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ある日の出来事
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うーん。あれから数週間経ったけど、この力の使い道には悩みっぱなしだなぁ。もちろん今も職場で野菜や果物を長持ちさせたり、同僚の疲労や小さな傷をコッソリ治してみたりはしているけども。
それでもやはり宝の持ち腐れ状態なのは変わんない。
世の中のニュースで人の生き死に関するものを見聞きするたび、私なら助けてあげられるのに…と物凄いジレンマに陥る日々だ。だけどそんなの、この世界のためにならないと分かっているから手が出せない。ううーん。私がもっと生真面目な性格だったら、一瞬で心が病みそうな状況だわね。
「人はね、1人の人間として出来る範囲で、出来るだけのことをすれば良いだけなの。それ以上のことは、きっと神様の領域よ。人であるあかりのすることじゃない」
私の力のことは知らないはずなのに、お婆ちゃんはそう言ってくれた。
前世の世界では、大聖女は神の代理人だった。
だから、どんな奇跡であっても、力の限りやらなくてはいけなかった。
でもこの世界では人間は人間。神の代理人なんかじゃない。
そして奇跡の力は麻薬と一緒だ。便利過ぎる力は、人から思考能力も、向上心も奪ってしまう。
停滞した人類に未来はない。
だから私のこの力は、死ぬまで隠しておくべきものなのだ。
それは解ってる。
だけど……でも……。
せめてもう少し。
ほんの少しで良いから。
何かを救うことは出来ないものか。
ぐるぐると堂々巡りする思考。
たぶんこれは、いつまで考えたって答えの出ないものだ。
「あれ?…君、こんな遅くにどうしたの??」
そんなある冬の日の仕事帰り、私は、歩道のベンチに座り込む男の子を見つけた。時刻はそろそろ夜の8時。いくら街中とは言っても、小学4~5年生くらいの子供が、1人で居ていい時間じゃない。
「気安く声かけてくんなよ。怪しい女め」
「口悪いな、君」
まあ確かに見ず知らずの女だけども。心配して声かけてんのに、バッサリ一刀両断すな。
「可愛いね。君んちの猫?」
ほっとこうかな??と一瞬思ったが、やはり様子がおかしいので、立ち止まって同じベンチへ座った。男の子はたじろいで身を引いたが、逃げることはせずに膝の上の猫ケージに手を置く。
ケージの中には黒っぽい縞のある猫が、ぐったりとうずくまっていた。
一目でわかる。
この仔は、死にかけている。
ふと見まわすと、近くに動物病院の看板が見えた。
ああそうか。と、何も聞かずして私は事情を察した。
「もう、駄目なんだ…これ以上治療できないって、先生に言われた…」
私が猫について話を振ると、警戒していた男の子は途端に、涙を滲ませながらそう話してくれた。
「こいつ、俺の飼い猫でミルって言うんだけどさ…仔猫の時、死にかけてたのを拾ったんだ」
「……そうなの。ほっとけなかったんだね?」
なんだ。口悪いけどいい子だ。思わず心の中でホッコリする。
「うん。でも、お母さんは最初、飼うの反対してた…俺、必死に頼んでさ…そしたらお母さん、ちゃんと世話するのよって…そんで、飼って貰えることになったんだ」
それから3年。男の子は母親との約束通り、猫の面倒をきちんとみた。最初は反対していた母親も、実は猫好きだったらしく、彼の猫を家族として可愛がってくれたそうだ。
けれど猫が3歳になった頃から、体調を崩して病院へかかるようになった。
診察の結果、猫は内臓系の病気であり、完全に治す方法がないと告げられたらしい。
「悪くなっても、タイショリョウホウ?ってやつしか方法なくて…たぶん、もう、長くは生きられないって、今日はっきり言われた……」
そこまで語ると男の子は、耐え切れなくなったように、大粒の涙を零してひぐひぐ泣き始めた。
それでもやはり宝の持ち腐れ状態なのは変わんない。
世の中のニュースで人の生き死に関するものを見聞きするたび、私なら助けてあげられるのに…と物凄いジレンマに陥る日々だ。だけどそんなの、この世界のためにならないと分かっているから手が出せない。ううーん。私がもっと生真面目な性格だったら、一瞬で心が病みそうな状況だわね。
「人はね、1人の人間として出来る範囲で、出来るだけのことをすれば良いだけなの。それ以上のことは、きっと神様の領域よ。人であるあかりのすることじゃない」
私の力のことは知らないはずなのに、お婆ちゃんはそう言ってくれた。
前世の世界では、大聖女は神の代理人だった。
だから、どんな奇跡であっても、力の限りやらなくてはいけなかった。
でもこの世界では人間は人間。神の代理人なんかじゃない。
そして奇跡の力は麻薬と一緒だ。便利過ぎる力は、人から思考能力も、向上心も奪ってしまう。
停滞した人類に未来はない。
だから私のこの力は、死ぬまで隠しておくべきものなのだ。
それは解ってる。
だけど……でも……。
せめてもう少し。
ほんの少しで良いから。
何かを救うことは出来ないものか。
ぐるぐると堂々巡りする思考。
たぶんこれは、いつまで考えたって答えの出ないものだ。
「あれ?…君、こんな遅くにどうしたの??」
そんなある冬の日の仕事帰り、私は、歩道のベンチに座り込む男の子を見つけた。時刻はそろそろ夜の8時。いくら街中とは言っても、小学4~5年生くらいの子供が、1人で居ていい時間じゃない。
「気安く声かけてくんなよ。怪しい女め」
「口悪いな、君」
まあ確かに見ず知らずの女だけども。心配して声かけてんのに、バッサリ一刀両断すな。
「可愛いね。君んちの猫?」
ほっとこうかな??と一瞬思ったが、やはり様子がおかしいので、立ち止まって同じベンチへ座った。男の子はたじろいで身を引いたが、逃げることはせずに膝の上の猫ケージに手を置く。
ケージの中には黒っぽい縞のある猫が、ぐったりとうずくまっていた。
一目でわかる。
この仔は、死にかけている。
ふと見まわすと、近くに動物病院の看板が見えた。
ああそうか。と、何も聞かずして私は事情を察した。
「もう、駄目なんだ…これ以上治療できないって、先生に言われた…」
私が猫について話を振ると、警戒していた男の子は途端に、涙を滲ませながらそう話してくれた。
「こいつ、俺の飼い猫でミルって言うんだけどさ…仔猫の時、死にかけてたのを拾ったんだ」
「……そうなの。ほっとけなかったんだね?」
なんだ。口悪いけどいい子だ。思わず心の中でホッコリする。
「うん。でも、お母さんは最初、飼うの反対してた…俺、必死に頼んでさ…そしたらお母さん、ちゃんと世話するのよって…そんで、飼って貰えることになったんだ」
それから3年。男の子は母親との約束通り、猫の面倒をきちんとみた。最初は反対していた母親も、実は猫好きだったらしく、彼の猫を家族として可愛がってくれたそうだ。
けれど猫が3歳になった頃から、体調を崩して病院へかかるようになった。
診察の結果、猫は内臓系の病気であり、完全に治す方法がないと告げられたらしい。
「悪くなっても、タイショリョウホウ?ってやつしか方法なくて…たぶん、もう、長くは生きられないって、今日はっきり言われた……」
そこまで語ると男の子は、耐え切れなくなったように、大粒の涙を零してひぐひぐ泣き始めた。
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