人狼

RINFAM

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「このくらい離れれば……ッ」
 2手に分かれたまま別荘から走って逃げてきた、リアムとその腕の中の蓮、そしてジャックと総介の4人は、残る2人との合流地点である岬の広場へとやって来た。
 夜空には満月近い月が浮かび、星が見え難い代わりに雲が切れて空が明るい。ずっと腕に抱き締めていた蓮を地面に下したリアムは、優しく頬を撫でながら蓮の名を呼んだ。
「蓮……蓮?」
「…………っ」
 しばらくすると意識が戻る気配がして、閉じられていた大きな青い目が開かれた。空のような明るい青を内包する瞼が数度瞬き、そして、目の前の人の顔を見付けて虚ろだった瞳がぱちりと焦点を合わせる。
「…リ……リア、ム……っ!?」
「蓮…良かった、蓮…っ」
 名前を呼ぶと同時に蓮はリアムの首に腕を回して抱き着き、リアムは小さな蓮の身体を腕の中に抱え込むよう抱きしめた。
「リアム…っ、リアム!!会いたかった、会いたかったよ、リアム!!」
「ああ。蓮、俺もだ。俺も会いたかった…俺の蓮…っ」
 まるで百年も離れていたような2人の熱い抱擁を、ばつが悪そうな顔でジャックと総介が遠目に見詰めている。それをふと、思い出したようにリアムは振り返り、照れた顔で蓮に2人を紹介した。
「蓮。ジャックと総介だ。2人とも、お前を助ける手助けをしてくれた」
「君が蓮君だね?初めまして。俺はジャック…こっちは」
「総介だ。よろしく頼む」
「…………っっ!?」
 ジャックと総介が各々帽子を取って挨拶すると、2人のその頭にあるモノを見た蓮が、驚愕の表情を浮かべてリアムを見上げる。すると、リアムは蓮を安心させるために笑みを浮かべ、簡単にここまでの経緯を彼にも教えてくれた。
「この人達も、人狼の子孫…そうか、そうなんだ」
「ああ。俺も最初は信じられなかったが…」
「……良かった…良かったね、リアム…ッ」
 滅びたと思った人狼の一族が、血を薄めながらでも、こんな極東の地で生き残っている。それは、自分のせいでリアムに血族を失わせてしまったと思い続けてきた蓮にとって、何よりも喜ばしく嬉しい事実であった。
「有難うな、蓮…さあ、一緒に帰ろう…」
「うん。リアム…リアム…ッ」
 自分の事の様に喜んで微笑む蓮を、リアムは、堪らない愛しい気持ちで抱き締め、抱き上げる。そのままキスしそうな2人を見ていたジャックと総介が、やれやれと言いたげな顔をしながら気を遣って後ろを向いた。
 そんな彼等の気遣いにリアムは『悪いな』と片目を瞑り、それから改めて蓮の小さな身体を優しく抱きしめる。
「リアム…愛してる」
「ああ、蓮…俺も愛してる」
 そっと触れるように交わされる口付け。
 これでまた、2人で居られる。そう思った、次の瞬間だった。

「ぐあっ!!!??」
「リアム!?…リアム!!!」
 突然の悲鳴と叫びを聞いて、ジャックと総介が慌てて振り向く。その視線の先に、信じられない光景があった。
「えっ、えっ!?」
「そ、そんな馬鹿な!?」
 生粋の人狼であるリアムの長躯が、地面から僅かに宙へ浮くよう吊り上げられている。彼の白く太い首にかかるのは、人間の華奢な白い手。だが、信じられない事にそんな脆い人の手を、人ならざる力を有するリアムが振り解けないでいた。
「リアム…リアムッ!!」
「危ねえ、蓮、離れろッ!?」
 必死の形相でリアムの身体に取り縋ろうとする蓮を、後ろから総介が腕を伸ばして腰を掴み強引に引き下がらせる。そのまま総介とジャックは、小さな蓮を背に庇って後退した。
「アイツはいったい……!?」
「まさか…まさか!?」
 彼等が驚愕の目で見やり、粟立つ戦慄と共に警戒する目の前には、信じられないことに端正な顔でゆったりと微笑み、リアムを片手に掴んだセオドアが立っていたのである。
「ぐっ、くっ!!アンタ…まさか…!?」
「さて…今度こそ蓮を返して頂こうか…?」
 喉を潰されそうになりながらリアムは、苦痛の表情でセオドアの顔を見下ろした。そんな彼を嘲笑う様に金髪碧眼の優男は口の端を吊りあげると、メキメキと軋む音を立てて本性を現し始めた。
「そ、そんな…!!」
「リアム…っ!?」
 爆発するように一回り大きさを増す体躯。金色の毛並みがざわざわとそれを覆い尽くした。一瞬前まで人の気配しかなかったそこに、覚えのある人狼の気配と匂いが放たれる。口角が割れて牙をむき出し、手足の先から凶悪な獣の爪が飛び出した。
 そうして、身体を包む衣服が跡形もなく千切れ落ちた大地の上に、金の毛並みを持つ1匹の獣が立っていたのである。
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