転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM

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子育て奮闘

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 部屋へ戻るとほぼ同時にドアがノックされ、
「お帰りなさいませ、お嬢様」
 と、いつも通り澄ました顔で優雅に一礼するミィナが現われた。
「ん、ただいま………じゃ、なくてッ!!ミィナ!!あなた、主人の秘密をバラしたわね!!!!!!!!」
 そんな彼女のあまりにも普段通りな様子に、うかうかと流されそうになった私だったが、ハッと我に返ると、気を取り直して殿下に秘密を漏らした罪を問いただした。
「秘密とは?」
「長髪男が嫌いってことよ!!」
 おかげで殿下がいきなりイメチェンする事態が起きてしまったんだから、ここはひとつ主人として使用人を注意するのは当り前ですわよね??と、しっかり理論武装してミィナに詰め寄ったのだけれど。
「お嬢様のそれは、秘密でもなんでもありませんよね?」
 ミィナは平然とした顔で『それはすでに周知の事実』ときっぱり言い切ったのだ。
「……えっ!?そうなの??」
 えっ、えっ??…嘘。ひ、秘密じゃないの??
 っていうか、私ったら、そんなに態度や顔に出ていたの??
 思わず慌てて頬に手をやると、ミィナは『そう、それ』と言いたげにうんうん頷いてくる。
 えっ??顔??顔に出てたってこと!!??
「たぶん、ご友人のご令嬢様方もご存じのことかと」
「ええっっ、やだ、そうなの!!??」
 信じられずに何がどう態度に出ていたのか詳しく聞くと、どうやら口元の一部が長髪男を見るたびにほんの僅か引き攣っていたらしい。マジか!!自分でも全く気付いてなかった!!
「ですから扇で口元をお隠し下さいと…お小さい頃から何度も忠告しておりましたのに」
「そんなこといつ言って…!!!!」
 ミィナの呆れた様子に無駄な反論を試みようとしたが、その瞬間、子供の頃の思い当たる記憶にぶち当たり、それ以上は何も言えなくなってしまった私だった。
「正直で素直な性格はとても好ましいのですが…」
 と、ミィナはフォローも入れてくれたが、貴族令嬢としては危なっかしいと釘を刺されたのである。
「ううう……」
 そういやなんか昔から言われてたわ…口元に感情が出やすいから隠しておきなさいって……

「まあ、殿下はつい最近まで気付いておられなかったようですけど…ご学友のどなたかからお聞きになったのでは??」
 とにかく暴露したのは私ではありませんよ。と、ミィナはあくまで己の無実を訴えたが、幼い頃から姉妹のように育って来た私から見ると、彼女の様子は完全に白とは言い難いような気もした。まぁ、もう良いけどさ。殿下の見た目が良くなっただけで、私に何か実害があるわけでも無いしね。

「ところでお嬢様…その、肩にへばりついてる生き物は?」
「あっ。忘れてた!!」
 不思議そうに顔を傾げて問われて思い出した。私の肩の上にへばりついてる仔猫…もとい、ケット・シーの幼生体は、気が付くと少しの間に元気がなくなっていた。
「どうしよ…お腹すいたのかな…?」
「なるほど…ケット・シーの幼生体ですか。では、まずタオルに包んだ湯たんぽで体を温めましょう。幼生体は自ら温度調整が出来ないと聞きますから。それから、人肌に温めたミルクを用意しますので」
「た……頼りになる…!」
 私が何か答える前に事態を察したミィナは、素早く幼生体の状態を診察、判断して、てきぱきと手早く必要なものを揃え始めた。す…凄い。いや、有能なのは知ってたけどね。

 『猫を飼いたい』と前世の頃から思ってはいたが、正直、私は自分1人の力で猫を飼ったことは一度もなかった。前世の私が子供の頃家にいた猫は、主に母が世話してくれていたから、どうやって世話すれば良いか解らなかったのだ。ましてまだ本来は母猫が育ててるはずの仔猫だなんて。

 殿下には任せてください!!と言い切ったが、実は何をして良いか解ってなんていなかったのだ。

 情けないなぁ。結局、人任せだなんて。と落ち込んでいたら、
「これから覚えて行けば良いことではありませんか」
 と、ミィナに優しく慰められた。さすが私の乳姉妹…口に出さずとも考えてることが解るのね。なんて、ホロリと絆されかけていた私に、ミィナは──
「ちなみに…私はサポートこそいたしますが、この仔のお世話はお嬢様のお仕事です。覚悟してください。これからしばらくの間、呑気に学園なんて行ってる暇はないと思いますよ?」
 と、にっこり天使みたいな笑顔を浮かべて、地獄のような厳しい現実を突きつけてきた。
「えっ………?」
 生き物の命を預かるには責任が伴う。それくらいのことは解っていた私だったが、まさか、こんな大変な事態になるとは考えてもいなかったよ!?
「寝る間も惜しんでお世話してくださいね。というか、幼生体には数時間おきの授乳が必要でしょうから、これまでのようにゆっくり寝てる暇なんてありませんけどね?」
「ひえ……ッ!?」
 
 こうして私はこの日から約一ヶ月の間、育休などと称して学園を休むことになったのだった。
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