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第一章 忌まわしき生贄
竜の山へ
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馬車は、街道を北へと進んだ。
竜の山は、王都から三日の道のり。その間、アリアーナは護衛の騎士たちと共に旅をする。
騎士たちは、彼女に同情的だった。休憩の時には、温かい食事を用意し、毛布を貸してくれた。彼らの優しさが、アリアーナにはかえってつらかった。
二日目の夜、野営地で焚き火を囲んでいた時、年かさの騎士が話しかけてきた。
「アリアーナ様。さぞかし怖いでしょう。よろしければ、騎士団に伝わる、恐怖のまぎらわせ方をお教えしますが」
「いいえ」
アリアーナは首を振った。
「不思議ですけれど、恐怖は感じていません。むしろ、好奇心の方が強いくらいです」
騎士たちは驚いた顔をした。
「竜王がどんな存在なのか、この目で見てみたいのです。本で読んだことが、本当なのか知りたい」
「なんと…勇敢な」
「勇敢なのではありません」
アリアーナは微笑んだ。それは、この数日で初めての本物の笑顔だった。
「ただ、知りたいだけです。真実を。この世界の秘密を」
焚き火の炎が、彼女の顔を赤く照らしていた。
三日目の夕暮れ、ついに竜の山が見えてきた。
それは、想像を遥かに超える光景だった。山というよりも、天に突き刺さる巨大な岩の塔。頂上は雲に覆われ、見ることができない。山肌は黒く、植物一つ生えていない。まるで、世界の果てのような場所。
馬車は山の麓で止まった。ここから先は、徒歩で登るのだという。
古代に作られたらしい石段が、山肌に沿って延々と続いている。
前後を騎士に挟まれるようにして、アリアーナは石段をのぼった。
手には、竜の本だけを持っている。母のネックレスが首元で揺れる。
石段は、果てしなく続いていた。一段、また一段と登るたびに、足が重くなる。白いドレスの裾が、石で汚れていく。息が切れ、汗が額を伝う。
けれど、立ち止まるわけにはいかない。
騎士たちは、アリアーナのペースに合わせてくれている様子だったが、それでもこの終わりの見えない登山はきつかった。
どれくらい登っただろう。空が茜色に染まり、やがて紫に変わっていく。星が瞬き始めた頃、ようやく頂上が見えてきた。
そこには、古代の祭壇があった。
巨大な石で作られた円形の祭壇。中央には、鎖が用意されていた。生贄をつなぐための鎖。
「失礼します」
騎士たちは、礼儀正しい態度で、アリアーナの手首と足首に鎖を巻きつけた。
鎖は長いので、かなり自由に動くことができる。けれども、祭壇を離れることはできなくなった。二度と。
重く冷たい金属が肌に食い込み――アリアーナは初めて、激しく恐怖した。
「アリアーナ様、どうか……」
騎士長は言葉を続けられなかった。何と言えばいいのか、わからないのだろう。
「ありがとうございました。皆さん、お優しくしてくださって」
アリアーナは震え声で答えた。叫び出しそうなのを必死でこらえていた。
こんなことなら、騎士団に伝わるという「恐怖のまぎらわせ方」を、教わっておけばよかった。
下山していく騎士たちの後ろ姿を、アリアーナは涙目で見送った。
竜の山は、王都から三日の道のり。その間、アリアーナは護衛の騎士たちと共に旅をする。
騎士たちは、彼女に同情的だった。休憩の時には、温かい食事を用意し、毛布を貸してくれた。彼らの優しさが、アリアーナにはかえってつらかった。
二日目の夜、野営地で焚き火を囲んでいた時、年かさの騎士が話しかけてきた。
「アリアーナ様。さぞかし怖いでしょう。よろしければ、騎士団に伝わる、恐怖のまぎらわせ方をお教えしますが」
「いいえ」
アリアーナは首を振った。
「不思議ですけれど、恐怖は感じていません。むしろ、好奇心の方が強いくらいです」
騎士たちは驚いた顔をした。
「竜王がどんな存在なのか、この目で見てみたいのです。本で読んだことが、本当なのか知りたい」
「なんと…勇敢な」
「勇敢なのではありません」
アリアーナは微笑んだ。それは、この数日で初めての本物の笑顔だった。
「ただ、知りたいだけです。真実を。この世界の秘密を」
焚き火の炎が、彼女の顔を赤く照らしていた。
三日目の夕暮れ、ついに竜の山が見えてきた。
それは、想像を遥かに超える光景だった。山というよりも、天に突き刺さる巨大な岩の塔。頂上は雲に覆われ、見ることができない。山肌は黒く、植物一つ生えていない。まるで、世界の果てのような場所。
馬車は山の麓で止まった。ここから先は、徒歩で登るのだという。
古代に作られたらしい石段が、山肌に沿って延々と続いている。
前後を騎士に挟まれるようにして、アリアーナは石段をのぼった。
手には、竜の本だけを持っている。母のネックレスが首元で揺れる。
石段は、果てしなく続いていた。一段、また一段と登るたびに、足が重くなる。白いドレスの裾が、石で汚れていく。息が切れ、汗が額を伝う。
けれど、立ち止まるわけにはいかない。
騎士たちは、アリアーナのペースに合わせてくれている様子だったが、それでもこの終わりの見えない登山はきつかった。
どれくらい登っただろう。空が茜色に染まり、やがて紫に変わっていく。星が瞬き始めた頃、ようやく頂上が見えてきた。
そこには、古代の祭壇があった。
巨大な石で作られた円形の祭壇。中央には、鎖が用意されていた。生贄をつなぐための鎖。
「失礼します」
騎士たちは、礼儀正しい態度で、アリアーナの手首と足首に鎖を巻きつけた。
鎖は長いので、かなり自由に動くことができる。けれども、祭壇を離れることはできなくなった。二度と。
重く冷たい金属が肌に食い込み――アリアーナは初めて、激しく恐怖した。
「アリアーナ様、どうか……」
騎士長は言葉を続けられなかった。何と言えばいいのか、わからないのだろう。
「ありがとうございました。皆さん、お優しくしてくださって」
アリアーナは震え声で答えた。叫び出しそうなのを必死でこらえていた。
こんなことなら、騎士団に伝わるという「恐怖のまぎらわせ方」を、教わっておけばよかった。
下山していく騎士たちの後ろ姿を、アリアーナは涙目で見送った。
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