【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら

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第五章 嵐の予兆

胸騒ぎ

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「アレクシス・ヴァルモント公爵……あの男を、あなたのものにするのよ」
「え?」

 リリアーナは、目を見開いた。

「でも、彼はすでにお姉様の夫で……」
「だからこそよ」

 マルグリットは、冷たく笑った。

「エリアナから全てを奪う。夫も、地位も、幸せも。そうすれば、あの子は再び、惨めな境遇に落ちる」
「でも、公爵はお姉様を愛して……」
「男なんて、単純なものよ。美しい女に誘惑されれば、簡単に心変わりする」

 マルグリットは、リリアーナの肩に手を置いた。

「あなたは、エリアナよりずっと美しい。その美貌を使えば、公爵を誘惑するなんて簡単よ」

 リリアーナは、迷った。
 確かに、アレクシス・ヴァルモントは魅力的な男だ。「悪魔公爵」のレッテルが剥がれ、人間らしい、優しい表情を見せるようになったことで、彼の魅力がはっきりした。
 財力も、地位も、容姿も——全てが完璧。
 そして何より、彼が本当に妻を愛している姿が、羨ましかった。

「お母様。でも、わたくしにも夫があるのよ。夫以外の殿方を、その……誘惑しろというの?」
「表沙汰にならないように、うまくやりなさい。それに……アンリ様とあなたは、それほど愛し合っているわけではないでしょう? あなたが知らないだけで、アンリ様だって他所よそで色々やってるんじゃないの?」

 痛いところを突かれ、リリアーナは唇を噛んだ。
 アンリは女好きだ。浮気をしているのではないかと感じたことは、何度もある。

「わかった。やるわ。でも、どうやって……?」
「来週、王宮で大きな舞踏会があるでしょう。そこで、チャンスを作るのよ」

 マルグリットは、計画を語り始めた。
 邪悪な計画を。




 舞踏会の日が来た。王宮は、いつも以上に華やかに飾られていた。

 エリアナは、サファイアブルーのドレスに身を包んでいた。髪は優雅に結い上げられ、首には琥珀色のネックレスが輝いている。

「美しい」

 アレクシスが熱い瞳で彼女を見つめた。

「あなたも、素敵です」

 エリアナは、微笑んだ。

 二人は、舞踏会場に入った。いつものように、人々の視線が集まる。

「ヴァルモント公爵ご夫妻」
「今夜も、お美しい」

 賛辞が、飛び交う。

 エリアナとアレクシスは、王と王妃に挨拶をした後、広間を歩いた。
 音楽が流れ、人々が踊っている。

「一曲、踊らないか」

 アレクシスが、手を差し出した。

「喜んで」

 二人は、ダンスフロアへ。
 いつものように、完璧な調和で踊る。
 周囲の人々が、感嘆の目で見つめている。

 曲が終わり、エリアナは急に、どうしようもないけだるさを感じた。
 ――国王夫妻に挨拶した後で軽く口をつけたお酒のせいだろうか。
 エリアナはそれほど酒に強くない。グラス一杯で酔ってしまうこともある。

 アレクシスは、エリアナをテラスのベンチに腰かけさせた。

「ここで待っていてくれ。飲み物を取ってくる」
「ありがとうございます」

 アレクシスが去った後、エリアナは一人で夜空を見上げた。
 星が、美しく輝いている。

 幸せだった。
 こんなに幸せでいいのだろうか、と思うほど。

「お姉様」

 聞き覚えのある声が響いた。振り向くと、リリアーナが立っていた。
 豪華な白いドレスを着て、プラチナブロンドの髪を流行の型に結い上げている。「百年に一度の美女」ぶりは健在だった。

「リリアーナ……」
「一人なの? ヴァルモント公爵は?」
「飲み物を取りに行ってくれています」
「そう」

 リリアーナは、エリアナのすぐ前に立った。

「最近のお姉様はとても輝いているわね」
「ありがとう」
「でも」

 リリアーナの声が、不穏な響きを帯びた。

「それも、今夜までかもしれないわね」
「……どういう意味?」

 エリアナは眉をひそめた。

 リリアーナは微笑みを浮かべた。この上なくあでやかで、この上なく邪悪な微笑み。

「すぐにわかるわ。楽しみにしていてね、お姉様」

 ドレスの裾をひるがえして、リリアーナは立ち去った。
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