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2nd STAGE

2-7 エグリアス砦動乱編③ 『帝国の襲撃』

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 空に浮かぶ飛空艇の船底を眺めながらセシアは呆然とした様子で呟いた。

「あの紋章は・・・帝国軍です」

「ええ!?」

 セシアの呟きを聞き、桜子が驚きの声を上げる。言われてみれば確かにライブでの戦闘中に同じような船を見た事がある気がした。捕まっている人達も上空を覆う影に気づいたらしく、「なんで帝国のやつらが」とか「よりによってこんな時に」といった声が聞こえてくる。

「おうおう、派手な登場だなあ、おい」

 マインが笑みを浮かべたまま飛空艇を見上げた。その余裕のある態度を見て、不意にセシアが何かに気付いたように小さく目を見開いた。

「――まさか!」

 それを察したようにマインがにやりと笑う。

「そうだよ、俺たちのバックには帝国がついてるのさ」

「な、なんていうことを! ――自分の祖国を売ったんですか!?」

「おいおい。自分達で追い出しておいて、今更祖国も何も無いだろう。俺たちはハイドに復讐出来ればそれでいいのさ」

「どこまで堕ちれば――」

 血の気と共に言葉も失ったセシアをあざ笑うかのように、マインが飛空艇に向けて手を振って見せる。

「おーい、ここだ! ここだ!」

 食堂横の敷地の広く空いたスペースへ飛空艇を案内するかのように両手で指示を送る。飛空艇がその導きに応じて高度を下げ始めた。

「――こんなこと許される訳ありません」

「ああ?」

 両手を振りながら顔だけでセシアを振り返る。

「絶対後悔しますよ。こっちには『予言』があるんですから」

 大きな瞳に悔しさを滲ませながら、セシアはなんとかそれだけを口にした。
 だがそんな脅しもまるで効果は無いようで、軽く鼻で笑い飛ばされてしまう。

「ふん。そんな予言、本当に存在するのかどうかも疑わしいもんだぜ」

 セシアの悔しそうに俯く姿を見て、桜子は何もできない自分が歯がゆかった。


(予言・・・本当に私に勇者の力があれば皆を助けられるのに――)


 普段は勇者としてさんざん持ち上げられておきながら、いざという時には何も出来ない。桜子はそんな自分の情けなさに唇を噛みしめる。

「んん?なんだ?」

 不意に、桜子の耳にマインの意外そうな声が聞こえて来た。

 目を向けると、マインが怪訝そうに飛空艇を見上げているのが見える。

 飛空艇は高度を少し下げたもののそれ以上は降りて来ていない。手を振っているマインはそのことを変だと感じているようだった。
 マインが眉間に皺を寄せていると、不意に飛空艇前面に取り付けられた機銃がキリキリと音を立てて向きを変え出した。そして、ガシャンという音と共に銃口がマインの前でピタリと止まった。

「・・・おい、何の冗談だ?」

 マインが呟いたのとほぼ同時に飛空艇から拡声された声が辺りに響き渡る。


『我々帝国軍は、偶然にもテログループの犯行を目撃した。世界の平和維持のため、これより武力による排除を行う』


 それは間違いなく人が話している音声であるのにも関わらず、ひどく機械的で無感情な声だった。聞いているだけで寒気を覚えるようなそんな声だ。

「おい、一体何言って――」


 マインがそこまで言った直後、機銃から銃弾が発射された。


「おわあああっ!」 

 今までマインが居た場所に弾丸の雨が降り注いだ。身を投げ出すことで辛うじて銃弾をかわしたマインが、信じられないという面持ちで飛空艇を睨みつける。

「ふ、ふざけんなっ! どういうつもりだっ!」

 絶叫に近いマインの怒声。しかし飛空艇からはなんの反応も返ってこない。ただキリキリと機銃の向きを再びマインに合わせるだけだ。

マインの周囲に居る紅の蜥蜴団のメンバーも驚愕の表情でその様子を眺めている。完全に血の気を失った顔でマインは自分に向けられる機銃を睨みつけた。


「――逃げろ!」


 それが狂乱の引き金となった。

 紅の蜥蜴団の面々が悲鳴を上げて逃げ惑う。飛空艇に取り付けられた複数の機銃が逃げ逃げ惑う彼らに向けられる。辺りには機銃が上げる低い唸り声にも似た発射音が響き渡り、銃弾が地面に着弾した際に立ち上げる砂煙に遮られ1m先も見渡せない。桜子は巻きあがる粉塵の中、叫んだ。

「セシアちゃん! どこ!?」

「桜子様! ここに居ては危険です! 隠れましょう!」

 声だけを頼りにセシアの後を着いていく。すると二人のすぐ脇を銃弾の雨が鈍い音を立てて通り過ぎていき、その表情が恐怖で凍りつく。
 二人は全力で駆けだした。


 もはや辺りは阿鼻叫喚の様相を呈していた。蜥蜴団の面々が逃げ出したのをきっかけに捕まっていた人たちもその場から逃げ出している。逃げ回る人々へ狙いを定め、機銃がうなりを上げた。もはや砦の人間も紅の蜥蜴団も区別は無い。飛空艇は視界に入った人間を片っ端から狙い撃っているようだった。

 桜子とセシアは全力で走った。
 立ち上る砂煙の向こうにうっすらと建物の入口が見えた。僅かの距離を残る力を振り絞って駆け抜け、入り口横の壁の陰に転がり込むようにして身を隠す。そのまま壁に背を預けるようにして座り込んだ。

「な、なにが――起きた、の?」

 激しく呼吸を繰り返しながらなんとかそれだけを口にする。

「わ、わかりません」

 セシアも同様の有様で、状況の把握まで頭が回らない。とにかく呼吸を落ち着かせようとしていると、唐突に激しい振動と轟音が壁越しに伝わって来た。

「きゃああああああああっ!!」

 音と振動の嵐が過ぎ去ってから、ようやく自分が背中を預けている壁に機銃が撃ち込まれたのだと気付く。背筋に寒気を覚えながらこの建物の壁が予想以上に頑丈であったことに感謝した。しかし、次も防げるという保証はどこにも無い。

「もっと中へ行こう!」

「は、はい!」

 二人が更に屋内へ向かおうと腰を上げた時だった。すぐ横に積まれた木箱の陰から何やら物音がすることに気付く。二人は最大限に警戒しながら木箱の方を睨みつけた。

「だ、誰かいるんですか?」

 桜子の声に反応するように木箱の後ろでまた物音がする。
 二人が辛抱強く待っていると木箱の陰から男が顔を出した。

 それが考え得る最悪の相手であったことに、桜子がげんなりとした表情を浮かべる。

「――よう」

 ばつの悪そうな顔を浮かべ出てきたのは――マインだった。

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