不老不死になって困ってます!

東雲

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1章

1.銀髪美幼女になりました

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こいつなに言ってるんだって思うかもしれないんだけどボクこと七宮誠、16歳は銀髪美幼女にTS転生してしまいました。


■■■


まどろみから覚めたような感覚。さっきまで夢を見ていた。

異世界に転生する夢。

夢のなかのボクは王様の娘でいわゆる王女様でみんなに愛されすくすく育っていくそんな夢を。

いやぁ美形ばかりだったから目の保養になりましたなりましたよ。


夢の中のボクもかなり可愛かった。年齢は3歳で雪のような白い肌、空より済んだ水色の瞳、腰まで伸びたダイヤモンドを思わせる煌めく銀髪。触れれば割れてしまいそうな儚さを持つ少女。

王様...父上が溺愛するのも頷ける。僕もこんな可愛い娘の父だったら目にいれても痛くないほど可愛がっだろう。


しかもあの鈴を転がすような声

「ふぁぁ...。」

そうそうこんな感じのーーー

「ありぇ?」

あれれれ!?ボクの声とは思えないほど高い。この透き通った声は夢の中の...


目の左右に見える銀色の髪のようなもの。

引っ張てみた。

「いたいっ!」


落ち着いて落ち着くんだボク。

うん。これはあれだ夢だ夢なんだ!

顔でも洗って寝ぼけた頭を覚醒させよう。


よっこいせと体を起こす。視線の先、部屋の壁側には趣向を凝らした上等な三面鏡。そこに映るのは天使かと錯覚するほどの美しさをもつ幼女。


ここまでくれば流石にわかる。現実逃避はできない。


どうやら僕こと七宮誠、16歳は銀髪美幼女にTS転生してしまいました。


さようならボクのボク。ぐすん。

女の子っぽいってよく言われていたけどホントに女の子になるなんて。


■■■


さて、いつまでも哀愁にひたっている場合ではない。

状況を整理しないと。


豪華なベッドに女の子座りで頬に手を添えうんうんと考える。

前世には家族はすでにいなかった。ボクは物心ついたころには孤児院にいた。心残りなのは同じ孤児院で育った幼馴染、未来のことだけだが彼女なら大丈夫だろう。


まずは自分のことを心配しないと。


僕には転生したことを自覚するまでに記憶がうっすらとある。夢だと思っていたのはこの体の記憶らしい。というより前世の記憶を取り戻したといったほうが正しいのだろう。この体、記憶に違和感を感じない。けど女の子にはなったけどボクは男を好きにはなれそうにはない。


さて今の状況についてまとめると

1、ここは異世界

2、ボクは王女で美幼女

3、王族特有のユニークスキル保持者


ここは異世界でステータスの概念が存在している。みんな大好き魔法やスキルも当然存在している。ボクはこの世界にある王国の王女様。この世界のなかでは中規模な国で王族と国民の関係は良好。ボクは持ち前の愛らしさで多くの人から可愛がられ絶大な人気を誇っていた。国の行事には引っ張りだこなのだ!


そしてお待ちかね!転生特典チート!

この世界の王族には王族特有の能力と特殊なスキルが発現することがあるらしく、その能力とスキルを使って国を発展、維持、豊かにさせるのが王族の役目らしい。


なんとボクにも未覚醒ながらユニークスキルを持っていることが分かっているのだ。これはワクワクせずにはいられないよね!

ステータスは鑑定スキルを持っていないと確認できないため。スキルを確認出来のがもどかしい。


柔らかなベッドの上ではしゃぐ。

「わーいわーい!チート異世界最強だ!えへへ。」

恥ずかしながらボクはこういう異世界転生ものが大好きなのだ。


コンコンコン

ドアからノックする音が聞こえる。

「お嬢様、失礼します。」

メイドさんが部屋に入ってくる。この人は私付きの専属メイド。たしか10歳にして魔術学校を飛び級で卒業した天才でワイズマンの称号を与えられている。二年前にその腕を見込まれて私のメイドになった。肩まで伸びた黒髪でスレンダーな美人系の女の子だ。


そんな美人さんはベッドをつまりはボクは見て固まる。

「...お嬢様?」

「うん、おはよう。リズ。」

首をコテンと傾げ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているリズを見る。


「リズ?」

リズはこの部屋を掃除するために持ってきたであろう道具を手から滑らせ私のほうにまっすぐ物凄い速さで向かってくる。いや早すぎ!?今の一瞬で身体強化に風の加護を使用して飛び掛かってきた。

「あびゃ!?」

変な声がでたよ。

「お嬢様!お嬢様!よかったよかったよぉ

あのまま目覚めないと思っていました。良かった本当に良かったです。うっうぅ。」

涙と嗚咽を漏らしながら離さないと強くボクを抱きしめる。美少女に抱きしめられるのはやぶさかでもありませんが。

これは一体どういう状況ですか。


泣くだけ泣いて落ち着いたリズから話を聞くとボクは1週間ほど眠っていたらしく、王国中の医者が匙を投げ、もう目覚めないと思われていたらしい。


多分、この1週間はボクが前世の記憶を取り戻したことで脳が耐えられず寝込んでしまったのだろう。


「こうしてはいられません!すぐに王様のところへ行きましょう!」


リズはこうしてはいられないとばかりにボクの手を引っ張り王様、父上のところへ連れて行こうとする。

「あ、」

リズに引っ張られて立とうとしたが足がもつれて躓いてしまった。一週間も寝たため体が弱っているのかもしれない。


「ももも、申し訳ございませんっ!」

先ほど止んだ涙を再び流しながら必死に誤ってくる。

「だ...いじょうぶ...らよ。」

「可愛い...tabetyaitai。」

っ!?背中に悪寒が走った。き、気のせいだろう。


身を震わせているとリズがボクの額に手を添えた。

「お嬢様のステータスを確認しますね。えへへお嬢様のおでこ。」

悪寒は気のせいではなかったようだ。


というかいまステータス確認って言った!?

やった!転生してこんなに早くステータスを確認できるとはツイている。

目を輝かせてワクワクしながら待っているとリズは急に深刻な顔になった。


「お嬢様...私はお嬢様の味方ですからね。眠れ『ソムニウム』。」

えっ?どういうこ...t..


ボクの意識はここで途絶えた。


■■


(リズベット視点)

私はリズベット・ワイズマン・フランベルジュ。恐れながらもワイズマンの称号を賜り、お嬢様、フィリア・グランお嬢様の専属メイドになったものです。

お嬢様は国中から愛されていた。私も初めて見たときはお人形かと思うほど美しさに言葉を失ったものです。彼女の美しさを形容する言葉を私は知らなかった。


彼女に近づきたい。あの美しさを私が守りたい。そう思い私はワイズマンの伝手を使ってなんとかお嬢様のメイドになったのだ。お嬢様のメイドになりたい人間は多かったらしいが専属メイドには家柄に戦闘能力、忠誠心が求められ厳しい基準があった。

私はこの基準に加えワイズマンというアドバンテージがあった。

ワイズマンというのは魔法の真理にたどり着いたものに与えられる称号で国に5人もいないのです。そんな私はなんとかお嬢様のメイドになって充実した日々を過ごしていました。


ですが先日、お嬢様は謎の病に倒れ寝込んでしまわれました。医者たちは皆、匙を投げ目覚めることを祈るしかないと。


国王様に王妃様、フィリア様の姉上、兄上も悲しみました。この一週間、このお城に漂う空気は尋常ではありませんでした。私も憂愁に閉ざされていました。

さきほど目覚めたお嬢様を見るまでは。


今までの沈んだ心が一気に晴れ渡りました。


さっそく王様にお嬢様が目覚めたと、その姿をお見せしなければと思いました。

「こうしてはいられません!すぐに王様のところへ行きましょう!」

お嬢様の手を取ってベッドから出ようとしたらお嬢様は躓いて

「あ、」

可愛らしい声を漏らして柔らかなシーツの上に身を沈めてしまいました。


「ももも、申し訳ございませんっ!」

お嬢様は一週間も眠って身体が弱っているというのに私はなんてこと!?


「だ...いじょうぶ...らよ。」

顔は少し赤みがかり目尻に涙を溜め私を心配させないように言葉をかけてくれました。

なんて天使なのだろう。


「可愛い...tabetyaitai。」

おっといけません。欲望が少しばかり漏れ出てしましました。

お嬢様は身を震わせています。これはきっと躓いて顔をシーツに沈めたときの痛みが原因だと思います。異論は認めません。


目覚めたばかりのお嬢様のお体に異常がないか確認することにしました。これをまず最初にするべきでした。ワイズマンともあろうものが慌ててしまいました。

鑑定スキルを使うときには通常、鑑定対象に触れる必要があります。魔力を対象に流すことで情報を得ることができるのです。


そっとお嬢様の可愛らしい額に手を添えます。

「お嬢様のステータスを確認しますね。えへへお嬢様のおでこ。」

なんてお嬢様は可愛らしいのでしょうか。

お嬢様のオデコを堪能してから『鑑定』を発動しました。

これは...


◆◆◆

名前 フィリア・グラン 

年齢 3歳

種族 人間(未覚醒)

職業 王族

レベル 1


筋力 8

体力 10

魔力 1500

敏捷 5


ユニークスキル

<魅了><不死> 《未覚醒(不老不死)》


称号

<愛されしもの><神に連なるもの><永遠の美少女>

◆◆◆


これは...私は言葉を失いました。一般人のステータスの数値は50程度。なのにお嬢様はワイズマンである私を上回る魔力を持っています。前は下町を走り回っている子供たちとおなじくらい、いやそれよりも低いステータスだったのに魔力が異常に上がっています。


それ以外にも不明な点がいくつもあります。

いま重要なのはユニークスキルと称号。魅了はよくあるスキルですが...不老不死。

これはいけない。戦争が起きてしまいます。


この国の王族にはユニークスキル以外に特殊な能力があります。

それはスキル付与。

自分のスキルを他人に付与するというものです。当然、オリジナルよりかは効果は劣化してしまいます。

付与する際には代償が必要だと聞いたことがあります。

ですがグラン王家はこの力で国を守ってきました。


王族にスキルを付与されることはこの国では最大の名誉になります。代償を支払ってまでスキルを与えられるということ。それは王族から最大の信頼を得ているという証拠になります。

私もお嬢様にスキルを付与されること夢見てきました。しかし...



私は神を恨みます。もしお嬢様のスキルが明るみに出てしまったら戦争は免れません。人類史が始まって3回目の大戦が。

前回の大戦は宗教戦争。一回目はお嬢様と同じ不老不死のスキルをもつ人間を巡って。

当然のことでしょう。


不老不死。劣化するとはいってもスキル付与された不死の力の一端を得ます。最強の軍団を作ることだって容易い。この世界のトップにたつことだってできるでしょう。この当時の不老不死をもつ人間は最後には心が壊れ、哀れに思った神の手によって天へと召されたそうです。


グラン王国はお世辞にも大国とはいえません。東の列強に狙われればひとたまりもないでしょう。特に帝国はこのこと知ればお嬢様の身柄を要求するでしょう。断れば力づくででも。

敵は他国だけではありません。この国の貴族連中も黙っていないでしょう。


私はリズベット・ワイズマン・フランベルジュ。「煉獄の魔王」です。ワイズマン、いいえ魂にお嬢様を守ると誓います。


「お嬢様...私はお嬢様の味方ですからね。眠れ『ソムニウム』。」


まずは王様に...ご報告です。


■■■


場所は変わって帝国。グラン王国の城がみすぼらしく見える大きさ。流石大陸最強の国であると改めて実感する。


「王子。」

数ある部屋の中でも質素ながらにたしかに豪華さ感じさせるそこに一人の男がいた。男というと誤解させてしまったかもしれない。齢15ぐらいで青年になり始めている。野性を感じさせる目にプラチナブロンドの髪。背中に帝国の象徴である竜の刺繍をあしらったマントを羽織っている。

しかし声の主は彼ではないようだ。

「お耳に入れたいことが。」


「どうした。俺様は暇じゃねーんだが。しょうもねぇことなら...潰すぞ。」

王子と呼ばれた少年から尋常ではない殺気が放たれる。


少年の影から黒装束をまとった者がひざまずいた状態で姿を現す。

彼らは影と呼ばれる帝国の諜報部隊だ。

「聖女が目覚めたとリアス様から」


一瞬の沈黙が流れ

「ふ、ふふふははははははは!

そうか!そうであるか大儀であったぞ影よ!」

枷が外れたかのように笑い出す。

影なる者は聖女がいかなる者なのかは知らない。ただこの少年の姉、リアス第一王女から言付けを仕事を頼まれただけ。星詠み結果を。


恐れ多くもその聖女なるものが気になった影は王子に問いかける。

「王子、教えていただけないでしょうか。」

「なんだ今の俺様は非常に機嫌が良い。」

「聖女とはいったい何者なのでしょう?大陸最強の王族の方々が気に掛けるほどのものなのですか。」


少年は自分の影に跪く影の方に視線を向ける。

「聖女はな帝国の覇権をさらなるものにするために必要なものであり、俺たち王位継承者が得たら皇帝になることが確約される。大事な大事なモノだ。」

「はかりかねます。」

「はぁ。いいか聖女はなグラン王族の不老不死スキル持ちだ。ここまで言えばわかるだろう。」

影は息を飲んだ。スキル付与能力を持つグラン王国の王族たち。しかも不老不死となれば喉から手が出るほど欲しがる人間は多いだろう。

「帝国は確かにこの大陸最強だといわれているがぁ。一枚岩じゃねぇ。」

そう帝国はその大きさゆえにまとまっているとは言えない。今は現皇帝のスキルでなんとか形を保っているだけなのだ。

皇帝に近い権力を持つ貴族家はいくつかある。テッラ公爵にフェンガリ公爵、アッケンデーレ辺境拍。

帝国が一枚岩になればさらなる強さを得られるだろう。そのためにはすべてを従える力がなければならない。

それに帝国に対抗し得うる大国は存在している。協力されれば負けてしまうこともあり得るだろう。そのためにも聖女が必要なのだ。

「俺様が皇帝になる。世界を手にすんのは俺だ。姉上にもこれは譲れねぇ。」

影は震えていた。今の話が本当ならこの大陸に大きな転換期が訪れるだろう。大戦以来の。


「さて、俺様は機嫌が良い。だからお前は俺が殺してやる。」

「え?」

この王子はなにを言っているのだ。

「姉上のことだ。情報漏洩を阻止するためにお前を殺すだろう。あいつは拷問マニアだからな。俺からの褒美として苦痛なき死をーーー」

影は持てるスキルを発動させ

「最後まで言わせろ戯けが。」

る暇もなく首を跳ねられた。


いつの間に抜いたのか剣についた血を払い鞘に納める。

「あはは!忙しくなるぞ。」

楽しみで仕方ないそんな感情が詰まった笑い声が血の広がる部屋に木霊する。
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