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2nd STAGE

2-6 エグリアス砦動乱編② 『陰謀の影』

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 通路を足早に駆けていく。

 響き渡るブーツの荒っぽい靴音はお世辞にも品の良いものとは言えないが、今はそんな事に構っている余裕は無かった。

 美羽は急いでいた。

 扉横のコンソールに自分のカードキーを通す。ピッという電子音。扉が音も無くスライドしていくが、その僅かな時間さえももどかしく感じる。

 扉が開くと美羽は部屋の中へ勢いよく駆け込んだ。

 照明の抑えられた部屋の中には壁一面を覆いつくさんサイズの巨大スクリーンが備え付けられており、その前に並ぶモニターや計器類の置かれた机では、各オペレーター達が忙しそうに手を動かしていた。ここは城の中枢に造られた作戦指令室とも呼べる場所だ。 

 部屋に駆け込んだ美羽が辺りを見回す。目的の人物は指令室の後方、全てを見渡せる位置に腰かけていた。美羽は近くまで駆け寄ると挨拶をする間も惜しんで声を荒げた。

「どういうことですか? 説明してください!」

 声をかけられた人物――ハイドはゆっくりと美羽の方を向くと不機嫌そうに声を上げた。

「やっと来たか――ラクセル、説明してやれ」

 背後に控えていたラクセルが、わざとらしく咳払いをしてから口を開いた。

「国境付近に位置するエグリアス砦が何者かに占拠されました。現在は詳細な情報を把握中ですが・・・どうやらその場に桜子さんもいるようです」

 淡々と語るラクセルに対して美羽が眦を吊り上げる。

「だから、何故そんなことになっているのかと聞いてるのよ!」

 美羽にしては珍しいほどの激昂ぶりにラクセルが首を竦める。尚も食って掛かろうとする美羽を押しとどめたのは、先にこの場に来ていた智花だった。

「美羽、少し落ち着けって」

「智花、でも――」

「いいから落ち着け。どうやらセシアちゃんの手伝いを自ら申し出て、ノコノコ付いて行ったらしいよ」

「――そう・・・そういうこと・・・」

 美羽が気持ちを落ち着けるように長く息を吐きだす。

 美羽の元に訪れた伝令役から、桜子がテロ組織まがいの連中に捕まったと聞いた時には、天地がひっくりかえるかのような衝撃だった。
 この世界の地理に明るくない桜子が一人でそんな場所に行くはずも無く、ハイドかラクセルの指示で行かされたのだと考えた美羽は、取る物も取り敢えずここまで全力で駆けて来たのだ。

 しかし桜子が自分から付いて行ったと言うならばハイドやラクセルを責めるのはお門違いだろう。
 自分の早とちりを恥じた美羽は、せめて気持ちを落ち着かせようと努めた。

 だが、そう簡単に落ち着くはずもない。桜子は依然として捕まったままなのだ。

「・・・大丈夫だヨ」

「――メイちゃんも来てたのね」

「うん・・・ワタシと智花は城の中に居たかラ、ここに来るのも速かっタ・・・」

「亜希ちゃんは?」

「・・・ワタシ、知らないヨ・・・見かけてナイ」

「そう・・・どこに行ったのかしら?」

 美羽の怒りが治まったことを確認し、ラクセルが先程の説明を続ける。

「現在分かっているのは、人質が捕まっていること、そして相手が紅の蜥蜴団と名乗っていることぐらいです」

「相手の目的は分かっているの?」

「それも既に分かっている。恐らくだが――俺に対しての報復だろうな」

 そう呟くハイドの表情は不機嫌を通り越して険しいものとなっていた。

「報復?」

「ああ。奴らはもともとこの国に存在していたギルドのひとつだったんだが、活動の内容が酷くてな。この街から追放したのさ。それを恨んでいるんだろ」

「そんなの完全に逆恨みじゃねえか!」

 智花が声を荒げると、ハイドはそれに同意するように大きくため息を吐いた。
 そんなハイドに向けて、遠慮勝ちに女性オペレーターから声が掛かる。

「あ、あの――」

「どうした?」

「エグリアス砦周辺を巡回中の飛空艇団と連絡が取れました」

「よし、分かった。その飛空艇団に伝達。戦闘準備をしてそのまま待機」

「分かりました」

「おい! 人質はどうすんだよ!?」

 ハイドの発した「戦闘」という言葉に智花が敏感に反応する。

「分かっている。だが相手の要求が飲めない以上、争いになる可能性は高い。最悪を想定しておかなければな」

 ハイドの言い分に納得は出来ないまでも、理屈としては理解したのだろう。
 智花がしぶしぶという表情で引き下がった。

「しかし――妙ですね」

 ラクセルが納得いかない様子で呟く。

「何がだ?」

「いえ、王もご存知でしょうが、マインの奴はたかだか街のチンピラ程度の男です。それがこんなにも手際良くやってのけるとは――」

「確かにな。それに奴らは武装しているらしいが、一体どうやって武器を手に入れたのか」

 ハイドの疑問を聞き、美羽が何かに気付いたように口を開いた。

「手引きしている人――黒幕が居る?」

「かもしれない」

 ハイドが頷く。

「問題はそれが誰なのかということだが・・・」

 ハイドが言葉を発した直後、オペレーターの一人が突然声を上げた。

「砦周辺に複数機の飛空艇出現を確認!」

「どういうことだ? まだ待機を命じているはずだが―――」

「いえ、これは――」

 オペレーターが悲鳴に近い声を上げる。


「シグナル赤・・・帝国軍です!!」


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