世界史上最強になったヒトが突然告白するというので動揺する傍観者

人藤 左

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気付いてもらえないときのこと

番台の液体ちゃんと12進数について

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「いらっしゃいませ!」
 大きな引き戸の入り口を開けてすぐ、男湯女湯を分け隔てる壁から迫り出した番台に、そいつはいた。

「お久しぶりです、ナナさん」
「ミクですぅー!」

 声……というか音を立てて、それは抗議する。

 その正体こそ2Lのペットボトル。その7分目ほどにまで満たされた液体こそ、ナナさんことミクさんだ。声に聞こえるのはペットボトルと水の振動によるものだ。振動は音になり、意味や感情が重なれば声になる。

 ミクさんはこの通り液体で、1.4キロから2キロくらい。長さや太さは液体なので変幻自在、ボトルの外では14センチほどの少女の形を取る。揮発していくと疲れるらしいので普段はボトルに居ついていて、7分目まで収まるのが良い心地サイコーなのだとか。多過ぎても太ったみたいで嫌、少なくても痩せぎすに見えて嫌、ということで7分目。ナナさんだ。

「失礼しました、ミクさん」
「そうですそうです。ナナさんでは10ですからね、わたしは十二分な女なのです!」

 ……7+3と3+9の話か。ミクさんは十二分、という言葉を好んでいる(ベルさんの同胞のレヴィのアホは十全とかいうけれど、それはまた別の話)。ただミクさんの言い分が正しければ、

「ミクちゃん、ミクさんだと15だよ」
「じゅうご?」

 ミッコサンさんの指摘に、ミクさんは首を傾げる。会話が成立しているので勘違いしがちだが、彼女はあくまで液状生命体……愛嬌溢れるスライム娘とでもいうべきものなのだ。当然知能にも差があり、ミクさんの場合12までしか数えられない。ぶっちゃけ可愛いと思う。

「じゅうご? ってなんです?」
「12より3多い、ってことですよ」
「わぁー!」
 ペットボトルの中でぐるぐるばちゃばちゃと喜ぶミクさん。愛嬌どころか愛くるしさだ。連れて帰りたい。

「『ミクさん』! ミクさんって呼んでよミッコ!」

 声になった音のほか、高音域の周波がぴぃー、と鳴る。気が昂まるような音だ。さっき振動を応用して声にしている、と説明したが、ミクさんにとってそれはコミュニケーションに必要だからだ。本来は音域で会話をする種族らしく、この高さは溢れ出る喜びを表している……らしい。あまりの可愛さにこの前聞いたのだけれど覚えていない。

「かわいいなぁ」

 そういえば綾のところのゴン(犬(実はタヌキ。八代家は誰も気付いておらず犬として飼っている))にもしばらく会っていない、などと思っていたら思わず口をついてしまった。

「……ふむ。a……A……こうかな?□□□□、□□……」
「ぴい⁉︎ お、お代はその、そこ! そこかのこむね、ひのゆ……」

 重ねて言うが、ミクさんはあえて振動を調整して声にしている。つまり、テンパると調整が上手くいかずこうなってしまう。

 それよりなによりミッコさんだ。低く唸ったソレは、どうもミクさんたちに通じる言語としての音声だったらしい。僕もカラスの鳴き真似くらいはできるが、さすがはミッコさんだ。

「お代はここに置いとくよ、可愛い子ちゃん。□□□、□□□□□□」

 二人分の代金を支払って、ミッコさんは女湯の暖簾をくぐった。一番困るパターンだ。
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