尻ぬぐいをしてくれたんだろうから。
 隣で座るもう一人のおさげと眼鏡が特徴的な受付嬢ミューズと対称的だ。彼女はちゃんと笑顔で俺を出迎えてくれている。
 
「ノエルさん。ご用件は?」
「え、うん。依頼を達成してきたんだけど」
「そうですか。でしたら、依頼書を見せていただけますか? 確認します」

 うわあ。これは酷い。
 し、しかし。ここで引いてはダメだ。
 
「あ、あと。新しく登録したい獣魔がいるんだよ。街の外に待機させているから、後で呼んでこようと」
「大型の獣魔ですか?」
「乗ることができるくらいかな。オルトロスみたくは大きくない」
「承知しました。後程お連れください。衛兵には話を通しておきますので」
「うん。あ、あのさ。ミリアム」
「はい?」

 こええ。こええよお。凍てつくようなオーラが怖い。
 別の話で引っ張ろうとした男らしくない俺が悪いってことだよな。
 すうはあと小刻みに息をして、自分の気持ちを落ち着ける。
 
「スライムのこと。ありがとう」
「忘れちゃったんだよね?」
「うん。後になって気が付いてさ。ミリアムを信じてそのまま奥地に向かったんだ」
「ノエルだし。スライムくん、とっても人気なのよ。私も家で大助かりだったわ」
「獣魔屋に預けてなかったの?」
「うん。ぷるぷるして可愛いし。ギルドの中をずっとお掃除してくれていたわよ。一緒に寝るとひんやりして気持ちいいし」

 ミリアムは胸元を指さし、にこり……とはせず表情がそのままだった。
 分かっている。ここで彼女の胸に注目なんてしてみろ、何かを請求される。
 なので、俺は完全にスルーを決め込み、言葉を続けることにした。
 
「そ、そうか。だったら、たまにスライムを派遣しようか?」
「いいの?」
「うん。お詫びにと思って」
「私も一匹欲しいなあ。スライム。ノエル、何とかならない?」
「遺跡にいけば、まだいるかも。だけど、仲間になってくれるかは分からないかなあ。遺跡に行ってみるかな」
「ありがとう」

 やっと機嫌がよくなってくれたらしい。相変わらずの無表情だけど、纏う空気がトゲトゲしいものから柔らかないつもの雰囲気に変わった。
 
「あ、そうそう。依頼なんだけど、一応達成したんだ」
「マスターのも?」
「うん。素材が本当にあっているのか分からないけど……ラージプートにも聞けたし、たぶん大丈夫なはず」
「ラージプートさん? あのクールで素敵なSSランク方?」
「SSランクなの! あの子」
「そうよ。オルトロスという伝説級の獣魔を連れているわ。それにしても『あの子』ってノエル……」

 胡乱な目で睨んでくるミリアムにたじろく。
 ラージプートって結構有名な子だったのか。強いは強いものなあ。お堅いけど。
 でも、唇は柔らかかっ……。
 ブルブルと首を振り、邪な考えを払いのける。
 
「と、ともかく。月の石、月の雫、月の涙……あ、涙がまだだ! 三日以内くらいに届ける」
「また冒険に出るの?」
「ううん。家の整備をしたいかなあって。涙を出してもらわなきゃならない」
「よく分からないけど、しばらくはゆっくりするのね」
「うん。そのつもり。あと、スライムを見てくれたお礼にと思って、こんなものを取ってきた」

 脇に置いたリュックを開くと、ロッソの舌が出てきた。
 ロッソにどいてもらって、亀の甲羅の欠片を取り出す。
 
「綺麗な宝石! これを私に?」
「うん。たまたま亀を見つけてさ。それで」
「ありがとう! ノエル。嬉しい」
「もっと喜んでくれていいんだぜ」
「調子に乗らない。じゃあ、今度食事に」
「おお。久しぶりだな」
「もちろん、ノエルのおごりでね」
「分かった分かった」

 相変わらずだなもう。だけど、喜んでくれたようでよかったよ。
 亀の甲羅とかティアマトの鱗は売ると良い値になりそうだ。一旦は持ち帰って改めて売りに行こうかな。

「それじゃあ、登録する予定の仲間を連れてくるよ」
「うん」
 
 立ち上がろうとした俺の手にミリアムがそっと自分の手を重ねる。

「……心配したんだからね」
「声が小さすぎて聞こえないって」
「何でもないわ。すぐに手配するわね」
「ありがとう」

 ぱっと自分の手を離したミリアムはテキパキとした仕草で書類を書き始めた。
 
 立ち上がり、受付から背を向けたところで、ミューズからそっと耳打ちさせる。
 
「ミリアムさん、とても心配していたんです。マスターの依頼したランクが高かったので」
「そうだったんだ。何かと楽しい冒険だったよ。新しい仲間もできたしさ。心配してくれてありがとうって伝え……無い方がいいな」
「承知しました。新しいお仲間、楽しみです」
「可愛いのとちょっと不気味なのがいる。すぐ連れてくるよ」

 右腕をあげ、軽く手を左右に振った。
 とりあえず、あのハゲの頭をぺしぺししないと気が収まらない。
 って何度目だこれ。
 なんてくだらないことを考えながら冒険者ギルドを後にした。
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