【完結】武道館の殺人 〜とある新聞部の事件簿〜

瑞光みどり

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3日目

幕間 静寂で喧騒な夜

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 日課の緑公園の隣にある緑の丘霊園へ立ち寄った後、緑公園駅に向かった。改札を通ると、いかにも夏の夜を彷彿とさせるようなセミの音がより強く鳴り響いていた。ここ緑公園駅は、嵯峨ノ原高生にとっての最寄り駅だ。その名の通り、東口には緑公園が広がっており、昼間の利用者が多い。ただ、通勤帰宅時間になるとこの先の緑元町駅で乗り換えをする利用客が多く、満員電車と化してしまう。緑が多い公園というだけあって、公園から聞こえてくるセミの数も段違いに多い。昔は鬱陶しかったが、今では夏の風物詩として受け入れられている。
 時刻は夜8時半。今日は早めに帰れそうだ。剣道部員の証言が聞けたことは大きい。真相に一歩ずつ近づいているような気がしている。
 ベンチに腰を下ろし、ぼんやりと線路の先を見つめていると、不意に明るい声が聞こえた。
「あれ? 奇遇ですね、高崎先輩」
 見上げると、そこには制服姿の斎藤朱莉が立っていた。肩にかかったスクールバッグからは、可愛らしいクマのマスコットが顔を覗かせている。いつものように、屈託のない笑顔だ。
「やあ、斎藤さん。生徒会の仕事は終わったのかい?」
「はい。事務作業もちょー大変なんですよ。高崎先輩こそ、新聞部の活動帰りですか? お疲れ様です!」
 斎藤は、こてん、と小首を傾げながらそう言うと、私の隣に腰を下ろした。
「ああ、まあな。今日は少し早めに解散したんだ」
「そっかぁ。新聞部も大変ですもんね」
 二人の間に沈黙が流れた。セミの音が大きく聞こえるような気がした。少し気まずい感じがする。
「そういえば、高崎先輩は推理小説を読まれますか?」
 斎藤は向かい側のホームを向きながら尋ねた。いつにもなく、神妙な顔をしている。
「……まあ、たまに読む程度かな」
「わたし、推理小説読んでて思うことがあるんですけど、探偵役って推理が全部まとまってから一気に発表するじゃないですかぁ?」
「そうだな」
「真相がわかってたら、前もって誰かに伝えとくべきなんじゃないかって思うんですよね」
「……なんで?」
「だってぇ、次に探偵役が狙われて殺されてでもしたら、誰かがまた同じように謎を解き明かさないといけなくなるじゃないですか。これって、二度手間になっちゃいません? ってか、その事件が未解決になっちゃうかもしれないですよ」
「……確かにそれもそうだ」
「せっかくだから、今回の事件でわかったことを共有したいなと思ったんですけどぉ、高崎先輩は真相に辿り着けました?」
「いや、まだ何も」
「またまたぁ、謙遜しちゃってぇ」
「ホントに、まだ全然わからないんだ。パズルのピースみたいに、あと一つわかれば、全体像が見えるっていうか、そういう気がするんだけど……。その一ピースが、たくさんのピースの中に埋もれてるっていう感じかな。って、言ってることわかる?」
「そっかぁ。ちょっと何言ってるかわからないんですけど、要するにまだわかんないってことですよね」
「平たく言えば、な」
「生徒会もまだ何もわかってないんで、もし新聞部のほうでわかったことがあればすぐに伝えてくださいね」
「ああ」
「あっ。電車が来ますよ」
 電車が冷たい風を起こしながら、ホームへとやってきた。
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