最後の晩餐に極上を

橘アカシ

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最後の晩餐に極上を

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 人間も吸血鬼も一緒だ。
 私から大事なものを奪っていく。
 吸血鬼に両親を殺された。引き取られた先で叔父と叔母に弟を殺された。
 理由なんてどうでもいい。私の大事な人たちを殺したと言うことに変わりはないのだから。
 私だけ置いていった父も母も弟もみんなみんな大嫌いだ。
 
 同じように別れを伴うのならば、私だけがいなくなれば良かったのに。こんなくそったれな世界に私だけ生き残ったって意味ないじゃないか。
 いらない。こんな命いらない。
 だから、どうか神様。命に価値があると言うのなら。


 私の命をあげるから、だからお願いです。どうか、彼らを……。




 祈りと共に自身の心臓の上にナイフを押し当て、ぐっと力を込めようとしたその時。

「ああ~!!待って! ちょっと待って!! もったいない!」

 突然上がった悲鳴のような声に驚いてナイフが手から滑り落ちた。
 入り口に男が立っていた。長身痩躯のこれといって特徴のない顔つきの男。けれど、私には分かった。彼は吸血鬼だ。

 「この部屋には吸血鬼よけの札が貼ってあったはずだ。どうやって入った」

 落としてしまったナイフを素早く拾って、男に向ける。けれど男は気にした様子もなく近づいてきた。そして、あっという間にナイフを奪い取り、部屋の隅へ投げてしまった。

「そんなもったいないことしちゃだめですよ。貴重な半吸血鬼ダンピールの血を無為に流すなんてそれこそ神への冒涜です」

「お前らが神を語るな!」

「人間も吸血鬼も一緒ですよ。血に飢えた哀れな生き物です。僕も。もちろんあなたもね」

 男は凡庸な顔ににたりと笑みを浮かべた。それだけで部屋の温度が何度も下がった心地がした。
 
「ねえ。あなたは自分がいらないのでしょう?だったら僕にください。その代わりあなたの願いをなんだって叶えて差し上げます」

「お前が神の代わりに私の願いを叶えてくれるっていうのか」

 私は鼻で笑う。叶えられるわけがない。私の願いは何よりも陳腐で、くだらない。けれど、きっと神にだって叶えられないのだから。

「叶えます。僕ならきっと叶えられます。いいえ、僕にしか叶えることができないでしょう。僕、こう見えて、神様と同じくらい生きてるんですよ?だから、この世界には飽き飽きしてたんです。ごはんも美味しくないし。でも、こんなところで極上の餌に出会えた。最後の晩餐を最高の演出で食べるために、ちょっとくらい頑張ったっておかしくないでしょう?」

 男の瞳に偽りはなかった。そこにあるのは真実だけ。彼は嘘をつく必要がない存在なのだと本能が感じ取っていた。
 本当に叶うのか?これは悪魔の囁きだ。けれど、その囁きは甘美で、誘惑に打ち勝つことは出来ない。どうせ捨てようと思っていた命で願いが叶うのならば、それほど安いものはなかった。

「叶えられるものなら叶えてみてよ。私が望むのは……」

「ああ! なんて素晴らしいんでしょう! あなたをいただけるのでしたら、神だって殺せそうだ! どうしますか? どちらを先に滅ぼしましょう? それともまとめて皆殺しにしますか? じわじわ苦しめながら殺しますか? あなたの願いなら完璧に叶えて差し上げます! さあ、どうしますか?」

 男は愛おしむように私の首筋を撫で上げた。そのまま、頬に手を添えて、私の瞳を覗き込む。きっとその瞳には何もかも映っているのだろう。

 だから、私は心のままに願いを口にした。

「人間も吸血鬼もみんな殺して。私の前から世界を消して」

 男はその茶色の瞳に赤を滲ませた。私の首筋に顔を埋め、息を吐きかける。
 見た目は普通なのに男の肌は凍えるほどに冷たい。

 なのに、頬を伝って首筋を濡らす雫はどうしてこんなに温かいのだろう。

 男はその雫をすべて舐めとるととろけるような笑みを浮かべて言った。

「すべてはあなたの意のままに」



 
 
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