義母たちの策略で悪役令嬢にされたばかりか、家ごと乗っ取られて奴隷にされた私、神様に拾われました。

しろいるか

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雨がもたらすもの

 季節はずれの長雨は、屋敷周辺に少しずつ被害を出し始めていた。
 時折、外に出ることもできないくらい激しく降る雨は、どうしてか屋敷周辺にだけ発生する。明らかな異常気象だ。

 ストレスは当然たまっていく一方だ。

 思うように食料も搬入できなければ、仕事もままならない。特に庭は荒れ放題だし、屋敷の背後にある山もかなりの水を蓄えている様子だ。
 がけ崩れを起こしても不思議はない。
 どうにかして人夫をかりだして修繕しなければならないだろう。

「ダメです、奥様。この雨の湿気で食べ物が腐りました」

 そんな折、バカみたいな報告が舞い込んできた。

「な、なんですって」
「申し訳ありません。その食べ物、どうも昨日の食事にも混じっていたようで」
「はぁっ!?」
「旦那様が食あたりを起こしてしまいました」

 頭がくらくらしてしまった。
 卒倒しなかった自分を褒めてやりたい。カミラは内心で自分で自分を励まし、なんとか前を向く。

 よりによって、貴族の屋敷で、食あたりなど!

 衛生観念が不足していた一〇〇年前の話ではないか。
 農業改革によって飽食になりつつあるこの時代、腐ったものを口にするなんてありえないもありえない。

「毒見をしたものは?」
「二人ほど、先ほどから苦しみ始めています」
「だらしないわね。腐った食べ物も分からないなんて。恥を知りなさい。そのものたちは即刻にクビです。シェフも同様よ」

 貴族としてありえない失態である。

「し、しかし、代わりのものがおりません」
「なんですって?」
「この長雨のせいか、雇おうとしても人手が集まらず……」

 執事が困り果てたように言う。
 まさに踏んだり蹴ったりではないか。どうしてこんなことになっているのか。

「では、厳重注意にとどめなさい。それと――」
「奥様、失礼します」
「なんですか! こちらは今大事な報告を受けている最中ですのよ」

 カッとなって叱りつけると、オフィリアの担当にまわした使用人だった。
 イヤな予感がする。

「申し訳ありません。ですが、オフィリア様がどうしても一言申し入れしたいと」
「……またですか」

 カミラはたまらず愚痴るように零した。
 頭が痛い事案が続いているのに、今、一番顔も合わせたくない人物からの「ありがたい提言」だ。正直、正論過ぎて受け付けられないのだが、無碍にすることもできない。

 そして、もはやオフィリアと対峙できるのはカミラだけなのだ。

 この短期間で、オフィリアはますます存在感を強めている。
 こちらの意図を見透かしているかのような立ち回りだった。

「後でうかがうから、そのように返事を」
「いいえ。この場で結構ですわ」

 おしとやかで穏やか。それでいて怜悧。
 ぎょっと目を大きくするカミラの目の前に現れたのは、まさにオフィリアだった。相変わらず人当たりの良い微笑だ。

「こ、これはオフィリア様」
「こんにちは。カミラ夫人。雨で外にも出れず、屋敷内を運動がてら散歩していたのですが、気になることがありまして。それでここにやってきました」
「そうですか。しかし、お話であれば……」
「いいえ。聞き捨てなりません。貴族として聞き耳たてるのは無作法ですが、あまりに大声でお話してらっしゃるので、自然と耳に入ってしまいました。昨晩の食事に、痛んだ食材が使われていたそうですね?」

 笑顔のまま言い放たれ、カミラは声を喉で詰まらせた。
 まずい。
 ひたすらにまずい。
 昨晩の食事はもちろんオフィリアも同席していた。

「ええ、そのようです」
「そして子爵様が食あたりを起こしたとか。お医者様の手配は大丈夫ですか? 今の流れでは手配されていないようですが」

 舌打ちしそうになった。
 自分の舌が生ぬるいから食あたりになってしまったのだ。しばらく寝かせておけ、とカミラは思っていたのだが。口にするわけにはいかない。
 カミラはすぐに作り笑顔を浮かべた。

「そうですわね。あまりにショックで忘れてしまっておりました。至急、医者の手配をいたしましょう。それと、食料の見直しもしなければなりません」
「ええ、そのことについてもお話があります」

 まだあるのか、と、カミラの笑顔が強張る。

「一度でも腐敗した食材が見つかったとあれば、今あるもの全て処分するのが妥当だと思われるのですが、いかがでしょう」
「す、全て、ですかっ……!?」

 さすがにカミラも驚いた。
 この屋敷は大きく、保存状態もよいことから食料保管庫も大きい。オフィリアのために張り切って食材を仕入れたこともあって、いつもより大分お金を消費してしまっている。
 故に、しばらくはそれで持たせるつもりだったのだが、それを全て廃棄せよ、と言ってきたのだ。

「ええ。どこにまた腐敗した食材が紛れているのか、分かったものではありません」
「し、しかし」
「この雨の状態では、食材の足が早くなるのも仕方のないことです。だからこそ、原因の究明が必要で、多少の犠牲はやむなくとすべきではありませんか」

 正論を叩きつけられ、カミラは言葉を失った。

「もしお金の心配があるのであれば、我が家に任せていただければと思いますが」
「とんでもない!」

 慌ててカミラは固辞した。
 借りを作ってはならない。絶対に、だ。
 カミラは内心で歯噛みしつつ、結局オフィリアの提案を受け入れるしかなかった。



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