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3日目
第13節 秘密の隠れ家
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廊下にいた剣道部員たちを再び多目的室に呼び出した。
「皆さん、ありがとうございました。最後に何か伝えたいことがあれば受け付けますが……」
川崎会長が改めて全員の前でお礼を述べる。
「あの、そういえば思い出したんですけど、もしかしたら例の場所に何か手掛かりがあるんじゃないかなって」
上尾がおずおずと発言する。
「ああ。確かに」
茅ヶ崎が同意する。
「えっと、『例の場所』っていうのは……?」
「我々剣道部員には、部室が剣道場になっているんですが、ほかにもう一つ隠れ家があるんです」
斎藤の問いに対して、茅ヶ崎が答えてくれた。
「ほう。それは興味深いですね。是非一度案内してもらいたいのですがよろしいでしょうか」
部長が興味を示した。川崎会長との口約束で喋ってはいけないという条件だったが大丈夫なのだろうか。
「高崎くん。約束したはずだが?」
「聴取は終わりましたよね。もうそれは無効では?」
「あのー、全然構いませんよ。ねえ、みんな」
部長と会長の殺伐とした雰囲気が漂う中、先程の問いの答えが聞こえてきた。
それと呼応するように、「部長。俺も行きます」「俺も」「俺はパス」などの言葉が次々と発せられる。
「じゃあ、朱莉も行くー」
「俺も」
「ただ、あの道は少し荒れていますから、靴が汚れたくない方はあまり行かないほうがよろしいかと」
「では、行く方は昇降口に、行かない方はここで解散とします。ご協力ありがとうございました」
川崎会長のこの言葉で、一回解散した。結局、行くメンバーは佐渡と茅ヶ崎、堺、鶴岡、会長、部長と俺荒川の6人となった。
「あれ。皆さん同じ靴なんですね」
部長が剣道部員の靴を見て言う。見ると、全員ある企業のトレードマークの赤いロゴが入った白い靴を履いている。まあ、全員汚れていて白では無くなっているが。
「ええ。一体感を保つためにみんなでお揃いの靴を買ったんですよ。この柄にしたのは、藤沢……で……」
藤沢のことを思い出したのか、目には涙が浮んでいる。
「すいません。最近涙脆くて……」
「いえ、こちらこそ辛いことを思い出させてしまい申し訳ない」
「さあ、皆さん行きましょう」
堺が急かす。
隠れ家部室は、広大なグラウンドの奥にある整備されていない場所にあった。生い茂っている草木の中に無機質な建物がポツンと立っている。2年間通っているが、うちの学校にこんなところがあるなんて知らなかった。
「へえ。こんなところが……。会長は知ってました?」
部長が感嘆の声を漏らす。
「いや、俺も初めて見た」
「あっ。会長。これは秘密にしてくれませんか。ここは隠れ家としても使えるし、何より男のロマンって感じで、部員にとって無くてはならない場所なんです」
茅ヶ崎が会長を説得している。
「ああ、わかったわかった」
煩わしそうに了承する。
扉はスライド式のドアになっていた。佐渡はつっぱり棒の役割をしている太い枝をどかして、ドアを開けた。
「おお」
中にはソファや扇風機、部員用のロッカーがあった。
「流石に電気は……通ってないか」
「ええ。まあ、そこが少し不便な点なのですが、午後は窓からの光だけでも充分な明るさになので、そんなに気にはしません。今は、少し薄暗いですが」
「藤沢くんのロッカーはどちらでしょう」
「ああ。ここです。警察は、学校のほうのロッカーしか回収しなかったようなので、中身はそのままです」
左角のロッカーを指差しながら、佐渡は説明する。
部長がロッカーを勢いよく開けた。中には、紙が乱雑に置いてあった。
「……まるで荒らされたようだな」
後ろで見ていた会長が呟く。
「なるほど。犯人は先回りして、自分の証拠がないかを探したんでしょう」
部長が冷静に分析する。
「ここ数日のうちに、ここに来た方はいらっしゃいますか」
部長の質問に対し、返答はなかった。皆、この惨状を初めて目にするのだろう。
紙をすべてだし、手分けして手掛かりになりそうなものを探した。すべてに目を通したが、特にこれといったものはなかった。
「……特に何もないようですね。部長、帰りますか?」
私が尋ねた。時刻は午後7時を回ろうとしており、辺りは薄暗くなり始めていた。
「そうだな……。皆、今日は遅くまでありがとう。解散にしよう」
部長の言葉で、一同は隠れ家を後にした。外はすっかり暗くなっており、足元がおぼつかない。生い茂った草木をかき分けながら、グラウンドへと続く細い道を進む。
「ん? これは……?」
ふと、足元に何か小さなものが落ちているのに気づいた。屈んで拾い上げてみると、それは紙の切れ端だった。雨に濡れて少し滲んでいたが、明らかに何かを燃やしたような黒い焦げ跡があり、文字の一部が辛うじて読み取れた。
「どうした、高崎?」
会長が立ち止まって声をかけてきた。
「いえ、なんでも……いや、これを見てください」
私は拾い上げた紙切れを皆に見せた。
「燃やされたものか……。『……に殺され……』と書かれているな」
部長が懐中電灯で紙を照らしながら、書かれている文字を読み上げる。
「藤沢くんが殺害される前に書いたものでしょうか。犯人が証拠隠滅のために燃やそうとしたが、完全には燃えきらず、風か何かでここまで飛ばされてきた…というところでしょうか」
松戸が冷静に推測する。
「その可能性は高そうだ。荒川、写真を撮っておいてくれ」
部長に指示され、スマホを取り出して写真を撮った。
小さな紙切れに記された断片的な文字。それが藤沢くんの最後のメッセージだとすれば、犯人特定に繋がる重要な手がかりになるかもしれない。一同は、その小さな証拠を前に、しばし言葉を失っていた。夜の闇と、生い茂る草木の匂いが、現場の重苦しい雰囲気を一層濃くする。虫の音が、やけに大きく聞こえる。
「あのー。暗くなってきましたし、そろそろ帰りませんか?」
鶴岡が提案した。スマホで時間を確認すると、7時50分を示していた。辺りはすっかり暗くなっている。
「そうですね。皆さん、今日はご協力ありがとうございました」
部長の言葉で、この場は解散となった。
「皆さん、ありがとうございました。最後に何か伝えたいことがあれば受け付けますが……」
川崎会長が改めて全員の前でお礼を述べる。
「あの、そういえば思い出したんですけど、もしかしたら例の場所に何か手掛かりがあるんじゃないかなって」
上尾がおずおずと発言する。
「ああ。確かに」
茅ヶ崎が同意する。
「えっと、『例の場所』っていうのは……?」
「我々剣道部員には、部室が剣道場になっているんですが、ほかにもう一つ隠れ家があるんです」
斎藤の問いに対して、茅ヶ崎が答えてくれた。
「ほう。それは興味深いですね。是非一度案内してもらいたいのですがよろしいでしょうか」
部長が興味を示した。川崎会長との口約束で喋ってはいけないという条件だったが大丈夫なのだろうか。
「高崎くん。約束したはずだが?」
「聴取は終わりましたよね。もうそれは無効では?」
「あのー、全然構いませんよ。ねえ、みんな」
部長と会長の殺伐とした雰囲気が漂う中、先程の問いの答えが聞こえてきた。
それと呼応するように、「部長。俺も行きます」「俺も」「俺はパス」などの言葉が次々と発せられる。
「じゃあ、朱莉も行くー」
「俺も」
「ただ、あの道は少し荒れていますから、靴が汚れたくない方はあまり行かないほうがよろしいかと」
「では、行く方は昇降口に、行かない方はここで解散とします。ご協力ありがとうございました」
川崎会長のこの言葉で、一回解散した。結局、行くメンバーは佐渡と茅ヶ崎、堺、鶴岡、会長、部長と俺荒川の6人となった。
「あれ。皆さん同じ靴なんですね」
部長が剣道部員の靴を見て言う。見ると、全員ある企業のトレードマークの赤いロゴが入った白い靴を履いている。まあ、全員汚れていて白では無くなっているが。
「ええ。一体感を保つためにみんなでお揃いの靴を買ったんですよ。この柄にしたのは、藤沢……で……」
藤沢のことを思い出したのか、目には涙が浮んでいる。
「すいません。最近涙脆くて……」
「いえ、こちらこそ辛いことを思い出させてしまい申し訳ない」
「さあ、皆さん行きましょう」
堺が急かす。
隠れ家部室は、広大なグラウンドの奥にある整備されていない場所にあった。生い茂っている草木の中に無機質な建物がポツンと立っている。2年間通っているが、うちの学校にこんなところがあるなんて知らなかった。
「へえ。こんなところが……。会長は知ってました?」
部長が感嘆の声を漏らす。
「いや、俺も初めて見た」
「あっ。会長。これは秘密にしてくれませんか。ここは隠れ家としても使えるし、何より男のロマンって感じで、部員にとって無くてはならない場所なんです」
茅ヶ崎が会長を説得している。
「ああ、わかったわかった」
煩わしそうに了承する。
扉はスライド式のドアになっていた。佐渡はつっぱり棒の役割をしている太い枝をどかして、ドアを開けた。
「おお」
中にはソファや扇風機、部員用のロッカーがあった。
「流石に電気は……通ってないか」
「ええ。まあ、そこが少し不便な点なのですが、午後は窓からの光だけでも充分な明るさになので、そんなに気にはしません。今は、少し薄暗いですが」
「藤沢くんのロッカーはどちらでしょう」
「ああ。ここです。警察は、学校のほうのロッカーしか回収しなかったようなので、中身はそのままです」
左角のロッカーを指差しながら、佐渡は説明する。
部長がロッカーを勢いよく開けた。中には、紙が乱雑に置いてあった。
「……まるで荒らされたようだな」
後ろで見ていた会長が呟く。
「なるほど。犯人は先回りして、自分の証拠がないかを探したんでしょう」
部長が冷静に分析する。
「ここ数日のうちに、ここに来た方はいらっしゃいますか」
部長の質問に対し、返答はなかった。皆、この惨状を初めて目にするのだろう。
紙をすべてだし、手分けして手掛かりになりそうなものを探した。すべてに目を通したが、特にこれといったものはなかった。
「……特に何もないようですね。部長、帰りますか?」
私が尋ねた。時刻は午後7時を回ろうとしており、辺りは薄暗くなり始めていた。
「そうだな……。皆、今日は遅くまでありがとう。解散にしよう」
部長の言葉で、一同は隠れ家を後にした。外はすっかり暗くなっており、足元がおぼつかない。生い茂った草木をかき分けながら、グラウンドへと続く細い道を進む。
「ん? これは……?」
ふと、足元に何か小さなものが落ちているのに気づいた。屈んで拾い上げてみると、それは紙の切れ端だった。雨に濡れて少し滲んでいたが、明らかに何かを燃やしたような黒い焦げ跡があり、文字の一部が辛うじて読み取れた。
「どうした、高崎?」
会長が立ち止まって声をかけてきた。
「いえ、なんでも……いや、これを見てください」
私は拾い上げた紙切れを皆に見せた。
「燃やされたものか……。『……に殺され……』と書かれているな」
部長が懐中電灯で紙を照らしながら、書かれている文字を読み上げる。
「藤沢くんが殺害される前に書いたものでしょうか。犯人が証拠隠滅のために燃やそうとしたが、完全には燃えきらず、風か何かでここまで飛ばされてきた…というところでしょうか」
松戸が冷静に推測する。
「その可能性は高そうだ。荒川、写真を撮っておいてくれ」
部長に指示され、スマホを取り出して写真を撮った。
小さな紙切れに記された断片的な文字。それが藤沢くんの最後のメッセージだとすれば、犯人特定に繋がる重要な手がかりになるかもしれない。一同は、その小さな証拠を前に、しばし言葉を失っていた。夜の闇と、生い茂る草木の匂いが、現場の重苦しい雰囲気を一層濃くする。虫の音が、やけに大きく聞こえる。
「あのー。暗くなってきましたし、そろそろ帰りませんか?」
鶴岡が提案した。スマホで時間を確認すると、7時50分を示していた。辺りはすっかり暗くなっている。
「そうですね。皆さん、今日はご協力ありがとうございました」
部長の言葉で、この場は解散となった。
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