八百屋勤めの聖女様

RINFAM

文字の大きさ
2 / 8

力の使いどころ

しおりを挟む
 記憶と共に大聖女の力を取り戻した時、私は、世界中の生き物を癒して回りたい、なんてことを考えた。

 いや、だって、せっかく奇跡ともいえる力を使えるようになったんだから、苦しんでる人や生物を助けたいって思うじゃない??
 それで手始めに病気で苦しむ人たちを助けて回ろうかしら??と、近所の病院の位置やらを調べてみたりもしたんだけれど…

 でも、本当にそれは良いことなのか??と、ふと悩んでしまった。
何故??って思うかも知れないが、それにはちゃんとした理由がある。

 もちろん病を癒すのは簡単だ。なにしろ今の私に治せない病はないから。
 でも、そうやってすべての病を癒して回って、世界から病魔を取り除くことが、本当に人類のためになるのか??と考えてしまったのだ。

 いくら大聖女でも、病気や怪我そのものを無くすことは出来ない。
ということは一旦、綺麗に治癒して回っても、新たな病人や怪我人はどんどん生まれてくる。
 今まで無かった病原菌ですら、時折、世界のどこかで発生してたりするんだから、その繰り返しに際限ないのは解ると思う。

 私が生きている間は良いよ?
 どんな病気だって、瀕死の怪我だって、一瞬で治せてしまうからね?
 でも、その後は??
 私が死んでしまった後は、いったい誰が病や怪我を治療するの??

 そう、もちろんそれは、人の医者たちだ。
 
 では、私がすべての人間を治癒してしまったら、患者がいなくなった医者たちはその間、どうやって生活していくのか??

 こう言っては何だけど、患者という収入減がなくなったら、食っていける訳がないよね??

 きっと私が生きている間、医者という職業に就く人間が居なくなってしまうだろう。そうして、せっかくここまで発展してきた高度な医療技術もまた、その間に廃れたり失われたりするのに違いなかった。

 それではダメなのだ。

 私が永遠に生きられでもしない限り──または、私のような聖女が、今後もこの世界に生まれ続ける確証でもない限り、人は自らの手で同族を治癒し続けていかなくてはならないのだ。そして、そのための技術と知識を維持し、未来へつなげ、発展させていかなくてはならないのだから。

 治せるのに治せない。
 そのことにかなりジレンマに陥ったけども、私のこの考えが『間違ってる』と言い切れる人は、きっと、この世界に存在しないはずだ。

 けれど、せめて、手の届く範囲で、この力を生かせないものか??

 そう考えに考えた結果、私は脳を駆使し過ぎてパンクし、とりあえず、勤めている八百屋さんで、野菜や果物の鮮度を保つために聖女の力を使っていた。

 …………え??
 今なんか、ずっこけられた??

 うん。まあ、冷静に考えたら、なぜそうなる??って、自分でも思うけどさ??
 いや、でもね??
 おかげでうちの店、お野菜の鮮度が長持ちするって、近所でなかなかの評判なんだけど。
 ……って、宝の持ち腐れ??
 え、そ、そうかな??やっぱり??
 うーん…
 これでも、めちゃくちゃ真剣に考えた結果なんだけど……ま、まあ、いいや。

 あとは、職場の同僚たちの腰痛や肩こり、勤務中に出来た細かい傷なんかを、こっそり治してまわってる平穏な日々を過ごしてます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

処理中です...