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第七章 新しい始まり
リリアーナの運命
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「ドレスに着替えてくるわ」
と言い残して自分の部屋に戻ったリリアーナは、窓から抜け出した。
手の甲で涙をこすりながら、夕暮れ時の街を駆けた。
この街には、知り合いはいない。頼れる先がない。
だけど――母みたいに、男の相手をしてお金をもらうなんて、絶対に嫌だった。
町外れに教会があった。
扉が半開きになっていて、中から灯りが漏れている。
リリアーナはこれまでの人生で、教会に足を踏み入れたことは一度もない。
神にすがるなんて、無学な貧乏人のすることだと思っていた。
教会なんて、みじめな人たちのための場所だ。
けれども今のリリアーナには、半開きの扉が、自分を招いているように見えた。
ぎぃっと音を立てて、古びた扉を押し開ける。
中にいた、神父らしい初老の男性が、驚いたように振り返った。
「お願いです! 助けてください!」
リリアーナは叫んでいた。
神父は何も尋ねなかった。リリアーナにパンと温かいスープを勧め、教会に泊めてくれた。
「わたくし……自分一人で生きていけるようになりたいんです」
というリリアーナに、仕事まで紹介してくれた。
町外れの農場で、若い働き手を探しているという。
農場での暮らしは、リリアーナが想像もできないほど過酷だった。
びっくりするほど粗末な部屋に、乏しい食事。
朝早くから日暮れまで、ずっと働かせられる。
お嬢様育ちのリリアーナは、手際が悪い。もたもたしていると、農場のおかみの、
「なにやってるんだい! ぐずな子だね!」
という厳しい叱責が飛ぶ。
くじけそうだったが、リリアーナは必死で喰らいついた。
なぜなら、他に行くあてがないからだ。
祖国には戻れない。両親の元にも、帰りたくない。
足の筋肉痛がひどくて眠れない。泣きながら寝台に横たわっていると、おかみが来て、足をマッサージしてくれた。力強い、太い指に揉まれて、足の痛みはやわらいだ。
農場で働く「仲間」の女の子が、そっと、干した果物を持ってきてくれた。
固くて甘い果物を噛みながら、リリアーナは涙をこぼした。
痛みや悲しみ、恨みの涙ではない。
生まれて初めての感情。
十日後。リリアーナの様子を見に、神父が農場を訪れた。
リリアーナは畑で作業をしながら、神父と農場主が立ち話をしているのを眺めた。
二人の会話が風に乗って流れてくる。
「……素直で、まじめな子だ。よく働く。……いい子を紹介してくれましたね、神父さん」
リリアーナは、飛び上がりたいほどうれしかった。
両親以外の人が、自分の中身をほめてくれたのは、初めてだったのだ。顔以外のことでほめられるのは。
この喜びを、どうしても誰かに伝えたい。
でも、両親には、決して理解できないだろう。
祖国の友人とも、とっくに縁が切れている。
リリアーナは、姉に手紙を送ることにした。
毎日がんばって働いていること。
粗末な食事でも、体を動かした後だと美味しく感じられること。
まじめな働き者だとほめられたこと。
仕事の後に、月明かりを頼りに書きつづった。
と言い残して自分の部屋に戻ったリリアーナは、窓から抜け出した。
手の甲で涙をこすりながら、夕暮れ時の街を駆けた。
この街には、知り合いはいない。頼れる先がない。
だけど――母みたいに、男の相手をしてお金をもらうなんて、絶対に嫌だった。
町外れに教会があった。
扉が半開きになっていて、中から灯りが漏れている。
リリアーナはこれまでの人生で、教会に足を踏み入れたことは一度もない。
神にすがるなんて、無学な貧乏人のすることだと思っていた。
教会なんて、みじめな人たちのための場所だ。
けれども今のリリアーナには、半開きの扉が、自分を招いているように見えた。
ぎぃっと音を立てて、古びた扉を押し開ける。
中にいた、神父らしい初老の男性が、驚いたように振り返った。
「お願いです! 助けてください!」
リリアーナは叫んでいた。
神父は何も尋ねなかった。リリアーナにパンと温かいスープを勧め、教会に泊めてくれた。
「わたくし……自分一人で生きていけるようになりたいんです」
というリリアーナに、仕事まで紹介してくれた。
町外れの農場で、若い働き手を探しているという。
農場での暮らしは、リリアーナが想像もできないほど過酷だった。
びっくりするほど粗末な部屋に、乏しい食事。
朝早くから日暮れまで、ずっと働かせられる。
お嬢様育ちのリリアーナは、手際が悪い。もたもたしていると、農場のおかみの、
「なにやってるんだい! ぐずな子だね!」
という厳しい叱責が飛ぶ。
くじけそうだったが、リリアーナは必死で喰らいついた。
なぜなら、他に行くあてがないからだ。
祖国には戻れない。両親の元にも、帰りたくない。
足の筋肉痛がひどくて眠れない。泣きながら寝台に横たわっていると、おかみが来て、足をマッサージしてくれた。力強い、太い指に揉まれて、足の痛みはやわらいだ。
農場で働く「仲間」の女の子が、そっと、干した果物を持ってきてくれた。
固くて甘い果物を噛みながら、リリアーナは涙をこぼした。
痛みや悲しみ、恨みの涙ではない。
生まれて初めての感情。
十日後。リリアーナの様子を見に、神父が農場を訪れた。
リリアーナは畑で作業をしながら、神父と農場主が立ち話をしているのを眺めた。
二人の会話が風に乗って流れてくる。
「……素直で、まじめな子だ。よく働く。……いい子を紹介してくれましたね、神父さん」
リリアーナは、飛び上がりたいほどうれしかった。
両親以外の人が、自分の中身をほめてくれたのは、初めてだったのだ。顔以外のことでほめられるのは。
この喜びを、どうしても誰かに伝えたい。
でも、両親には、決して理解できないだろう。
祖国の友人とも、とっくに縁が切れている。
リリアーナは、姉に手紙を送ることにした。
毎日がんばって働いていること。
粗末な食事でも、体を動かした後だと美味しく感じられること。
まじめな働き者だとほめられたこと。
仕事の後に、月明かりを頼りに書きつづった。
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