ひたすら楽する冒険者業

長来周治

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あまり楽とは言えない冒険者メリルの章

60.楽を突き詰めると単調になる

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 そのまま松明を片手に、彼はそこらの亀裂や隙間を覗き込んで、中から夜甲虫を引きずり出した。
 そして一体何をするのかと言うと、火で炙ると逃げる夜甲虫をうまく誘導し、最終的に先ほど掘った穴の中の焚火へ落とす。たまらず穴から這い上がってくる夜甲虫を、さらに松明で小突いて焚火に戻す。
 それを完全に動かなくなるまで繰り返し、動かなくなったら死骸を引き上げて蜜を回収する。
 焚火程度の微弱な火力で、ひたすらあの虫の体力を削って倒しているのだ。火炎魔法で瞬殺、とはいかない彼が編み出した方法だと、メリルはその行為の意味を把握した。
 火を維持しながら獲物を落し、松明の火が消えそうになると、すっと別の松明に持ち替える。
 一連の作業は、とても手慣れていてスムーズだ。これをずっとやってきた。そんな説得力に満ちた動き。
 ずっと気になっていた装備の謎が解明されたわけだが、あんまりすっきりした感情はない。
 見た目が完全に虫を棒で虐待している人なことや、そもそもどうしてこんな方法で倒そうと思ったのかとか、そういう別のもやもやが生まれてくる。
 魔法を使えない彼が現実的に夜甲虫を倒す方法としては、理にかなっているのかもしれない。同じ事を考えた場合誰もがこんな地道な方法に行きつくのだろうか。いろんな意味で何か違う気がする。
 思い描いていた冒険者像からは、大分かけ離れた姿を、メリルは膝を抱えて遠巻きに眺めていた。
 熾烈な戦闘をしているわけでもなく、ただひたすら火の穴を棒でツンツンしているのを見ると、まるで芋でも焼いているかのようである。
「あの……」
 そんな彼を眺めながら、メリルは我慢できずに訊いた。
「何?」
 男はひたすら夜甲虫を穴に押し込める作業をしながら答える。
 時折額をぬぐっているが、疲れているわけではなく暑いのだろう。むしろ腰の方がつらそうである。
「いつもこんな方法で狩りをしてるんですか?」
「うん、そうだけど」
 ザクザクと焚火の中を掻きまわしながら、焼きあがった夜甲虫をさばいていっている。
 要領はよいのだが、根本的な火力の低さはどうしようもなく、ペースはやはり遅い。
 見たところ、一匹倒すのに10分ぐらいはかかっている。
「……儲かるんですか?」
 一応言葉を選ぼうとはしたが、結局率直に聞いてしまった。
 夜甲虫の蜜は高いと言っていたので、高級食材ではあるのだろうが、本当に採算が採れる程度のものなのかは疑わしい。
「まあまあ」
「差し支えなければ、いくらぐらい……?」
「んー? 一匹の量だと30Gぐらいかな」
「ぶっ」
 答える男とは対照的に、メリルは思わず吹き出した。もちろん驚きの意味である。
「それ、下手すると駆け出し冒険者の一日ぐらいの額じゃないですか!」
「まあ実際には松明とか薪代がかかるから、純利益はもっと下がるけど」
 だとしても、パーティを組んで下手に狩りをするより、ずっと大きい収入である。
「普段どのぐらい、この狩りをしてるんですか?」
「前は半日やってたときもあったけど、今は8時間いかないぐらい」
「え゛っ……」
「もちろん休憩はするよ」
 だとしても、このとても楽しいとは言えないような作業を8時間。
 気の遠くなる話に、男はさらに付け加える。
「今日は他にやることがあるし、薪も少ないからそんなにしないけどね。まあこれでも、君への報酬分ぐらいは稼げるはずだから」
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