ひたすら楽する冒険者業

長来周治

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あまり楽とは言えない冒険者メリルの章

78.そこそこ苦でも楽あれば

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「……変わってますね」
「そうかな?」
 少々特殊な性癖の人のある人だと、メリルは感じていた。
「苦労を水の泡にされた上に、その改善方法も見つからなかった、とかなら嫌だろうけど。今はこっちの方が確実に楽じゃん」
「でも、その嫌じゃないですか? 他の人に出番取られるみたいで」
 口にしてから、卑しい考え方だなと気付いた。
 しかし、こういう論理は至る所に蔓延っていると思う。誰もが自分の成果を取られたくない中で、生きているのだ。
 彼の答えはこうだった。
「それはねえ、不幸になるから」
「不幸に……」
「言いたいことはわかるよ。周りが力を持つと、それまでの功績と一緒に地位が脅かされる。だから、自分以外が発見した便利な方法は否定する。逆らう奴に価値基準を押し付けて、排他して遠ざけて嫌がらせする。でも、その結果、便利な方法とその人を失う。そして皆一様に状況が悪くなるけど、今度はそれが普通になる。不自由が常態化すると自分より楽をしている奴が許せなくなる。そして、また同じ行動を繰り返す……」
 淡々と、しかし確かな実感を持った男の口調に、メリルは言葉を失う。
「まあ、難しい話じゃないよ。楽な方法はすぐに使った方がいいってだけ。損をするにしても、行き詰って身動き取れなくなるよりはマシでしょ」
 そう言いながら、彼は次の夜甲虫を集めてくる。
「この狩りも結構長い事やって、一人じゃ行き詰ってた。でも君が来てまだ改善の見込みがあるってわかったら、またちょっとやる気が出てきた。感謝してるよ」
「いえ、そんな」
 この男の事を変だと思っていたが、純粋に状況が改善したり進展したりするのを、単純に喜んでいただけ、と思うと何もかもが腑に落ちた
 そういう体験から、ずっと遠のいていたメリルも、今日は久しぶりの迷宮に来てレベルもあがり、かなり進展した。閉塞的な日常から抜け出たという達成感は、確かにやる気を呼び起こしてくれる。もしかしたら幸福、と言ってもいいかもしれない。
「ファイアーボール」
 男が集めてきた夜甲虫を焼く。
「あ……」
 しかし、期待通りにはいかず、一匹逃げていった。
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