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「アンタ…人狼、だったの、か!?」
ギリギリと物凄い力で絞め上げられながら、リアムは目の前の金の人狼を睨み据える。苦しげに絞り出される声にも、顔に浮かんだ苦悶の表情の中にも、信じられないと言いたげな驚きが滲み出ていた。
「ウソだろ…おいっ!?」
もちろん驚いていたのは、リアムだけではない。混血で血が薄れているとはいえ遠い先祖から、特別な感覚と嗅覚を受け継いだジャックや総介らも同じであったのだ。
「おい、ジャック、お前解ったか!?」
「いいや…俺も、そんな様子は…全然…!!」
この場に居合わせた全員が、目の前の事実に動揺し驚愕していた。それもまた無理からぬ話であろう。これまでに何度も顔を合わせ、また、ほんのつい先刻も間近で相対したというのに、誰一人として彼からそんな気配も、一族に通じる隠し切れぬ匂いすらも感じ取れなかったのだ。
『生憎…君達より長生きしているものでね…気配を完全に断つなど、私にしてみれば簡単な事なんだよ…』
くくくっと笑って、凝固する彼らを嘲笑い、少しだけくぐもった声で金狼が言葉を発する。緑の瞳は順にジャックらの顔を巡ると、彼らの後ろに庇われ、隠された蓮の姿へと鋭い視線を注いだ
『さあ。蓮、おいで。この男を、このまま殺されたくないのであれば、ね・・・』
招くように獣の長い爪をもつ、人のそれに似たものが蓮に差し伸べられる。愛する番の苦しむ姿を目にして、蓮は無意識に足を前へ踏み出そうとした。
「………蓮ッ…来るな!!こんな…奴の、脅しに…ぐう!!??」
「リッ、リアム!!」
満足に動かせない顔を斜めに向け、リアムが蓮の動きを牽制した。途端に、ピクリと震えた蓮の足がその場に止まる。ちっと舌打ちした金狼セオドアは、さらにリアムを絞める腕に力を込め、彼の喉を押し潰そうとする。
『邪魔しないで欲しいな…私は君を殺したい訳じゃない。君が蓮を私にくれるなら、君らの命は助けようと言ってるんだ…』
「そ、んなこと…誰が承知するかよ…ッ、く・・・そっ、…クソ野郎がっ…!」
自身も人狼化できればまだしもこの力に対抗できただろうが、不意を突かれ呼吸を奪われてはなかなかそうもいけない。ともすれば頸動脈を突き破りそうな力に、動かせる両手を使って抵抗するのが精一杯で、リアムは人狼の本性を現す事さえ出来ずにいた。
「く…………ッッ」
せめてほんの一瞬の隙でもあれば。酸素不足で気が遠くなりかけながら、リアムが頭の隅でそう考えた、その時、
「おうりゃあああああ!!!」
「うわあ!!バッキャロー!!シン、てんめええ!!」
セオドアの背後の茂みからヤケクソじみた咆哮が轟き、ディランの襟首を掴んで振り回すシンが飛び出してきたのだ。
『なっ……!?』
「いっけ―!!ディラン爆弾!!!どっかーーーーん!!!」
「ぎゃあああああ!?」
密かに近付いてくる2人の事は、セオドアもとっくに気付いてはいた。しかし、よもやこの様な方法で攻撃されるとは思いもしていなかったのだろう。飛ばされてきたディランの身体を、それでも軽く躱しこそしたが、そこにほんの一瞬の隙が生まれた。
『くっ…まさかこんな方法で来るとは…ハッ!?』
「うおおおおおおっ!!」
『くうっ!!』
そんな万秒の一の隙を見逃す事無く、今度は総介が前から彼の身体に渾身の体当たりを喰らわせたのだ。さすがの金狼もこれは躱し切れず、よろけて怯んだセオドアの手の中から、リアムは素早く脱出し瞬時に人狼の姿へと変身した。
『やれやれ…まったく…』
『……セオドア…ッ』
背後にはシン、左右に総介と誤爆ダメージを負ったディラン、そして正面に銀の体躯を露わにした人狼のリアム。四人に囲まれながらも、金狼セオドアの余裕の態度は変わらなかった。
「……リアム、気を付けて…っ」
一定の距離を置いて対峙する五人の姿を、ジャックが背後に蓮を庇いながら睨み据える。
数こそ確かに味方の有利だが、金狼の体躯は彼らの誰をも凌ぎ、そこから溢れ出る力もおそらくはリアムですら適わないのではないかと思われた。嫌味すら感じさせるセオドアの態度からも、その圧倒的な力の差を感じ取れる。
『……ああ、解ってるぜ…っっ!!』
戦況の不利を最も強く感じていたのは、他ならぬリアムであった。だが、彼は負ける訳にも、引く訳にもいかない。何故ならこれは、己が愛する者を守るための戦いなのだから。
『ジャック…皆、蓮を頼む…!!』
「リアム…!?」
くぐもったリアムの言葉が意味する所へ気付く前に、
「リアム……リアム!?」
全身金に輝く美しい人狼と、銀の体躯を持つ人狼リアムの姿は、大きな葉擦れの音を残して目の前から消え失せていたのであった。
ギリギリと物凄い力で絞め上げられながら、リアムは目の前の金の人狼を睨み据える。苦しげに絞り出される声にも、顔に浮かんだ苦悶の表情の中にも、信じられないと言いたげな驚きが滲み出ていた。
「ウソだろ…おいっ!?」
もちろん驚いていたのは、リアムだけではない。混血で血が薄れているとはいえ遠い先祖から、特別な感覚と嗅覚を受け継いだジャックや総介らも同じであったのだ。
「おい、ジャック、お前解ったか!?」
「いいや…俺も、そんな様子は…全然…!!」
この場に居合わせた全員が、目の前の事実に動揺し驚愕していた。それもまた無理からぬ話であろう。これまでに何度も顔を合わせ、また、ほんのつい先刻も間近で相対したというのに、誰一人として彼からそんな気配も、一族に通じる隠し切れぬ匂いすらも感じ取れなかったのだ。
『生憎…君達より長生きしているものでね…気配を完全に断つなど、私にしてみれば簡単な事なんだよ…』
くくくっと笑って、凝固する彼らを嘲笑い、少しだけくぐもった声で金狼が言葉を発する。緑の瞳は順にジャックらの顔を巡ると、彼らの後ろに庇われ、隠された蓮の姿へと鋭い視線を注いだ
『さあ。蓮、おいで。この男を、このまま殺されたくないのであれば、ね・・・』
招くように獣の長い爪をもつ、人のそれに似たものが蓮に差し伸べられる。愛する番の苦しむ姿を目にして、蓮は無意識に足を前へ踏み出そうとした。
「………蓮ッ…来るな!!こんな…奴の、脅しに…ぐう!!??」
「リッ、リアム!!」
満足に動かせない顔を斜めに向け、リアムが蓮の動きを牽制した。途端に、ピクリと震えた蓮の足がその場に止まる。ちっと舌打ちした金狼セオドアは、さらにリアムを絞める腕に力を込め、彼の喉を押し潰そうとする。
『邪魔しないで欲しいな…私は君を殺したい訳じゃない。君が蓮を私にくれるなら、君らの命は助けようと言ってるんだ…』
「そ、んなこと…誰が承知するかよ…ッ、く・・・そっ、…クソ野郎がっ…!」
自身も人狼化できればまだしもこの力に対抗できただろうが、不意を突かれ呼吸を奪われてはなかなかそうもいけない。ともすれば頸動脈を突き破りそうな力に、動かせる両手を使って抵抗するのが精一杯で、リアムは人狼の本性を現す事さえ出来ずにいた。
「く…………ッッ」
せめてほんの一瞬の隙でもあれば。酸素不足で気が遠くなりかけながら、リアムが頭の隅でそう考えた、その時、
「おうりゃあああああ!!!」
「うわあ!!バッキャロー!!シン、てんめええ!!」
セオドアの背後の茂みからヤケクソじみた咆哮が轟き、ディランの襟首を掴んで振り回すシンが飛び出してきたのだ。
『なっ……!?』
「いっけ―!!ディラン爆弾!!!どっかーーーーん!!!」
「ぎゃあああああ!?」
密かに近付いてくる2人の事は、セオドアもとっくに気付いてはいた。しかし、よもやこの様な方法で攻撃されるとは思いもしていなかったのだろう。飛ばされてきたディランの身体を、それでも軽く躱しこそしたが、そこにほんの一瞬の隙が生まれた。
『くっ…まさかこんな方法で来るとは…ハッ!?』
「うおおおおおおっ!!」
『くうっ!!』
そんな万秒の一の隙を見逃す事無く、今度は総介が前から彼の身体に渾身の体当たりを喰らわせたのだ。さすがの金狼もこれは躱し切れず、よろけて怯んだセオドアの手の中から、リアムは素早く脱出し瞬時に人狼の姿へと変身した。
『やれやれ…まったく…』
『……セオドア…ッ』
背後にはシン、左右に総介と誤爆ダメージを負ったディラン、そして正面に銀の体躯を露わにした人狼のリアム。四人に囲まれながらも、金狼セオドアの余裕の態度は変わらなかった。
「……リアム、気を付けて…っ」
一定の距離を置いて対峙する五人の姿を、ジャックが背後に蓮を庇いながら睨み据える。
数こそ確かに味方の有利だが、金狼の体躯は彼らの誰をも凌ぎ、そこから溢れ出る力もおそらくはリアムですら適わないのではないかと思われた。嫌味すら感じさせるセオドアの態度からも、その圧倒的な力の差を感じ取れる。
『……ああ、解ってるぜ…っっ!!』
戦況の不利を最も強く感じていたのは、他ならぬリアムであった。だが、彼は負ける訳にも、引く訳にもいかない。何故ならこれは、己が愛する者を守るための戦いなのだから。
『ジャック…皆、蓮を頼む…!!』
「リアム…!?」
くぐもったリアムの言葉が意味する所へ気付く前に、
「リアム……リアム!?」
全身金に輝く美しい人狼と、銀の体躯を持つ人狼リアムの姿は、大きな葉擦れの音を残して目の前から消え失せていたのであった。
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