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「セオドア……ッ!?」
「蓮を置いて立ち去りたまえ。そして、彼の事は忘れて平和に暮らすと良い…そうすれば私は、こんな無粋なものを使わずに済む」
チャキっと構え直された鉄色のそれは、確実にリアムの額に狙いを定めていた。
「……………くっ!?」
「急げ!!侵入者はあの部屋だ!」
「ルーク様をお守りしろ!」
そうこうするうちにバタバタと人の気配が近付き、セオドアの横へ同じく銃を構えた数人の男が並び立った。
「うわっ……!」
「………っっ」
銃口を向けられたジャックと総介が、降参するように両手を上げる。リアムは腕の中の蓮を強く抱きしめ、金色の瞳に怒りを滲ませてセオドアと対峙した。
「貴様…なんで、蓮を攫った!?」
「攫っただと…??攫ったのはむしろ君の方だろう?私は赤ん坊の頃に攫われた、この別荘の持ち主…ダストン家の子息である彼を保護したに過ぎないよ?」
「………なっ!?」
「ルークって…れ、蓮君のこと…!?」
セオドアの口から明らかとなった別荘の持ち主の正体に、リアムは思わず意識のない蓮の顔を覗き込んだ。同時にジャックも総介も、動揺するリアムの様子を、気遣わしげな目で見詰める。
「ココが……蓮の…ッ」
ここが、この別荘の持ち主が、蓮の本当の両親の──!?
自身が手を下した訳ではなくとも、自分の一族が蓮を攫ってきた事には間違いはない。そしてその事によって蓮は、平和で豊かな人間としての暮らしを失ってしまった。
常に心の片隅にあった罪悪感。それを刺激されてリアムの心が一瞬揺らぐ。
「蓮………」
セオドアの言う通り、蓮は置いていくべきなのか。
心の揺らぎが蓮を抱き締めるリアムの腕から力を失わせようとする。
だが、その時──
「…リアム!!」
「……ジャック!?」
「蓮君は君を求めてる。君に会いたいから、ここから逃げ出したいから、自分の身を傷付けてまでも逃げようとし続けたんだ。それを忘れないで!!」
そんなリアムの心境を汲み取ったのか、ジャックが厳しい口調で叱咤する。彼の言葉にハッとしたリアムは、蓮の手足に残る痛々しい傷跡を改めて見詰め直した。
「……蓮っ…!!」
拘束を解こうとして暴れ回ったのであろう、まだ真新しい血の滲んだ包帯。そして薄らと白い頬に残る涙の痕と赤く泣き腫らした目元。それらに蓮の自分へ対する強い想いを感じ取ったリアムは、不甲斐ない己を奮い立たせセオドアを睨み返した。
「どこの生まれだとか、誰の子だとかそんなこと、もう関係ねえ…蓮は、蓮は俺のもんだ…もうずっと、ずっと幼い頃から、蓮は俺だけの蓮だ……返して貰う!!」
「やれやれ……聞き分けのない子供だ」
2人のやり取りを見ていた碧の瞳が、呆れたように細く眇められる。セオドアが銃を握る手に力を込め構え押すと、それを合図にしたように周囲を固める黒服達も、構えた銃の引き金に力を込めた──時、
「今だよ、シン、ディラン!!」
『……おうッ!!』
「………なにッ!?」
虚を突いたジャックの叫びとソレへ応える新たな声に、セオドアらは新たな敵の出現を瞬間的に思い浮かべ、構えていた銃をそれぞれ部屋の外へと向けた。途端、タイミングを計ったように、再び邸内の灯りが落とされ、室内外を真の暗闇が支配する。
『予備電源が破壊された』と、遠くから悲鳴のような声が告げてきた。そんな報告にセオドアがチッと舌打ちをする。ほんの一瞬生まれたその間隙に、手の中に隠し持っていた携帯をポケットにしまいながら、ジャックがリアムと総介に『今だ!!』と合図の声を掛けた。
「窓から出るよ!!」
「おう!!」
「………ッ!」
尋常でない素早さで3人は窓へと駆け寄り、先陣を引き受けた寡黙な総介を筆頭に次々と、豪奢な窓を蹴破って邸内から庭へと飛び出していった。
「………くっ!?」
こんな子供騙しに!?と、セオドアは誰の姿もない通路を睨み付けながら歯軋りしたが、プロのガードマン達は慌てふためいて薄暗い廊下を走って追いかけ始める。
セオドアは彼らと行動を共にはせず、1人、割れてしまった窓から階下を見渡した。邸内を照らす非常灯では庭まで灯りは届かず、逃げたリアムらの姿は闇に紛れて見えない。けれど彼の緑の瞳は不気味に光り、何かを見据えるようにただ一点を見詰めていた。
「……くくっ…逃がさないよ…私の蓮」
ふと、端正な顔が歪んだ様に見えた。
そうして次の瞬間、そこにセオドアの姿は無かったのである。
「蓮を置いて立ち去りたまえ。そして、彼の事は忘れて平和に暮らすと良い…そうすれば私は、こんな無粋なものを使わずに済む」
チャキっと構え直された鉄色のそれは、確実にリアムの額に狙いを定めていた。
「……………くっ!?」
「急げ!!侵入者はあの部屋だ!」
「ルーク様をお守りしろ!」
そうこうするうちにバタバタと人の気配が近付き、セオドアの横へ同じく銃を構えた数人の男が並び立った。
「うわっ……!」
「………っっ」
銃口を向けられたジャックと総介が、降参するように両手を上げる。リアムは腕の中の蓮を強く抱きしめ、金色の瞳に怒りを滲ませてセオドアと対峙した。
「貴様…なんで、蓮を攫った!?」
「攫っただと…??攫ったのはむしろ君の方だろう?私は赤ん坊の頃に攫われた、この別荘の持ち主…ダストン家の子息である彼を保護したに過ぎないよ?」
「………なっ!?」
「ルークって…れ、蓮君のこと…!?」
セオドアの口から明らかとなった別荘の持ち主の正体に、リアムは思わず意識のない蓮の顔を覗き込んだ。同時にジャックも総介も、動揺するリアムの様子を、気遣わしげな目で見詰める。
「ココが……蓮の…ッ」
ここが、この別荘の持ち主が、蓮の本当の両親の──!?
自身が手を下した訳ではなくとも、自分の一族が蓮を攫ってきた事には間違いはない。そしてその事によって蓮は、平和で豊かな人間としての暮らしを失ってしまった。
常に心の片隅にあった罪悪感。それを刺激されてリアムの心が一瞬揺らぐ。
「蓮………」
セオドアの言う通り、蓮は置いていくべきなのか。
心の揺らぎが蓮を抱き締めるリアムの腕から力を失わせようとする。
だが、その時──
「…リアム!!」
「……ジャック!?」
「蓮君は君を求めてる。君に会いたいから、ここから逃げ出したいから、自分の身を傷付けてまでも逃げようとし続けたんだ。それを忘れないで!!」
そんなリアムの心境を汲み取ったのか、ジャックが厳しい口調で叱咤する。彼の言葉にハッとしたリアムは、蓮の手足に残る痛々しい傷跡を改めて見詰め直した。
「……蓮っ…!!」
拘束を解こうとして暴れ回ったのであろう、まだ真新しい血の滲んだ包帯。そして薄らと白い頬に残る涙の痕と赤く泣き腫らした目元。それらに蓮の自分へ対する強い想いを感じ取ったリアムは、不甲斐ない己を奮い立たせセオドアを睨み返した。
「どこの生まれだとか、誰の子だとかそんなこと、もう関係ねえ…蓮は、蓮は俺のもんだ…もうずっと、ずっと幼い頃から、蓮は俺だけの蓮だ……返して貰う!!」
「やれやれ……聞き分けのない子供だ」
2人のやり取りを見ていた碧の瞳が、呆れたように細く眇められる。セオドアが銃を握る手に力を込め構え押すと、それを合図にしたように周囲を固める黒服達も、構えた銃の引き金に力を込めた──時、
「今だよ、シン、ディラン!!」
『……おうッ!!』
「………なにッ!?」
虚を突いたジャックの叫びとソレへ応える新たな声に、セオドアらは新たな敵の出現を瞬間的に思い浮かべ、構えていた銃をそれぞれ部屋の外へと向けた。途端、タイミングを計ったように、再び邸内の灯りが落とされ、室内外を真の暗闇が支配する。
『予備電源が破壊された』と、遠くから悲鳴のような声が告げてきた。そんな報告にセオドアがチッと舌打ちをする。ほんの一瞬生まれたその間隙に、手の中に隠し持っていた携帯をポケットにしまいながら、ジャックがリアムと総介に『今だ!!』と合図の声を掛けた。
「窓から出るよ!!」
「おう!!」
「………ッ!」
尋常でない素早さで3人は窓へと駆け寄り、先陣を引き受けた寡黙な総介を筆頭に次々と、豪奢な窓を蹴破って邸内から庭へと飛び出していった。
「………くっ!?」
こんな子供騙しに!?と、セオドアは誰の姿もない通路を睨み付けながら歯軋りしたが、プロのガードマン達は慌てふためいて薄暗い廊下を走って追いかけ始める。
セオドアは彼らと行動を共にはせず、1人、割れてしまった窓から階下を見渡した。邸内を照らす非常灯では庭まで灯りは届かず、逃げたリアムらの姿は闇に紛れて見えない。けれど彼の緑の瞳は不気味に光り、何かを見据えるようにただ一点を見詰めていた。
「……くくっ…逃がさないよ…私の蓮」
ふと、端正な顔が歪んだ様に見えた。
そうして次の瞬間、そこにセオドアの姿は無かったのである。
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🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
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