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ふたりの“リア・ウォールマン”③
しおりを挟むリアは火傷痕を震える指でなぞった。罪の証であると懺悔するように。
今にも泣き出しそうな顔をして、それでも泣かなかった。
リアムと同じようにリアも泣けないのだとこの時になって初めて気づいた。
リアムがふたりの命を背負っていたように、リアも押し潰されそうな罪悪感をひとりで抱えていたのだ。
ならばその荷を下ろしてあげたかった。リアムがそうしてもらったように、もう良いのだと、心を軽くしてあげたかった。
「お姉さまのせいなんかじゃありません。お母さんと離れ離れになって辛かった。お母さんが殺されちゃうんじゃないかって怖かった。侯爵家での生活は苦しかった。だけど、その先でお姉さまに出会えたんです」
言いながら自分で泣きそうになった。アンナにもらった言葉が今、実感を伴ってリアムの心を満たす。
「こんな、こんなへんてこな人生もお姉さまに、大切な人たちに出会うために用意されていた道なら良かったって思えるんです。こうやってお母さんに抱きしめられて、お姉さまもいて、僕は、僕はこんなに幸せです」
握られていた手を今度はリアムが握りしめた。冷え切ったその手を温められるように。
「……でも、わたくしは」
「リア様。僭越ながら私からも」
そう言って母はリアムから少し離れるとリアと向かい合った。目は赤く充血し、まぶたも腫れている。けれどその瞳には強い力が宿っていた。
「あなたは何も悪くありません。子供だったあなたが恐ろしい未来から逃げ出して何が悪いのですか。私は我が子を守れなかった不甲斐ない母親です。けれど私はこんなにも成長したこの子と再会することが出来ました。リア様が今日までこの子を守ってくれたのでしょう? 感謝こそすれどうしてあなたを恨めましょうか。本当にありがとうございます」
母は深々と頭を下げた。
「そんな、違います! 頭を上げてください。私は、ただ……」
「お姉さまは “美しくて賢いリアムの最強なお姉さま” です。だから、いつもみたいに不敵に笑っていてください」
たくさん勉強したはずなのに、姉に伝える言葉は拙く、もどかしい。それでもこれがリアムの精一杯だ。
伝わればいい。世界で一番かっこいいリアムの大好きな姉なのだと。
「……私っていつも不敵に笑っていたの?」
「え!? あっ! えっと、悪い意味じゃなくて、とっても強くて素敵な笑みっていうか」
しどろもどろに言い訳するリアムに、小さな笑い声が溢れ出る。
「ふふ。そうね、私らしくないわよね。……私ね、本当はすごく嬉しかったのよ。こんなに可愛い弟が出来て、すごく、すごく嬉しかったの」
リアは笑っていた。リアムが大好きなリアの笑顔。二度と消えない火傷痕に涙が伝い落ちていく。
「僕もです。僕も……!」
泣いて泣いてからからになったと思った涙が、リアムの瞳からも溢れ出した。
「もう。どうしてリアムが泣くのよ」
握っていた手がするりと抜けて、リアムの背に回された。初めてもらったリアからの抱擁に涙が止まるはずもなく。
「お姉さまとお母さんがいる。本当に? 夢じゃない? もうどこにも行かない?」
「当たり前でしょう。今度こそ、絶対に離してなるものですか。誰があなた達を連れ去ろうとしても私が守るわ」
母がリアとリアムをまとめて両腕で抱きしめた。
母がいる。姉がいる。手の届く距離に大切な人が戻ってきた。もう二度と離れ離れにならないように、奪われないように強くなると、確かに感じるふたつの温もりにリアムは誓った。
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