人狼

RINFAM

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 蓮が攫われてから2週間が経っていた。

「はあ………ッ」
 何日かぶりかで帰ってきた家の中は、荒らされたままで放置されている。倒れた椅子、破壊された家具、散らばされて床に転がる小物。それらはすべて、リアムの愛しい『番』蓮が、自らを連れ去ろうとする者の手を逃れようと、必死に抵抗した痕だった。
「…………蓮」
 蓮が最後に残した悲鳴のような痕跡を、リアムは片付ける事が出来なかった。
 それらをすべて片付け、元通り綺麗にしてしまったら、彼がここに居た記憶ごと、何もかも消してしまうような気がして。蓮という少年がここに居たという事実でさえも、なかった事になってしまいそうで。
「………どこに居るんだ…蓮」
 テーブルの上に置いた、液晶の割れた蓮用の携帯電話。それはリアムに何も伝えてはきはしないけれど、彼にはそこから蓮の悲痛な叫びが響いてくるように感じられた。
 リアム、助けて。リアム、早く助けに来て、と。
「くそっ……!!」

 あの日からリアムは、攫われた番の手掛かりを求めて走り回っていた。

 匂いは風に流されてほとんど残されていない。しかも用心深い事に、セオドアはこの村の近辺の町には一切立ち寄らなかったらしく、あれほど目立つ容姿であるのに、何ひとつつとして目撃情報が得られなかった。
「あの野郎……っっ」
 金髪碧眼。顔も良くスタイルも良い、長身の外国人の男。自身が周囲に残す印象の強さを、セオドアは良く熟知しているのだろう。おそらく彼は、目撃されないために出来る限り足跡を残さず、蓮を乗せた車で一息に遠距離移動したのだ。
 必ず追って来るであろう、リアムの追跡を逃れるために。
 おかげで徐々に捜索範囲を広げていっているにも関わらず、2週間経ってもリアムは何の有用な情報も得られないままでいた。まるでそう、この村を出た瞬間、煙の様に消えてしまったかのように。
「…………」
 今頃、蓮はどうしているだろうか。この世でたった1人の愛しい番が、まだこの国に居るのかすら解らない状況と、彼を永遠に失うかも知れない恐怖とに、リアムは身を引き裂かれんばかりに怯えていた。
「蓮……蓮…ッ」
 満月が近付いている。身体の中から込み上げてくる、どうしようもない情欲にリアムは自制心を失いそうになった。ジワリと人の輪郭が崩れて、獣のソレへと変化していく。だが、夜とはいえ窓など開けっぱなしで、庭の外から何もかもが丸見えだった。
「く……うっ、ううっ」
 このままではまずい。誰かに見られるかも知れない。
 そう本能が危機を訴えるが、自分で自分を抑制できぬ、醜く浅ましい獣の欲望に、リアムは半ば身を任せたくなってもいた。そしてそんな欲情を自身の内に感じる時、リアムは、どうしても蓮の顔を思い出してしまう。
 いや、そうでなくともリアムの目の奥には、自分に抱かれて喘ぐ愛しい番の姿が、常にくっきりと焼き付いてはいた。けれど──
「蓮…蓮、ごめん」
 最初に蓮を抱いた時、生まれて初めての発情期を迎えたリアムは、抑制も何も効かずに彼を抱いてしまい、まだ幼かった蓮を心身ともに酷く傷付けてしまった。
 獣じみた…いや、獣そのものの激しいセックスは、気を付けていなければ、蓮の柔らかな肢体を血に塗れさせてしまう。それは今もあまり変わりはないが、あの時よりもずっと抑制が出来ている分、少しはマシになってきていた。
 だが──
「やああああっああっああああっ!!!」
 村の外れで2人きりで遊んでいた時、人狼の発情期は突如リアムに襲い掛かってきた。少し前から変だとは思っていたが、まさかこれほど急にそれがやってくるなどと、リアムも、もちろん蓮も、少しも考えてはいなかったのだ。
「ひっ、い!!!ふあああっ、あっ、うああっ、ああ!!」
 半人半狼の姿でリアムは蓮を組み伏せ、牙を剥いて噛み付き、流れる血を舐めしゃぶる。乱暴に衣服を引き千切られた蓮は、地面に裸体を押し付けられ、下半身を持ち上げられて、リアムの怒張したモノに後孔を貫かれ悲鳴を上げ続けていた。
「やあっ、うあっ、やああっ、リアム…リアムぅぅ!!」
 荒々しいだけの行為に怯え、泣き叫んで逃げようとする蓮の顔が、恐怖に歪んだ彼の泣き顔が、リアムには今も忘れられずにいる。
 それからリアムは蓮を何度も抱いてきたが、頭の隅ではいつも考えていたのだ。もしかすると蓮は、本当は今も、自分を恐れているのではないかと。
「そんな事ない。俺はリアムを愛してる」
 聞けばそう答えてくれるのは解っていた。そして、蓮が本当に自分を愛してくれている事も、本当は心ではちゃんとわかっている。けれど、セックスの度に蓮の身体に増える傷を見てしまうと、どうしてもリアムは考えてしまうのだ。

 蓮を、人の世界へ戻した方が良いのではないか、と。

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