悪役令嬢にさせられた挙げ句、歌声と婚約者を奪われた聖女候補生が幸せを掴むまで

しろいるか

文字の大きさ
8 / 12

聞いて、これが私の声

しおりを挟む
 ステージへの階段をのぼる。
 まだどよめきが広がっている様子だ。前代未聞の不祥事ともいえる出来事なのだ。観客たちも衝撃を受けている。

 この混乱をおさめないと。

 そのためには何が大事なのか。
 私はステージの上へゆっくりと立つ。魔法のスポットライトがあてられて、熱を感じた。
 迷いはない。
 姿勢を整えて、リラックスして、息を吸う。

 私は、私の声で。

 放ったのは、ハイトーンボイス。
 そう。
 シルニアが挑んだ曲と同じ、最高難易度の曲。

 ざわめきが止まり、伴奏が始まった。

 淀みなく、止まりなく、そして、愛を持って。
 取り戻した私の声。
 でも今は泣いていられない。

 示すんだ。ここで、聖女である証を!

 伴奏が盛り上がり、いよいよサビへ入っていく。この超ハイトーンボイスは、歌い方を変えないといけない。私はすべての力を振り絞って超ハイトーンボイスを繰り出す。
 この曲のすごいところは、この超ハイトーンボイス領域でもメロディアスに奏でないといけないところだ。

 大丈夫。でも、大丈夫。私なら、歌いきれる!

 私は全身に力を宿らせ、巡らせ声に変換する。
 それに、喉が軽い。
 負荷から解放されたからか、私は今までにないくらい声が出せそうだった。

 その予感は的中する。

 奇跡としか言えないような声が炸裂し、周囲をとどろかせる。
 観客たちが一斉に息を呑んだ。
 ただ歌声だけが響いていく。

「―—私が、志のままに」

 最後の繊細な歌声を披露して、私は歌を終える。
 最初は沈黙。

 そして。

 拍手の雨がやってきた。
 次々と称賛の声が飛んでくる。
 とたん、感動が押し寄せてきた。
 そうだ。やりきったんだ、私、やりきれたんだ。歌えたんだ!

 ぽろぽろと涙が出てくる。

 けど、ここで泣き崩れるわけにもいかない。
 私はぐっとこらえて前を向いてから、頭を下げた。

 鳴りやまない拍手の中、ステージを降りるとベス様が出迎えてくれた。

「良くやったわ、ミル」
「ありがとうございます。ベス様のおかげです」
「そんなことないわ。私はただちょっと調整しただけよ。でもすごい度胸ね。あの状況で最高難易度の曲を選んで、しかも歌いきるなんて」
「ずっと練習してた曲でもありますから……」
「いや、本当にすごいわ。ミル。あなたこそ聖女よ」

 ベル様は優しく微笑みながら、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

 なんだろう。

 今、全部が報われた気がする。
 冷酷令嬢だなんて言われて育ってきた幼少時代。貴族の友達なんていなくて、一般市民とばかり遊んでいて、でも彼らも離れていって。
 聖女としての才能が芽生えて、努力して。
 やっと試験に出られると思ったら、声を奪われて。

 びっくりするくらい絶望した。

 でも、助けられた。
 私はチャンスを与えられたんだ。
 そして私は、そのチャンスをしっかり掴めたんだ。やりきったと思う。全力を、本当に全力を出し切れたと思う。

 そう思うと嬉しくて、私は泣いてしまった。

 一頻り泣いた後、ベス様が優しく声を書けてくれた。

「さぁ、もう一度ステージに。もうすぐ投票結果が分かるわ」
「……はいっ」

 涙をしっかり拭いて、私はもう一度ステージに立つ。もちろん他の聖女候補生たちも。みんなに対して温かい拍手が送られた。
 ──シルニアはいないけれど。
 すぐに喉の治療へ向かったんだろう。

 すぐに司会の人の進行がはじまり、改めて一人ひとり紹介されて挨拶する。

 歌の総合評価がその後に流れ、いよいよと聖女が決まる。
 楽隊のドラムロールが鳴り、魔法の光が一時的に消される。どき、と胸が高鳴った。
 一番の緊張の瞬間だ。

「それでは、今期の聖女は……──」

 どくん、どくん、どくん、どくん。

「ミル・ウィンヒルバルドさんですっ!」

 ──わぁぁぁっ、と、歓声が沸いた。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

【完結済み】私達はあなたを決して許しません

asami
恋愛
婚約破棄された令嬢たちがそれぞれに彼女らなりの復讐していくオムニバスストーリーです

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した

葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。 メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。 なんかこの王太子おかしい。 婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。

【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき
恋愛
十七歳の誕生日を迎えた男爵令嬢のリーゼは、社交界では有名な悪役令嬢で、聖女と呼ばれる不思議な力を持っていた。 リーゼは社交界に出席すると、いつも暴言を吐き、粗暴な振る舞いを取る。そのせいで、貴族達からは敬遠されていた。 しかし、リーゼの振る舞いは全て演技であった。その目的は、か弱い妹を守るためだった。周りの意識を自分に向けることで、妹を守ろうとしていた。 そんなリーゼには婚約者がいたが、リーゼの振る舞いに嫌気がさしてしまい、婚約破棄をつきつけられてしまう。 表向きでは強がり、婚約破棄を了承したが、ショックを隠せないリーゼの元に、隣国の侯爵家の当主、アルベールが声をかけてきた。 社交界で唯一リーゼに優しくしてくれて、いつも半ば愛の告白のような言葉でリーゼを褒めるアルベールは、リーゼに誕生日プレゼントを渡し、その日もリーゼを褒め続ける。 終始褒めてくるアルベールにタジタジになりつつも、リーゼは父に婚約破棄の件を謝罪しようと思い、父の私室に向かうと、そこで衝撃の事実を聞いてしまう。 なんと、妹の性格は大人しいとは真逆のあくどい性格で、父や婚約者と結託して、リーゼを利用していたのだ。 まんまと利用され、自分は愛されていないことを知ったリーゼは、深い悲しみに暮れながら自室に戻り、長年仕えてくれている侍女に泣きながら説明をすると、とあることを提案された。 それは、こんな家なんて出て行こうというものだった。 出て行くと言っても、リーゼを助けてくれる人なんていない。そう考えていた時、アルベールのことを思い出したリーゼは、侍女と共にアルベールの元へ訪ねる。 そこで言われた言葉とは……自分と婚約をし、ここに住めばいいという提案だった。 これは悪役令嬢を演じていたリーゼが、アルベールと共に自分の特別な力を使って問題を解決しながら、幸せになっていく物語。 ☆全34話、約十万文字の作品です。完結まで既に執筆、予約投稿済みです☆ ☆小説家になろう様にも投稿しております☆ ☆女性ホットランキングで一位、24hポイントで四位をいただきました!応援してくれた皆様、ありがとうございます!☆

処理中です...