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返してあげる
実行日は翌日だった。
シェリーは侍女であり、相応の部屋が与えられている。小さいバルコニーもあって、チェアを置いてくつろげる。
一応貴族だから、と、配慮した形だ。
そんな部屋に、私はたずねた。
ノックをしてから、私は迎え入れられる。シェリーは最初驚いていたけど、拒否はしない。むしろ待ち遠しい様子だった。
彼女は期待しているのだ。
私がまた極悪に折檻するのを。
「今日はどのようなご用件でしょうか、セシル様」
「様子を見にきたの。元気かなって」
「そ、そうでしたか」
私はゆっくりとシェリーに近づく。
確実に返してやらねばならないからだ。
「それと、これ」
私は天使様から渡された小さい宝箱を取り出す。
自然な動作でロックを解除して、蓋を開けた。
鈍い音を立てて、それは姿を見せる。
とたん、シェリーの顔色が一変した。
そりゃそうだろう。
なんてったって、私に埋め込んだはずの《悪意の魂》なのだから。
「あなたに返すわね」
「そ、そんな、どうしてっ!?」
驚愕して慌てふためくシェリーに向けて、真っ黒な塊が戻っていく。
逃げようがない。
それだけの素早さで、まるで泥のようにシェリーへ張り付いた。
「いやああっ!」
小さい悲鳴。
シェリーはもがくけど、抵抗は無意味だ。
見る間に真っ黒な塊はシェリーの体内へ入っていった。
「シェリー。単純にアロイ様を好きになったのであれば、そうおっしゃいなさい。恋敵として私は真正面から受けて立ちます。しかし……そうではなく、私たちの幸せが憎くて、それを壊したいだけなのだとしたら、私は容赦しません。それに、そんなことをしても、シェリー。あなたに幸せなんて訪れないから」
「し、知った口をっ……!」
「自分の不始末は、自分でなさい。もし私に挑んでくるなら覚悟もするように。私は負けませんからね」
しっかりと宣戦布告をして、私はシェリーの部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
それからのシェリーは酷かった。否、非道だった。
侍女は使用人よりも立場が上で、お嬢様と呼ばれることもあるくらいだ。
そう。
シェリーは自分の立場を利用して、使用人への嫌がらせをはじめたのだ。
まるで、というより八つ当たりそのものだ。
もう見ていられなくて、度々私は注意をしたのだが、いっこうに改善しない。
とうとうシェリーの使用人を外すしかなくなってしまった。
そうしなければ、彼らを守れなかったからだ。
まさに狂気と呼んで差し支えない。
「これが、《悪意の魂》なのね」
寒気がするくらい恐ろしい。
同時に、私はこれだけの狂気を振りまいていたのだ。よくぞこの短期間で信用を取り戻せたものである。
もちろん、完全に払拭とまではいかないが、いつものように過ごすことは出来ている。
『そうだね。《悪意の魂》は悪意を加速させていく。恨めば恨むだけ、どんどんと酷くなっていく。元々悪意を持っていたのであればなおさら。あれだけの速度で悪くなっていくのは納得だよ』
「そうなのね……」
『クビにしないの?』
天使様が聞いてくる。
これだけの被害が出ているのだ。侍女の資格を剥奪することは可能だ。
追放も簡単にできる。
「でも、そうなったら彼女の狂気が世に放たれるわ」
『そうか、そっちの方が心配だね、確かに』
彼女の悪意が広がりに広がって、何を起こすか分からないのだ。
私はそれだけの恐怖を感じている。
あの時のシェリーの目が忘れられない。
でも、このままにもしておけない。
だとしたら、手は一つしかない。
――幽閉だ。
「理由をつけて、地下に入ってもらうしかないわね」
『なるほど、本体ごと封じ込めるんだね』
「浄化とか、そういうのは無理なのよね?」
『うん。少なくとも人間には無理だね。《悪意の魂》なんてどうやって取得したか知らないけど、悪魔の邪法なんだ。それこそ最上位クラスの守護天使とかじゃない限り取り除くのは無理だと思う』
もちろん、そんな偉大な存在を呼び出すのは不可能だ。
「だったら仕方ないわ。世に放つわけにはいかない以上、シェリーには死ぬまで地下で過ごしてもらいましょう。身から出たサビでもあるんだし」
何より、純粋な悪意で私とアロイ様の間を引き裂き、私を破滅させて喜ぼうとしていたのだ。
許すつもりはない。そして、更正も無理なら諦めるしかない。
『うん。それがいいよ』
天使様も同意をもらって、私はすぐに手配をした。
一応、アロイ様にも報告は入れておく。
アロイ様にもシェリーの様子は伝わっていて「仕方がない」という返事だった。ここ最近、シェリーはアロイ様にも不敬としかいえない態度を取っていて、遠ざけられているせいもある。
逆恨み。
ただそれしか、シェリーにはないのだ。
数時間後、シェリーは使用人への暴挙や、私とアロイ様に対する不敬を問われて幽閉が決定。その日のうちに投獄された。
これで、解決すればいいけど。
シェリーは侍女であり、相応の部屋が与えられている。小さいバルコニーもあって、チェアを置いてくつろげる。
一応貴族だから、と、配慮した形だ。
そんな部屋に、私はたずねた。
ノックをしてから、私は迎え入れられる。シェリーは最初驚いていたけど、拒否はしない。むしろ待ち遠しい様子だった。
彼女は期待しているのだ。
私がまた極悪に折檻するのを。
「今日はどのようなご用件でしょうか、セシル様」
「様子を見にきたの。元気かなって」
「そ、そうでしたか」
私はゆっくりとシェリーに近づく。
確実に返してやらねばならないからだ。
「それと、これ」
私は天使様から渡された小さい宝箱を取り出す。
自然な動作でロックを解除して、蓋を開けた。
鈍い音を立てて、それは姿を見せる。
とたん、シェリーの顔色が一変した。
そりゃそうだろう。
なんてったって、私に埋め込んだはずの《悪意の魂》なのだから。
「あなたに返すわね」
「そ、そんな、どうしてっ!?」
驚愕して慌てふためくシェリーに向けて、真っ黒な塊が戻っていく。
逃げようがない。
それだけの素早さで、まるで泥のようにシェリーへ張り付いた。
「いやああっ!」
小さい悲鳴。
シェリーはもがくけど、抵抗は無意味だ。
見る間に真っ黒な塊はシェリーの体内へ入っていった。
「シェリー。単純にアロイ様を好きになったのであれば、そうおっしゃいなさい。恋敵として私は真正面から受けて立ちます。しかし……そうではなく、私たちの幸せが憎くて、それを壊したいだけなのだとしたら、私は容赦しません。それに、そんなことをしても、シェリー。あなたに幸せなんて訪れないから」
「し、知った口をっ……!」
「自分の不始末は、自分でなさい。もし私に挑んでくるなら覚悟もするように。私は負けませんからね」
しっかりと宣戦布告をして、私はシェリーの部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
それからのシェリーは酷かった。否、非道だった。
侍女は使用人よりも立場が上で、お嬢様と呼ばれることもあるくらいだ。
そう。
シェリーは自分の立場を利用して、使用人への嫌がらせをはじめたのだ。
まるで、というより八つ当たりそのものだ。
もう見ていられなくて、度々私は注意をしたのだが、いっこうに改善しない。
とうとうシェリーの使用人を外すしかなくなってしまった。
そうしなければ、彼らを守れなかったからだ。
まさに狂気と呼んで差し支えない。
「これが、《悪意の魂》なのね」
寒気がするくらい恐ろしい。
同時に、私はこれだけの狂気を振りまいていたのだ。よくぞこの短期間で信用を取り戻せたものである。
もちろん、完全に払拭とまではいかないが、いつものように過ごすことは出来ている。
『そうだね。《悪意の魂》は悪意を加速させていく。恨めば恨むだけ、どんどんと酷くなっていく。元々悪意を持っていたのであればなおさら。あれだけの速度で悪くなっていくのは納得だよ』
「そうなのね……」
『クビにしないの?』
天使様が聞いてくる。
これだけの被害が出ているのだ。侍女の資格を剥奪することは可能だ。
追放も簡単にできる。
「でも、そうなったら彼女の狂気が世に放たれるわ」
『そうか、そっちの方が心配だね、確かに』
彼女の悪意が広がりに広がって、何を起こすか分からないのだ。
私はそれだけの恐怖を感じている。
あの時のシェリーの目が忘れられない。
でも、このままにもしておけない。
だとしたら、手は一つしかない。
――幽閉だ。
「理由をつけて、地下に入ってもらうしかないわね」
『なるほど、本体ごと封じ込めるんだね』
「浄化とか、そういうのは無理なのよね?」
『うん。少なくとも人間には無理だね。《悪意の魂》なんてどうやって取得したか知らないけど、悪魔の邪法なんだ。それこそ最上位クラスの守護天使とかじゃない限り取り除くのは無理だと思う』
もちろん、そんな偉大な存在を呼び出すのは不可能だ。
「だったら仕方ないわ。世に放つわけにはいかない以上、シェリーには死ぬまで地下で過ごしてもらいましょう。身から出たサビでもあるんだし」
何より、純粋な悪意で私とアロイ様の間を引き裂き、私を破滅させて喜ぼうとしていたのだ。
許すつもりはない。そして、更正も無理なら諦めるしかない。
『うん。それがいいよ』
天使様も同意をもらって、私はすぐに手配をした。
一応、アロイ様にも報告は入れておく。
アロイ様にもシェリーの様子は伝わっていて「仕方がない」という返事だった。ここ最近、シェリーはアロイ様にも不敬としかいえない態度を取っていて、遠ざけられているせいもある。
逆恨み。
ただそれしか、シェリーにはないのだ。
数時間後、シェリーは使用人への暴挙や、私とアロイ様に対する不敬を問われて幽閉が決定。その日のうちに投獄された。
これで、解決すればいいけど。
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