17 / 34
⑰
しおりを挟む
蓮が目を覚ました時、その視界に映ったのは、見た事のない知らない天井だった。
「…………っ!?」
恐る恐る身を起こした蓮は、自分がベッドの上に寝かされていたと気付く。身に着けているのは自分の服では無く、最初この国へ来た時、ホテルの部屋にあった『浴衣』と言う寝間着の一種だ。
よくよく見ると室内もホテルの一室の様で、2つのベッドが並んで設置されている以外は、小さなテレビと机、冷蔵庫くらいの家具しかなかった。狭い室内にはドアがもう1つあるが、おそらくそこがトイレと風呂なのだろう。
「…………」
今、この室内には蓮以外の気配がなかった。彼を攫った──愛する番リアムから引き離した男、セオドア・ライアンは部屋の外へ出ているのだろう。そうと知った蓮は、素早くベッドから降りて部屋のドアへと向かった。
鍵を開けてドアの陰から通路を窺い、人の姿がないと確認した蓮は、エレベータを見付けて急いで走り寄りボタンを押した。ゆっくりと上がってくるエレベータ。蓮の居る階数の表示は22階になっている。
「早く…早く……ッ」
あの男のいない間にここから出て、リアムの所へ帰るのだ。ココがどこだか解らない。眠っている間にどれだけ移動したかも解らないけれど。でも、どんなに遠く離れていても、きっと自分は愛する番の元へ導かれるはずだ。
「リアム…今、帰るから……ッ」
蓮は縋る様な、祈るような気持ちで、上がってくるエレベータの表示を見守った。そして、それがようやく蓮の居るフロアへ到着するという、まさにその時、
「どこへ行くんだい、裸足のままで?」
「…………っっ!!??」
聞き覚えのある声に背後から声を掛けられ、振り返る間もなく蓮は腰を掴まれて、伸びてきたその腕に軽々と抱え上げられてしまっていた。
「はな…離せっ!!」
「そうはいかないよ。蓮…君は大切なお宝なんだからね」
元来た通路を連れ戻される間、必死にジタバタと暴れ続けたが、そんな蓮の抵抗など物ともせずに、男──セオドア・ライアンは、なんなく彼を部屋の中へ押し込んでしまう。
「さすがに油断も隙もない。やはり足だけでも拘束しておいた方が良かったかな?」
「……………っっ」
放り投げられるようにベッドへ下ろされ、蓮は大きな青い目でマクギリスを睨み付けた。暴れたせいで浴衣の前ははだけ、着崩れたそこから乳白色の肌や下着が見えていたが、そんな些細な事など気にする余裕はない。
なんとしても逃げなくては。逃げてリアムの元へ帰らなければ。
「本当に君は彼のことが好きなんだね?…でも、だからこそ君を、彼の元に戻す訳にはいかないんだよ」
「俺の…ホントの両親に…雇われてるから?」
どうにかしてセオドアの隙を突こうと、蓮はベッドの上から端正な男の顔を睨み付ける。すでにセオドアの卑劣な一連の行動のせいで、彼とは口も利きたくないほどの心境だったが、油断させるためには仕方がないと蓮は話を続けた。
「俺には血の繋がった家族なんかより、リアム1人の方が大事なんだ…だから、アンタが俺を連れ帰ったりしても、俺は絶対にリアムの所に帰る」
だからこんなことしても無駄だ。自分とリアムを引き離すなんて決して出来ない。
そう、言葉にならない強い想いを、蓮はその視線に乗せて伝えるが、目の前の男は一向に気に留める様子も見せなかった。しかも、あからさまに反抗的な態度や言葉を不快に思い、機嫌を損ね眉を顰めるようなことすらしない。
「ははっ、ますます気に入った…!!」
「…………ッ!?」
どころかセオドアは端正な顔を笑みの形に変え、蓮に対してむしろ好意的な態度を見せたのである。そしてそれは、明らかな欲に満ちた『雄』の気配を帯びてもいた。
「…………あ…ッ!?」
そう、蓮の脳裏に、過去の辛い『記憶』と『経験』を、呼び覚まさせるほどに強い──
──荒々しい獣の如き雄の気配を。
「――――――――っ!?」
「蓮……私は、もっともっと…君のことが知りたくなってきたよ」
そうしてセオドアは蓮の逃げ場を塞ぐ様に、ベッドの上へ膝を乗せ押し迫ってきた。
まるで、逃げ場を失くした草食獣を、追い詰め駆り立てる猟犬でもあるかの様に。
「…………っ!?」
恐る恐る身を起こした蓮は、自分がベッドの上に寝かされていたと気付く。身に着けているのは自分の服では無く、最初この国へ来た時、ホテルの部屋にあった『浴衣』と言う寝間着の一種だ。
よくよく見ると室内もホテルの一室の様で、2つのベッドが並んで設置されている以外は、小さなテレビと机、冷蔵庫くらいの家具しかなかった。狭い室内にはドアがもう1つあるが、おそらくそこがトイレと風呂なのだろう。
「…………」
今、この室内には蓮以外の気配がなかった。彼を攫った──愛する番リアムから引き離した男、セオドア・ライアンは部屋の外へ出ているのだろう。そうと知った蓮は、素早くベッドから降りて部屋のドアへと向かった。
鍵を開けてドアの陰から通路を窺い、人の姿がないと確認した蓮は、エレベータを見付けて急いで走り寄りボタンを押した。ゆっくりと上がってくるエレベータ。蓮の居る階数の表示は22階になっている。
「早く…早く……ッ」
あの男のいない間にここから出て、リアムの所へ帰るのだ。ココがどこだか解らない。眠っている間にどれだけ移動したかも解らないけれど。でも、どんなに遠く離れていても、きっと自分は愛する番の元へ導かれるはずだ。
「リアム…今、帰るから……ッ」
蓮は縋る様な、祈るような気持ちで、上がってくるエレベータの表示を見守った。そして、それがようやく蓮の居るフロアへ到着するという、まさにその時、
「どこへ行くんだい、裸足のままで?」
「…………っっ!!??」
聞き覚えのある声に背後から声を掛けられ、振り返る間もなく蓮は腰を掴まれて、伸びてきたその腕に軽々と抱え上げられてしまっていた。
「はな…離せっ!!」
「そうはいかないよ。蓮…君は大切なお宝なんだからね」
元来た通路を連れ戻される間、必死にジタバタと暴れ続けたが、そんな蓮の抵抗など物ともせずに、男──セオドア・ライアンは、なんなく彼を部屋の中へ押し込んでしまう。
「さすがに油断も隙もない。やはり足だけでも拘束しておいた方が良かったかな?」
「……………っっ」
放り投げられるようにベッドへ下ろされ、蓮は大きな青い目でマクギリスを睨み付けた。暴れたせいで浴衣の前ははだけ、着崩れたそこから乳白色の肌や下着が見えていたが、そんな些細な事など気にする余裕はない。
なんとしても逃げなくては。逃げてリアムの元へ帰らなければ。
「本当に君は彼のことが好きなんだね?…でも、だからこそ君を、彼の元に戻す訳にはいかないんだよ」
「俺の…ホントの両親に…雇われてるから?」
どうにかしてセオドアの隙を突こうと、蓮はベッドの上から端正な男の顔を睨み付ける。すでにセオドアの卑劣な一連の行動のせいで、彼とは口も利きたくないほどの心境だったが、油断させるためには仕方がないと蓮は話を続けた。
「俺には血の繋がった家族なんかより、リアム1人の方が大事なんだ…だから、アンタが俺を連れ帰ったりしても、俺は絶対にリアムの所に帰る」
だからこんなことしても無駄だ。自分とリアムを引き離すなんて決して出来ない。
そう、言葉にならない強い想いを、蓮はその視線に乗せて伝えるが、目の前の男は一向に気に留める様子も見せなかった。しかも、あからさまに反抗的な態度や言葉を不快に思い、機嫌を損ね眉を顰めるようなことすらしない。
「ははっ、ますます気に入った…!!」
「…………ッ!?」
どころかセオドアは端正な顔を笑みの形に変え、蓮に対してむしろ好意的な態度を見せたのである。そしてそれは、明らかな欲に満ちた『雄』の気配を帯びてもいた。
「…………あ…ッ!?」
そう、蓮の脳裏に、過去の辛い『記憶』と『経験』を、呼び覚まさせるほどに強い──
──荒々しい獣の如き雄の気配を。
「――――――――っ!?」
「蓮……私は、もっともっと…君のことが知りたくなってきたよ」
そうしてセオドアは蓮の逃げ場を塞ぐ様に、ベッドの上へ膝を乗せ押し迫ってきた。
まるで、逃げ場を失くした草食獣を、追い詰め駆り立てる猟犬でもあるかの様に。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる