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第二章 運命が動き始める
振り返らない、決して
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式の後、祝宴が開かれた。豪華な料理、音楽、踊り。
でも、エリアナとアレクシスは、早々に席を立った。
「北へ向かう準備がある」
アレクシスはそう言って、エリアナを連れ出した。
エリアナは屋敷に荷物を取りに戻った。持っていくべきものは、すでにまとめてある。――というか、「ほとんどない」というのが正しい。服も、思い出の品々も、ほんのわずかだ。
リリアーナは、まだ祝宴で楽しんでいる。
継母も、父も、エリアナに別れの挨拶すらしなかった。
でも、マルタだけが、涙を流して見送ってくれた。
「お嬢様、お幸せに……」
「ありがとう、マルタ。あなたは、わたくしに優しくしてくれた唯一の人です」
二人は抱き合った。
そして、エリアナは屋敷を後にした。
振り返らなかった。
この場所には、もう何も残っていない。
アレクシスの馬車が、すでに待っていた。漆黒の馬車だ。扉にはヴァルモント家の紋章が刻まれている。
「準備はいいか」
「はい」
エリアナは、馬車に乗り込んだ。アレクシスも隣に座った。
馬車が動き出す。王都が見る見る遠ざかっていく。
エリアナは窓の外を見つめた。
さようなら。この街に、この家に、すべての過去に。
そして、こんにちは。新しい人生に。
たとえそれが、どんな未来であっても。
隣では、アレクシスが静かに座っていた。
エリアナは、そっと彼を見た。
横顔は、彫刻のように整っている。でも、よく見ると、どこか疲れているようにも見える。
「アレクシス様」
「何だ」
「北の城は……どんなところですか」
アレクシスは、少し考えてから答えた。
「寒い。でも、美しい。雪が降れば、世界が真っ白になる。星が、手に届きそうなほど近い」
その声には、わずかだが温かさがあった。
「あなた様は、そこがお好きなのですね」
「ああ。私の居場所だ。そして、これからは——」
彼は、エリアナを見た。
「君の居場所でもある」
その言葉に、エリアナの胸が温かくなった。
居場所。
それは、エリアナがずっと求めていたもの。
「楽しみです」
エリアナは、心からそう言った。
◇
そして、二人は北へと向かった。
馬車は、何日もかけて山を越え、森を抜け、どんどん北へ。
景色が変わっていく。温暖な王都から、涼しい高原へ、そして雪の残る北の大地へ。
道中、アレクシスは多くを語らなかった。でも、エリアナの体調を気遣い、休憩を取らせ、温かい飲み物を用意してくれた。
ある夜、宿屋に泊まった時、エリアナは窓から星空を眺めていた。
「眠れないのか」
アレクシスが、隣に来た。
「星が、綺麗で……」
「北の城では、もっと綺麗に見える」
「本当ですか」
「ああ。君に、見せたいものがたくさんある」
その言葉が、エリアナには新鮮だった。
誰かが、自分に何かを見せたいと言ってくれる。
誰かが、自分と何かを共有したいと思ってくれる。
「わたくしも、楽しみにしています」
アレクシスは、小さく微笑んだ。
それは、とてもわずかな、ほんの少しの笑みだったけれど。
エリアナは、初めて彼の笑顔を見た。
そして、気づいた。
この人は、悪魔なんかじゃない。
ただ、孤独だっただけ。
自分と同じように。
でも、エリアナとアレクシスは、早々に席を立った。
「北へ向かう準備がある」
アレクシスはそう言って、エリアナを連れ出した。
エリアナは屋敷に荷物を取りに戻った。持っていくべきものは、すでにまとめてある。――というか、「ほとんどない」というのが正しい。服も、思い出の品々も、ほんのわずかだ。
リリアーナは、まだ祝宴で楽しんでいる。
継母も、父も、エリアナに別れの挨拶すらしなかった。
でも、マルタだけが、涙を流して見送ってくれた。
「お嬢様、お幸せに……」
「ありがとう、マルタ。あなたは、わたくしに優しくしてくれた唯一の人です」
二人は抱き合った。
そして、エリアナは屋敷を後にした。
振り返らなかった。
この場所には、もう何も残っていない。
アレクシスの馬車が、すでに待っていた。漆黒の馬車だ。扉にはヴァルモント家の紋章が刻まれている。
「準備はいいか」
「はい」
エリアナは、馬車に乗り込んだ。アレクシスも隣に座った。
馬車が動き出す。王都が見る見る遠ざかっていく。
エリアナは窓の外を見つめた。
さようなら。この街に、この家に、すべての過去に。
そして、こんにちは。新しい人生に。
たとえそれが、どんな未来であっても。
隣では、アレクシスが静かに座っていた。
エリアナは、そっと彼を見た。
横顔は、彫刻のように整っている。でも、よく見ると、どこか疲れているようにも見える。
「アレクシス様」
「何だ」
「北の城は……どんなところですか」
アレクシスは、少し考えてから答えた。
「寒い。でも、美しい。雪が降れば、世界が真っ白になる。星が、手に届きそうなほど近い」
その声には、わずかだが温かさがあった。
「あなた様は、そこがお好きなのですね」
「ああ。私の居場所だ。そして、これからは——」
彼は、エリアナを見た。
「君の居場所でもある」
その言葉に、エリアナの胸が温かくなった。
居場所。
それは、エリアナがずっと求めていたもの。
「楽しみです」
エリアナは、心からそう言った。
◇
そして、二人は北へと向かった。
馬車は、何日もかけて山を越え、森を抜け、どんどん北へ。
景色が変わっていく。温暖な王都から、涼しい高原へ、そして雪の残る北の大地へ。
道中、アレクシスは多くを語らなかった。でも、エリアナの体調を気遣い、休憩を取らせ、温かい飲み物を用意してくれた。
ある夜、宿屋に泊まった時、エリアナは窓から星空を眺めていた。
「眠れないのか」
アレクシスが、隣に来た。
「星が、綺麗で……」
「北の城では、もっと綺麗に見える」
「本当ですか」
「ああ。君に、見せたいものがたくさんある」
その言葉が、エリアナには新鮮だった。
誰かが、自分に何かを見せたいと言ってくれる。
誰かが、自分と何かを共有したいと思ってくれる。
「わたくしも、楽しみにしています」
アレクシスは、小さく微笑んだ。
それは、とてもわずかな、ほんの少しの笑みだったけれど。
エリアナは、初めて彼の笑顔を見た。
そして、気づいた。
この人は、悪魔なんかじゃない。
ただ、孤独だっただけ。
自分と同じように。
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