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混乱の使者
「ええと…あの、貴女、大丈夫?」
友人らに助け起こされながら、座り込んで涙を零す美少女に声を掛ける。
いや、本当の話、これって体当たりされて転ばされたあげく、顔に擦り傷作った私の台詞と違う気がするんですけども!?ていうか、なんか鼻血まで出てきたんですけど!!
「大丈夫ですか、アウローラ様!」
「ええ…有難うございます」
慌ててハンカチで鼻を抑えつつ、私を気遣う令嬢に微笑んで応える。
ちなみに彼女らの名前は、肩までの紅茶色の髪をウェーブさせているのが、マリエッタ・ファロー伯爵令嬢で、同じく肩までの金髪を緩く内巻きにしているのがアルテミア・キルティング伯爵令嬢。
そして今私を助け起こしてくれているのが、背中までの髪を一部三つ編みにして前へ垂らしている、エアリアル・ラテ・リッティベア侯爵令嬢だ。
3人ともこの学園における私の友人であり、悪役令嬢物で言うところの『公爵令嬢の取り巻き』に値する。
とはいえ、物語の中のおべっか連中なんかと、心優しい彼女らを一緒にされては困りますけどね。
「アウローラ様、血が出ていますわ…!!」
「他に怪我はございませんか?」
「制服がこんなに汚れてしまって…!」
心配そうな顔で私を気遣う3人の令嬢に、私は鼻を抑えつつ『大丈夫よ』と再度微笑んで見せる。
すると彼女らはようやくホッとした表情を浮かべるが、同時に、物言いたげな困惑した視線を地面に座ったままの令嬢へ向けた。
うん。まあ、そりゃあ、対処に困りますよね。
ぶつかってきといて、謝りもしないんだから。
「……立てますか?」
仕方なく私は、内心の呆れや悪態は一切顔に出さず、淑女スマイルを浮かべて彼女に声を掛けた。すると、
「ひどいわ…ッ!!アウローラ様、こんな仕打ちをなさるなんて…!!」
………………はい??
何故だか言いがかりそのものの台詞を吐き出すと、彼女は『わっ』と声を上げて本格的に泣き始めてしまったのだ。
ええええっ、いや、ちょっと待って。
どうしてこの状況で、そんな台詞が出る??
つーか、なんで、私が意地悪したことになってんの。
いきなり後ろから体当たりしてきたの、あんたでしょうが??
「は………あの…??」
突然の事態に頭の中へ『?????』と疑問符が物凄い勢いで飛び出してくる。
どういう謎展開よ、これ??
ていうか、そもそもあんた誰???
私は彼女の名前も知らないのに、なんで彼女は、いきなり私を苗字でなく名前呼びしてるのだろう。
前世でもそうであったが、特にこの貴族社会においてはマナーが厳しい。
名前や愛称なども、親しい者か本人から許可されたのでない限り、軽々しく呼んではいけなかったはずだ。
ひょっとして、どこかで会ったことがあるのだろうか??
そう思い直して、アウローラとして生きた16年の記憶を掘り返してみたが、やはり、彼女に該当する記憶は欠片として出て来なかった。当然、そんな彼女に、名前を呼ぶ許可を与えたはずもない。
「どなた……?」
「……さあ?」
小さな話し声に気付いて周りを見ると、3人の令嬢も『この人誰??』と顔を見合わせていた。
ああ、良かった。知らないの、私だけじゃなかったのね。
彼女らのその様子を見て、私はホッと胸を撫で下ろす。
一瞬、マジで、転んだ拍子に突発性の記憶喪失になったかと思ったわ。
「……アウローラ様?」
自分がおかしい訳ではないとハッキリ確信したので、私は、彼女らの問い掛けるような視線を受けて、堂々と困惑顔で『わかりません』と首を傾げて見せた。
おかげで誰も彼女に心当たりが無いと知れたが、だからと言ってこの状況が解決する訳でもない。
「…………」
「…………」
私と友人らは困惑顔のまま無言で、改めて座り込んで泣く令嬢へ視線を送った。
紫がかった黒髪に、紫色の大きな瞳。
桜色の小さな唇と、筋の通った形の良い鼻。
制服の上からでも解る、華奢ですらりとしたスタイル。
どっからどう見ても絶世の美少女──ということ以外何もわからない、正体不明、言動不可解な女は、相変わらずしくしくと可憐に泣き続けていた。
「なに?どうしたの?」
「さあ…?」
気が付くと周囲には登校途中の野次馬が大勢集まっていて、彼女の勇ましい突撃シーンを見損ねた人達からすると、どう見ても私達の方が悪役な状況になっていた。
うーん…どうしたものか。
どうにも収拾がつかない。
いっそ無視して校舎へ入っちゃう??って、それも酷いか。
でもなぁ。話しかけても意味不明だし。
ああ、見なかったことにしたい……!!
なんて自暴自棄になりかけていた、その時、
「そこで何をしている!?」
混乱する学園校舎前広場に、救いの神のような男の声が響いた。
──しかし私は知らなかった。
その精悍な声の持ち主が、まるで役立たずどころか、さらにこの状況を悪化させ、混乱に拍車をかける地獄の使者であることを。
友人らに助け起こされながら、座り込んで涙を零す美少女に声を掛ける。
いや、本当の話、これって体当たりされて転ばされたあげく、顔に擦り傷作った私の台詞と違う気がするんですけども!?ていうか、なんか鼻血まで出てきたんですけど!!
「大丈夫ですか、アウローラ様!」
「ええ…有難うございます」
慌ててハンカチで鼻を抑えつつ、私を気遣う令嬢に微笑んで応える。
ちなみに彼女らの名前は、肩までの紅茶色の髪をウェーブさせているのが、マリエッタ・ファロー伯爵令嬢で、同じく肩までの金髪を緩く内巻きにしているのがアルテミア・キルティング伯爵令嬢。
そして今私を助け起こしてくれているのが、背中までの髪を一部三つ編みにして前へ垂らしている、エアリアル・ラテ・リッティベア侯爵令嬢だ。
3人ともこの学園における私の友人であり、悪役令嬢物で言うところの『公爵令嬢の取り巻き』に値する。
とはいえ、物語の中のおべっか連中なんかと、心優しい彼女らを一緒にされては困りますけどね。
「アウローラ様、血が出ていますわ…!!」
「他に怪我はございませんか?」
「制服がこんなに汚れてしまって…!」
心配そうな顔で私を気遣う3人の令嬢に、私は鼻を抑えつつ『大丈夫よ』と再度微笑んで見せる。
すると彼女らはようやくホッとした表情を浮かべるが、同時に、物言いたげな困惑した視線を地面に座ったままの令嬢へ向けた。
うん。まあ、そりゃあ、対処に困りますよね。
ぶつかってきといて、謝りもしないんだから。
「……立てますか?」
仕方なく私は、内心の呆れや悪態は一切顔に出さず、淑女スマイルを浮かべて彼女に声を掛けた。すると、
「ひどいわ…ッ!!アウローラ様、こんな仕打ちをなさるなんて…!!」
………………はい??
何故だか言いがかりそのものの台詞を吐き出すと、彼女は『わっ』と声を上げて本格的に泣き始めてしまったのだ。
ええええっ、いや、ちょっと待って。
どうしてこの状況で、そんな台詞が出る??
つーか、なんで、私が意地悪したことになってんの。
いきなり後ろから体当たりしてきたの、あんたでしょうが??
「は………あの…??」
突然の事態に頭の中へ『?????』と疑問符が物凄い勢いで飛び出してくる。
どういう謎展開よ、これ??
ていうか、そもそもあんた誰???
私は彼女の名前も知らないのに、なんで彼女は、いきなり私を苗字でなく名前呼びしてるのだろう。
前世でもそうであったが、特にこの貴族社会においてはマナーが厳しい。
名前や愛称なども、親しい者か本人から許可されたのでない限り、軽々しく呼んではいけなかったはずだ。
ひょっとして、どこかで会ったことがあるのだろうか??
そう思い直して、アウローラとして生きた16年の記憶を掘り返してみたが、やはり、彼女に該当する記憶は欠片として出て来なかった。当然、そんな彼女に、名前を呼ぶ許可を与えたはずもない。
「どなた……?」
「……さあ?」
小さな話し声に気付いて周りを見ると、3人の令嬢も『この人誰??』と顔を見合わせていた。
ああ、良かった。知らないの、私だけじゃなかったのね。
彼女らのその様子を見て、私はホッと胸を撫で下ろす。
一瞬、マジで、転んだ拍子に突発性の記憶喪失になったかと思ったわ。
「……アウローラ様?」
自分がおかしい訳ではないとハッキリ確信したので、私は、彼女らの問い掛けるような視線を受けて、堂々と困惑顔で『わかりません』と首を傾げて見せた。
おかげで誰も彼女に心当たりが無いと知れたが、だからと言ってこの状況が解決する訳でもない。
「…………」
「…………」
私と友人らは困惑顔のまま無言で、改めて座り込んで泣く令嬢へ視線を送った。
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桜色の小さな唇と、筋の通った形の良い鼻。
制服の上からでも解る、華奢ですらりとしたスタイル。
どっからどう見ても絶世の美少女──ということ以外何もわからない、正体不明、言動不可解な女は、相変わらずしくしくと可憐に泣き続けていた。
「なに?どうしたの?」
「さあ…?」
気が付くと周囲には登校途中の野次馬が大勢集まっていて、彼女の勇ましい突撃シーンを見損ねた人達からすると、どう見ても私達の方が悪役な状況になっていた。
うーん…どうしたものか。
どうにも収拾がつかない。
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でもなぁ。話しかけても意味不明だし。
ああ、見なかったことにしたい……!!
なんて自暴自棄になりかけていた、その時、
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