転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM

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母になります!!

「殿下…この仔はいったい?」
 私は淑女としてなるべく落ち着いて、冷静にそう問い掛けたつもりだったけど。
「でで…殿下…ッッ、ここ…きょの、この仔はいったい……ッッ」
 実際は噛むはどもるは息も荒いわで、かなり無様なことになっていたと思う。
 いや、だって、仕方がないでしょ!?
 
  この世界に猫はいない
 
 そう聞かされてどん底まで落ち込んで、生きてる意味すらないってくらいって思い込んでたのよ??
 なのにこの仔はなんなの??
 可愛い
 可愛すぎる!!
 茶と白のふわふわ体毛に、ちょこんとついた丸い耳。まだ開いたばかりの目は、なんだか目つきが悪いけども、それもまた仔猫の可愛さの一つ!!そしてみーみーと、甲高く小さな鳴き声。
 うあああああああっっっ!!!!
 天使!!!!
 いや天使でしょマジで!!??
「魔物ッ…魔物の幼体…ですわよね…??」
「えっ、ご、ごめん!!怖かった!?」
 確認のためこの仔の正体について質問したら、私が怖がってるかのように勘違いしたのだろう、殿下が手を伸ばして私の手から仔猫を奪い取ろうとした。
「なにするんですのーッッ!!」
 ので、私は奇声を上げながら素早く彼の手を避け続け、手の中で震える小さな仔猫を頑として死守した。
「えっ、え??こ、恐いんじゃないの?」
「こんな可愛い子のどこが怖いですかああああ!!!!」
 いかん。興奮しすぎて声のボリュームを調整できてない。
「ご、ごめんね~怖かったね~よしよし、大丈夫よ~」
 手の中で仔猫がビクッとしたのを感じて、私は声を極力抑え甘えた声で話しかけた。もちろん殿下にではなく、手の中の小さな仔猫に対して、だ。
「殿下のせいで怖がらせちゃったでしありませんか」
「えっ、これ、僕のせいなの??」
 私から当たり前みたいに責任転嫁されて、殿下は、その懐かしい容姿ばかりか、口調までも幼い頃のようになっていた。なんだか、きょとんっとした様子が、子供みたいで可愛い。
 ──あ、っていうか、ごめんごめん。
そうだよね。確かにこれ私のせいだった。と、一瞬遅れて我に返る。
「ごめんなさい…つい、興奮して…それで…あの、この仔は…」
「え、あ…あ、そうだったね…」
 叫んだおかげで、ちょっと落ち着いた。
という訳でようやく最初の疑問へ返ると、殿下もハッとして事情を話してくれたのだった。

 王都の北に位置する森。
 そこには比較的弱い魔物が多く生息していた。
 どのくらい弱いかというと、武器を持ってさえいれば、人間の大人なら簡単に倒せるくらいに。
 しかし弱いからといって放置すると、増えすぎた魔物が国民生活に被害を及ぼすかもしれない。
 そういう理由で数年に一度、大規模な魔物狩りが行われている。要するに間引きだ。
 そして今年はその『間引き年』で、つい先日、王家は騎士団を派遣して魔物を狩ったらしい。

 殿下の話を聞きながら私は『あ~それ、たぶん、ストーリー序盤の戦闘ステージだろうな~』などと秘かに考えていた。あれあれ、RPGにありがちな、初心者用ダンジョンみたいなとこ。感覚からしてレベル1から10くらい??の弱~い魔物しかいない、みたいな??
「あーるぴーじー??って??」
「あっ、いえ、なんでも…続きをどうぞ」
 しまった。うっかり口に出てたわ。
「あ、うん、続けるね」
 私の口から零れた前世の言葉に、殿下が『なんのこと??』と頭を傾げるので、私は適当に言葉を濁して誤魔化すと話を続けさせた。

「本来、ケット・シーは駆除対象外なんだ」
 何故かと言うと弱い魔物の中でも格段に弱いから。聞けばスライムに次ぐ弱さらしい。しかも繁殖力が弱く、生まれた子魔物の生存率も低いのだそうだ。
「けど…そうしたら、この仔はいったい…?」
「うん。どうやら子育て中に、他の魔物に襲われたようでね…騎士が見つけた時は、親と子がほとんど殺されていた状態だったらしい」
「…………ッッ」
 
 前世でもそういうことはよくあった。
 だからこそ親猫は仔猫を守るために、ちょくちょく子育ての巣を変えるのだ。
 それはすべての野生で生きる動物たちには、逃れられない運命のようなものだけれど。
 でも、SNSなどでそういう情報を見るたびに、私は貰い泣きをしていたものだった。
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