逆ハーエンドを迎えたその後で

橘アカシ

文字の大きさ
15 / 15

ふたりの“リア・ウォールマン”③

しおりを挟む



 リアは火傷痕を震える指でなぞった。罪の証であると懺悔するように。
 今にも泣き出しそうな顔をして、それでも泣かなかった。

 リアムと同じようにリアも泣けないのだとこの時になって初めて気づいた。

 リアムがふたりの命を背負っていたように、リアも押し潰されそうな罪悪感をひとりで抱えていたのだ。

 ならばその荷を下ろしてあげたかった。リアムがそうしてもらったように、もう良いのだと、心を軽くしてあげたかった。

「お姉さまのせいなんかじゃありません。お母さんと離れ離れになって辛かった。お母さんが殺されちゃうんじゃないかって怖かった。侯爵家での生活は苦しかった。だけど、その先でお姉さまに出会えたんです」

 言いながら自分で泣きそうになった。アンナにもらった言葉が今、実感を伴ってリアムの心を満たす。

「こんな、こんなへんてこな人生もお姉さまに、大切な人たちに出会うために用意されていた道なら良かったって思えるんです。こうやってお母さんに抱きしめられて、お姉さまもいて、僕は、僕はこんなに幸せです」

 握られていた手を今度はリアムが握りしめた。冷え切ったその手を温められるように。

「……でも、わたくしは」

「リア様。僭越ながら私からも」

 そう言って母はリアムから少し離れるとリアと向かい合った。目は赤く充血し、まぶたも腫れている。けれどその瞳には強い力が宿っていた。

「あなたは何も悪くありません。子供だったあなたが恐ろしい未来から逃げ出して何が悪いのですか。私は我が子を守れなかった不甲斐ない母親です。けれど私はこんなにも成長したこの子と再会することが出来ました。リア様が今日までこの子を守ってくれたのでしょう? 感謝こそすれどうしてあなたを恨めましょうか。本当にありがとうございます」

 母は深々と頭を下げた。

「そんな、違います! 頭を上げてください。私は、ただ……」

「お姉さまは “美しくて賢いリアムの最強なお姉さま” です。だから、いつもみたいに不敵に笑っていてください」

 たくさん勉強したはずなのに、姉に伝える言葉は拙く、もどかしい。それでもこれがリアムの精一杯だ。
 伝わればいい。世界で一番かっこいいリアムの大好きな姉なのだと。

「……私っていつも不敵に笑っていたの?」

「え!? あっ! えっと、悪い意味じゃなくて、とっても強くて素敵な笑みっていうか」

 しどろもどろに言い訳するリアムに、小さな笑い声が溢れ出る。

「ふふ。そうね、私らしくないわよね。……私ね、本当はすごく嬉しかったのよ。こんなに可愛い弟が出来て、すごく、すごく嬉しかったの」

 リアは笑っていた。リアムが大好きなリアの笑顔。二度と消えない火傷痕に涙が伝い落ちていく。

「僕もです。僕も……!」

 泣いて泣いてからからになったと思った涙が、リアムの瞳からも溢れ出した。

「もう。どうしてリアムが泣くのよ」

 握っていた手がするりと抜けて、リアムの背に回された。初めてもらったリアからの抱擁に涙が止まるはずもなく。

「お姉さまとお母さんがいる。本当に? 夢じゃない? もうどこにも行かない?」

「当たり前でしょう。今度こそ、絶対に離してなるものですか。誰があなた達を連れ去ろうとしても私が守るわ」

 母がリアとリアムをまとめて両腕で抱きしめた。

 母がいる。姉がいる。手の届く距離に大切な人が戻ってきた。もう二度と離れ離れにならないように、奪われないように強くなると、確かに感じるふたつの温もりにリアムは誓った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?

無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。 「いいんですか?その態度」

悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。 なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。 超ご都合主義のハッピーエンド。 誰も不幸にならない大団円です。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

ヒロインはモブの父親を攻略したみたいですけど認められません。

haru.
恋愛
「貴様との婚約は破棄だ!!!私はここにいる愛するルーチェと婚約を結ぶ!」 怒鳴り声を撒き散らす王子様や側近達、無表情でそれを見つめる婚約者の令嬢そして、王子様の側には涙目の令嬢。 これは王家の主催の夜会での騒動・・・ 周囲の者達は何が起きているのか、わからずに行く末を見守る・・・そんな中、夜会の会場の隅で・・・ (うわぁ~、これが乙女ゲームのクライマックス?!)と浮かれている令嬢がいた。 「違いますっ!!!! 私には他に愛する人がいます。王子様とは婚約は出来ません!」 今まで涙目で王子様の隣で大人しくしていた令嬢が突然叫び声をあげて、王子様から離れた。 会場にいた全員が、(今さら何を言ってるんだ、こいつ・・・)と思っていたその時、 「殿下っ!!! 今の言葉は誠でございますっ!ルーチェは私と婚姻いたします。どうかお許しください!」 会場にいた者達を掻き分けながら、やって来た男が叫び、令嬢を抱き締めた! (何か凄い展開になってきたな~)と眺めていたら・・・ (ん?・・・何か見覚えのある顔・・・あ、あれ?うそでしょ・・・な、なんでそこにいるの?お父様ぁぁぁぁ。) これは乙女ゲームから誰も気づかない内にヒロインがフェードアウトしていて、自分の父親が攻略されてしまった令嬢(モブ)の物語である。 (・・・・・・えっ。自分の父親が娘と同い年の女の子を娶るの?・・・え?え?ごめんなさい。悪いけど・・・本当申し訳ないけど・・・認められるかぁぁぁぁ!) 本編・ー番外編ーヴィオレット*隣国編*共に完結致しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...