人狼

RINFAM

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 蓮が目を覚ました時、その視界に映ったのは、見た事のない知らない天井だった。
「…………っ!?」
 恐る恐る身を起こした蓮は、自分がベッドの上に寝かされていたと気付く。身に着けているのは自分の服では無く、最初この国へ来た時、ホテルの部屋にあった『浴衣』と言う寝間着の一種だ。
 よくよく見ると室内もホテルの一室の様で、2つのベッドが並んで設置されている以外は、小さなテレビと机、冷蔵庫くらいの家具しかなかった。狭い室内にはドアがもう1つあるが、おそらくそこがトイレと風呂なのだろう。
「…………」
 今、この室内には蓮以外の気配がなかった。彼を攫った──愛する番リアムから引き離した男、セオドア・ライアンは部屋の外へ出ているのだろう。そうと知った蓮は、素早くベッドから降りて部屋のドアへと向かった。
 鍵を開けてドアの陰から通路を窺い、人の姿がないと確認した蓮は、エレベータを見付けて急いで走り寄りボタンを押した。ゆっくりと上がってくるエレベータ。蓮の居る階数の表示は22階になっている。
「早く…早く……ッ」
 あの男のいない間にここから出て、リアムの所へ帰るのだ。ココがどこだか解らない。眠っている間にどれだけ移動したかも解らないけれど。でも、どんなに遠く離れていても、きっと自分は愛する番の元へ導かれるはずだ。
「リアム…今、帰るから……ッ」
 蓮は縋る様な、祈るような気持ちで、上がってくるエレベータの表示を見守った。そして、それがようやく蓮の居るフロアへ到着するという、まさにその時、
「どこへ行くんだい、裸足のままで?」
「…………っっ!!??」
 聞き覚えのある声に背後から声を掛けられ、振り返る間もなく蓮は腰を掴まれて、伸びてきたその腕に軽々と抱え上げられてしまっていた。
「はな…離せっ!!」
「そうはいかないよ。蓮…君は大切なお宝なんだからね」
 元来た通路を連れ戻される間、必死にジタバタと暴れ続けたが、そんな蓮の抵抗など物ともせずに、男──セオドア・ライアンは、なんなく彼を部屋の中へ押し込んでしまう。
「さすがに油断も隙もない。やはり足だけでも拘束しておいた方が良かったかな?」
「……………っっ」
 放り投げられるようにベッドへ下ろされ、蓮は大きな青い目でマクギリスを睨み付けた。暴れたせいで浴衣の前ははだけ、着崩れたそこから乳白色の肌や下着が見えていたが、そんな些細な事など気にする余裕はない。
 なんとしても逃げなくては。逃げてリアムの元へ帰らなければ。
「本当に君は彼のことが好きなんだね?…でも、だからこそ君を、彼の元に戻す訳にはいかないんだよ」
「俺の…ホントの両親に…雇われてるから?」
 どうにかしてセオドアの隙を突こうと、蓮はベッドの上から端正な男の顔を睨み付ける。すでにセオドアの卑劣な一連の行動のせいで、彼とは口も利きたくないほどの心境だったが、油断させるためには仕方がないと蓮は話を続けた。
「俺には血の繋がった家族なんかより、リアム1人の方が大事なんだ…だから、アンタが俺を連れ帰ったりしても、俺は絶対にリアムの所に帰る」
 だからこんなことしても無駄だ。自分とリアムを引き離すなんて決して出来ない。
 そう、言葉にならない強い想いを、蓮はその視線に乗せて伝えるが、目の前の男は一向に気に留める様子も見せなかった。しかも、あからさまに反抗的な態度や言葉を不快に思い、機嫌を損ね眉を顰めるようなことすらしない。
「ははっ、ますます気に入った…!!」
「…………ッ!?」
 どころかセオドアは端正な顔を笑みの形に変え、蓮に対してむしろ好意的な態度を見せたのである。そしてそれは、明らかな欲に満ちた『雄』の気配を帯びてもいた。
「…………あ…ッ!?」
 そう、蓮の脳裏に、過去の辛い『記憶』と『経験』を、呼び覚まさせるほどに強い──

 ──荒々しい獣の如き雄の気配を。

「――――――――っ!?」
「蓮……私は、もっともっと…君のことが知りたくなってきたよ」
 そうしてセオドアは蓮の逃げ場を塞ぐ様に、ベッドの上へ膝を乗せ押し迫ってきた。

 まるで、逃げ場を失くした草食獣を、追い詰め駆り立てる猟犬でもあるかの様に。
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